イデオロギー対決議論はもうやめませんか?
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おくやまです。
さて、昨日まで、3回にわたってご紹介しました
シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授の
インタビュー記事は如何でしたでしょうか?
ミアシャイマー教授と言えば、
私がかなり以前に翻訳した『大国政治の悲劇』の著者で、
世界的にもとくに強固な「リアリスト」として知られております。
前回まで、北京の環球時報(共産党直属の中国メディア)
の記者を相手に北京で行われた
このインタビューの要約を掲載しましたが、この総括として、
私がここにコメントや解説をつけてポイントをまとめてみました。
まず、ミアシャイマー教授は、『大国政治の悲劇』の最後の章で、
自分が提唱する国際政治の理論である
「攻撃的現実主義」(Offemsive Realism)というセオリーを使って、
中国の台頭は絶対に「平和的」にはならないことを予測しております。
この著書は出版からすでに13年近く経とうとしているわけですが、
ミアシャイマー教授自身は、この考えを全く変えていないことが、
今回のインタビューでもよくわかります。
それでは今回のミアシャイマー教授の回答で明確になったことを、
いくつかのポイントごとに整理してみます。
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(1) 大国政治はゼロサム・ゲームである
よくリベラル派の人々は、
「経済は互恵関係であるから、大国だって互いに貿易していたら衝突はしない」
という考えを述べておりますし、私もこれはある程度は正しいと考えております。
ただし、図体のでかい「大国」は、
その原語の「グレート・パワー」という言葉からもわかるように、
小国たちよりも大きな力を持っていると同時に、
それぞれ互いも恐れてもいるので、その互いの関係性を、
単純に<損得>で考えがちで、
よって、そのために衝突もしやすくなる、ということなのです。
もちろんこれは「大国同士は絶対にぶつかる!」
というわけではありませんが、それでも
一方にとっての得が、対するもう一方にとっての損になる
ゼロサム的な構造自体は変わらない、という前提になります。
よってミアシャイマー教授によれば、
中国とアメリカは、その形がどのようなものであれ、
パワーの奪い合いに発展するのは確実である。
という結論になります。
(2)中国は東アジアという地域で覇権状態をめざす
ミアシャイマー教授は、大国というのはチャンスがあれば
必ず「地域覇権」を目指すものであると断言します。
そして今回の中国は、それを目指せるだけの経済力を備えつつあり、
それが軍事力に転換されて、結果的に、周辺国の反発を受けながらも、
東アジアという「地域」でナンバーワン、
つまり「覇権」を目指すというのです。
もちろんこれは「中国が悪い国だから」ということではなくて、
ミアシャイマー教授によれば、中国が「大国」であるために
どうしてもそうせざるを得ない、と言っているのです。
そしてそれを成功させた例として、
ミアシャイマー教授は19世紀のアメリカを挙げております。
つまり、大国であるアメリカもやったから、
同じ大国の中国がやってもおかしくないですよ、
ということなのです。
(3)中国は慌てずに、時が来るまで待てばいい
まるで「敵に塩を贈る」、というわけではないでしょうが(苦笑)、
ミアシャイマー教授はまだ中国の発展はピークに達しておらず、
周辺国と衝突して無用な騒ぎを起こすのは得策ではない、
と中国人にアドバイスしております。
なぜなら時間は中国に味方しているのであり、
アメリカや周辺国の国力が
中国のそれと比べて相対的に落ちてくれば、
パワーをつけた中国は、後で思い通りに
国際政治を動かせるようになるというのです。
ここで少し気になるのは、ミアシャイマー教授が
「最近の中国と周辺国との領海をめぐるトラブルは、
ほとんどが焦った周辺国が仕掛けることによって始まった」
と見ているところでしょうか。
日本も含めて、実際はその逆のケースもけっこうあると思うのですが、
これは単純に彼のリサーチ不足なのかと思います。
(4)安全保障の理由から、中国の周辺国は最終的にアメリカに助けを求めてくる
上の分析とやや矛盾するような気もしますが、
これは中国が本当にパワフルになった後に、
周辺国たちが「やっぱり中国は怖いからアメリカに頼ろう」
となる、ということです。
ただし、アジアへの軸足を移すといういわゆる「ピボット」戦略は
単なるサインであり、まだアメリカのアジアへのコミットメントは
初期段階にあって、その重要性をアメリカのトップでも
あまり気づいていないと分析しております。
それでも後に中国の台頭がいよいよ明確になってくると、
アメリカも現状を無視するわけにはいかなくなる、
とミアシャイマー教授は予測しております。
そしてなぜこのようになるのかといえば、その理由が次の、
(5)地理が決定的に重要
というところにかかってきます。
