閉じる
閉じる
×
イデオロギー対決議論はもうやめませんか?
--------------------------------------------------------
※(その2)より続きます。 (環球) つまりあなたが言いたいのは、アメリカが台頭した時には、 現在の中国が直面したような多くの周辺国に対処しなくてもよかったという意味で、 「地理」が大きな強みになっていたということですか? (ミア) まさにその通りです。アメリカが1783年に独立を果たしてから 1900年に西半球で地域覇権を達成するまで最も有利に働いたのは、 この地域に他の大国がいなかったという点です。 ヨーロッパの大国、とくにイギリスは西半球に権益を持っておりましたが、 彼らは戦力投射という意味で大きな問題を抱えておりました。 彼らの本拠地は大西洋の向こう側にあったからです。 アメリカは最終的にイギリスを無力化できたのですが、 これはわれわれがあまりにも強力になったからですね。 したがって、アメリカは将来の中国よりも、 はるかに簡単に地域覇権国になれたわけです。 中国がアジアで支配的になる場合に さらに困難な要素として挙げられるのは、核兵器の存在です。 これはいかなる国にとっても影響力の拡大を難しくしてしまいます。 (環球) しかし、「地理」が中国にとって有利になると解釈する人もおります。 なぜなら現在のアメリカも、東アジアにおいては 戦力投射の問題を抱えているからです。 アメリカが衰退しているという人もおりますし、 こうなると中国と比べてアメリカが戦力を集中させるのは難しくなりますよね。 つまり「ピボット」戦略には無理があることになりませんか? (ミア) これはすべて、中国がアメリカと比べてどれほど強力になるのか、 という点にかかってますね。 もし中国が韓国や日本と同じレベルで国民一人あたりのGNPを実現できたら、 そのような話は実現すると見て間違いないでしょう。 こうなると、中国はあまりにも強力になりすぎるために、 アメリカは中国を封じ込めることができなくなります。 別の言い方をすれば、 中国が経済・軍事面であまりにも強力になりすぎて アメリカには封じ込められなくなり、 中国は地域覇権国になるというシナリオですよね。 これはありえないとは思いますが、それでも実現の可能性はあります。 むしろ実現しそうなのは、中国経済が今後も台頭しつつも、 そのペースはこれまでほど急激ではない、というものです。 そうなるとアメリカは中国を封じ込めやすくなりますね。 (環球) すでにアメリカでは「ピボット」戦略が完全に採用される前に失敗した という意見もありますが、あなたの見解はいかがですか? (ミア) このような意見は馬鹿らしいですね。 「ピボット」戦略が効くかどうかを判断するにはまだ時期が早すぎます。 中国が平和的に台頭できるかどうかという問題は 今後の20年から30年かけて試されていくものです。 実際のところ、ここ2年ほどの間では 「ピボット」への動きはまだほとんど見られておりません。 しかしこの事実はあまり意味をなしてません。 それよりも重要な問題は、今後の20年や30年で何が起こるのか、 という点です。 私は中国が今後も発展し続けることになれば、 アメリカがアジアで驚くほどの軍事力を集中させることになると見てます。 (環球) もしそうだとして、あなたはそれでも 「この地域における米中両国の戦争は不可避というわけではない」 という見解が正しいと思っておりますか? (ミア) 私がハッキリ言えるのは、米中間で激しい安全保障競争が行われる、 ということです。しかし米中間で戦争が起こるかどうかというのは別問題です。 慎重な言葉づかいをすれば、 たしかに中国とアメリカが次の30年か40年の間に 実際に戦争を戦うことになる可能性はそれなりにある、ということですね。 もちろん両大戦のようなスケールの戦争になるとは思いません。 米中の全面戦争は、核兵器のおかげで不可能でしょう。 しかし、南シナ海や台湾、朝鮮半島、 もしくは尖閣諸島をめぐる制限戦争の可能性は確実にあるでしょう。 私は何も「必ず起こる」と言っているわけではありませんよ。 「可能性はある」と言っているだけです。 われわれは米中間でどのように戦争が勃発するのか、 もしくは中国と日本の間で勃発してアメリカが巻き込まれることになるのか、 もしくは1950年の時のように、北朝鮮と韓国の間で勃発して 中国とアメリカが巻き込まれるのかわかりませんが、 いくつかのシナリオは考えられます。 それでもこれらが「起こる可能性の高いシナリオだ」というわけではありません。 それらは単なる「あり得るシナリオ」です。 ここで覚えておかなければならないのは、 安全保障競争が行われる時は、常に戦争の可能性が高まるということです。 (環球) アメリカは同盟の管理という面で、自らトラブルに直面しております。 オバマ大統領が最近アジアのいくつかの重要な地域会合を欠席したことについて、 「アメリカがあまりにも多くのトラブルに直面しており、他国を守ることまで手を貸せない」 と見る人もおりますが、このような意見についてはいかがですか? (ミア) 近年のアメリカの対外政策の管理はたしかにまずいですね。 アメリカはイラクのような国と不必要な戦争を戦ったり、 シリアやエジプトの政治に巻き込まれるなど、 とにかく馬鹿げた行動をとってます。 私はアメリカのアジアの同盟国たちが 「アメリカはいざ中国との紛争になったら助けてくれる、 本当に信頼に足る同盟国なのか」 と心配するのも無理はないと思いますね。 アジアへの「ピボット」は、大きくみれば アメリカの同盟国を安心させるための試みです。 中国の台頭への対抗というよりも、むしろ 同盟国達に対して「信頼してくれ」と知らせるサイン という意味合いのほうが強いと思います。 しかしそれよりもはるかに重要な問題は、 中国の台頭が今後も続く中で、 アメリカがバカな行動をし続けるかどうかという点でしょう。 私の見解は、もし中国の台頭が続いて軍事的にさらに強力になり、 周辺国やアメリカにとって脅威となれば、 アメリカの政治家たちはアジアに目を向けるようになりますし、 もっと戦略的に考えるようになる、というものです。 これはつまり、最終的にはアメリカは アジアの同盟国を助けにくるということですが、 ここ15年間のアメリカの態度を見る限り、 同盟国たちがなぜアメリカの信頼性を疑うのかはよく理解できますね。 (環球) たとえば尖閣諸島で紛争が起こったとすれば、 ワシントン政府は島の領有争いのために 軍隊を派遣して中国と軍事的に直接対峙すると思いますか? (ミア) もし中国と日本の間で尖閣諸島をめぐる紛争が起これば、 アメリカはこの問題に対処する際に二つの矛盾した考えを持つはずです。 一つ目は、アメリカは審判や仲裁人として介入する 強い動機を持つことになるというものです。 そして中国と日本との間の戦闘を止めたり、 その開始を防ぐために、あらゆることをするでしょうね。 このような場合、アメリカは日中両国のどちらの立場にも与することはなく、 中立の立場を表明してとにかく戦いを止めたり防いだりするでしょう。 これが一つ目の動機です。 二つ目は、アメリカが中国ではなく、 日本側に味方しようとする強い動機を持つということです。 なぜなら日本は核兵器を持っておりませんし、 アメリカの核抑止の傘の中に入っているからです。 日本はアメリカが核兵器を使って守るという約束が 本気なのかどうかについて常に心配しております。 したがって、日本においてはアメリカの信頼性が大問題なのです。 よって、もし日本が中国との危機や戦争になった時に アメリカが自分たちの味方をしてくれないことになると、 日米同盟は深刻な被害を受けることになりますね。 さらにはこの地域の他のアメリカの同盟国たちも心配するようになるでしょう。 まとめると、アメリカは日本と中国の関係がこじれてくると、 二つの矛盾した動機にさらされることになるということです。 私は最終的にアメリカが日本側につくと考えますが、 それがどの程度のものなのかについては明確ではないと思います。 なぜなら紛争を止めたいという動機も強いはずだからです。 もちろんアメリカが日本側につく可能性は高いわけですが、 それでもこれは100%じゃないですし、日本側もこれを当然理解しております。 だからこそ日本は、そこに至るまでに核武装を考えるようになるということです。 われわれは冷戦時代にアジアとヨーロッパで同じような現象を目撃しました。 1970年代に韓国は核兵器の開発をはじめましたが、 これは韓国のリーダーたちが、 ベトナム戦争の勃発やニクソン・ドクトリンの登場を受けて、 アメリカは自分たちのことを守ってくれないかもしれないと感じたからです。 台湾も同じでした。ヨーロッパではドイツが同じような懸念を持っておりました。 アメリカ人のほとんどは知らないわけですが、 1950年代、いや60年代になっても、 ドイツは独自開発の核武装を真剣に考えていたのであり、 その理由は首脳部たちがアメリカの「ソ連がドイツを侵略したら核兵器を使う」 という約束を信じきれなかったからです。 よって、このような「拡大抑止」の問題は日米関係の中核になるはずであり、 これはアジアにおけるアメリカの他の同盟国たちにとっても同じでしょう。 韓国について考えてみましょう。 北朝鮮が核武装をしましたが、 これでは韓国がアメリカの核の傘に頼っていることになります。 よって、もしアメリカが日中で危機や実際の戦闘が発生した時に 日本側につかないと、韓国は 「アメリカには北朝鮮や中国にたいする抑止を頼れない証拠だ」 と考える可能性は高いでしょうね。 ( おわり )
-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-
▼「リアリズム」の理論とは何か? ~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~ http://www.realist.jp/mea2.html
チャンネル会員ならもっと楽しめる!
- 会員限定の新着記事が読み放題!※1
- 動画や生放送などの追加コンテンツが見放題!※2
-
- ※1、入会月以降の記事が対象になります。
- ※2、チャンネルによって、見放題になるコンテンツは異なります。
THE STANDARD JOURNAL
更新頻度:
毎週木曜日
最終更新日:
チャンネル月額:
¥550
(税込)