中国が周辺国に怖がられる最大の理由は、
なんといっても「地理」。
つまり、中国はアジアに位置しており、
その周辺国たちの近くに存在するからこそ、
怖がられるわけです。
「じゃあアメリカはどうなのよ?」ということになるわけですが、
アメリカはアジアに基地は持っておりますが、それでも、
中国のように直接攻めてきて領土を奪う可能性がほとんどないので、
いくらパワフルでも、彼らにとっては安心できる存在なわけです。
これを言い換えると、
「遠くのヤクザよりも近くのチンピラ」
ということですね。
(6)アメリカは、米中が尖閣で衝突するとジレンマに直面する
アメリカが尖閣をめぐる日中の領土争いには、
両者の紛争を抑えるという意味で「中立の立場である」と
国務省などのスポークスマンがよく言いますが、
同時に日米安保もあるので、
日本の側につかなければならないという義務があります。
つまり、アメリカは2つの矛盾した動機にさらされている、
ということになるわけです。
もし紛争解決を優先して、いざ軍事的な衝突となったとしても、
日本を手助けしなかった場合、今度は他のアジアの同盟国からの
アメリカに対する「信頼性」(credibility)も揺らぐ、というのです。
要するに、ここで問われるのは、
アメリカの核の傘の「信頼性」であり、
ここで日本を不安にさせると、日本は核武装(!)へ突き進みたい
という動機を持つことになるというのです。
そして韓国もアメリカのこの日本への対応を見ている、
ということで締めくくられております。
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以上6つのポイントにまとめてみました。
いかにも「リアリスト」らしい、
非常に正直で身も蓋もない議論ですね。
まさに「リアリスト」の「リアリスト」たる面目躍如といったところです。
このような議論は、例えば、皆さんもお馴染みの、
"ソフト・パワー"のジョセフ・ナイ氏。
彼のようなリベラルのスパイスの入った学者の、
歯にモノがつまったかのようなモゴモゴとした言い方と比べると、
ミアシャイマー教授は、まったく遠慮容赦なく、
国際政治の冷酷な視点から、
思うところをズバズバと鋭く突いてくるわけです。
特に、最後の尖閣での日中衝突における
アメリカの動機についての分析はほんとうに明快です。
しかし、ここで読者の皆さんに注意して頂きたいのは、
私が皆さんに対して
「ミアシャイマー教授のような考え方をしろ!」
と言いたいわけではないということ。
確かに、ミアシャイマー教授のような考え方は魅力的かもしれませんが、
あくまでも、これは、多くある国際政治に関する見識のうちの1つであり
(もちろん私は個人的にはかなり説得力があるほうだとは思ってますが)、
決して、これで全てを説明できるわけではない、
ということなのです。
私が、これまで一貫して、このミアシャイマー教授の議論を
何度もしつこく(笑)、繰り返しご紹介しているのは、
そもそも、この議論、つまり、「リアリズム」の理論とは如何なるものなのか?
ということを、まずは知ることで、
われわれ日本人一人一人、そして、引いてはそのことが、
日本政府が戦略的にものを考えるキッカケとなれば、
と願っているからです。
私たち日本人にとって、ミアシャイマー教授の
身も蓋もない議論は、かなり"刺激的"かもしれません。
もちろん、その全てを信じる必要はありませんが、
この「リアリズム」という"冷酷無比"なロジックが、
国際政治の背後には否応なく潜んでいる・・・
読者の皆さんには、
このことを強く意識しておいて頂きたいと想うのです。
( おくやま )
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▼「リアリズム」の理論とは何か?
~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~
http://www.realist.jp/mea2.html
勃興する中国、混迷を続ける欧州、
そして、冷戦終結後の世界で覇権を握ったかと思いきや、
ここに来て、衰退の兆しも見え始めた米国。
その米国が、東アジアから撤退する可能性すら囁かれている現在、
これを読んでいるあなたは、
日本が大変な岐路に立っている、大変な状況に置かれている。
と言われれば、必ず納得するはずです。
では、そんな厳しい現状で、私たち日本人は何をすべきなのでしょうか?
それは・・・
古今東西、国際政治の底流に脈々と流れ続ける、
学問・学派としての「リアリズム」を真摯に学ぶことです。
しかし・・・
日本国内で一般的に言われているような、
ともすれば、"世俗主義"的な意味合いで語られる
いわゆる<現実主義>ではない、本当の意味での「リアリズム」を
しっかり学べる素材があまりにも少ない・・・
そんな想いの元に、今回のCDを企画・制作しました。
▼「リアリズム」の理論とは何か?
~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~
http://www.realist.jp/mea2.html