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【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説⑤『Dear My Friends』第1話
2018-05-28 12:20「……密室殺人事件に遭遇する事と、理想の男性に巡り会う事と、どっちが難しいんやろうなぁ?」
私の大親友であり、また幼稚園時代からの幼馴染でもある溝端愛理(みぞばたえり)は、視線をうろつかせながらそう呟いた。
――エリの名誉の為に言っておくと、いくら大学の新入生歓迎コンパに喪服で出席してしまうくらい壮絶な天然ボケキャラである彼女とはいえ、このような突飛過ぎる発言を行った背景には、それ相応の事情があったのだ。
そして、その事情を詳しく説明する為には、時間をこの発言から十時間程度遡らせる必要があり、ついでに場所も、大阪有数の繁華街、難波(なんば)に移動させる必要があった。
二月二十二日の夕方五時。
大阪府大阪市中央区にある巨大ターミナル駅、『難波駅』で――具体的に言えば、そこの地下にある『ロケット広場』で――私は周囲の煩雑な風景を観察しながら、ある人物を待っていた。
どうしてこの場所 -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説④『クリエイショナー』第1話
2018-05-28 12:18玄関のドアを開けてみると、全裸の美少女が立っていた。
――この夜、俺が遭遇した出来事を、無理やり一行でまとめると、つまりはそういうことになるんだろう。
なんてことのない、平凡な一日のはずだった。夏休みまでまだ十日以上はあるというのに、早くも浮ついた空気に支配されつつある我が高校を、一人寂しく後にしたのは、いつも通り午後三時四十分頃のことであった。……向かった先はもちろん、今年の四月から独り暮らしをしている二階建ての木造オンボロアパート、『永苺園(えいぼえん)』である。
我が居住空間にいざ足を踏み入れたところで、十二畳の殺風景な居間と狭すぎるキッチン、あとは風呂とトイレのみという侘しい間取りに何ら変化はなかったし、まだ電源を点けていないブラウン管テレビのモニターにぼんやりと映し出されたのは、自己主張の強すぎる顎と、それに対して控えめすぎる低い鼻と、陰険そうな細長い瞳によって構成さ -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説③『奥さまは魔王』第1話
2018-05-28 12:16なるほど、確かに彼女はかなりの美人であった。
……しかし、同時にかなりの変人でもあった。
肩まで伸ばした艶っぽい黒髪に覆われているその顔は、とても俺に釣り合うとは思えないほど整っていたし、ピンクのフリルでコーティングされたそのドレスは、とても『お見合い』という儀式にふさわしいとは思えないほど強烈なインパクトを放っていたからな。
手元にある釣書(プロフィール)を見たところ、この女性は “鈴木麻淋”という二十二歳の千葉県民らしい。だが、それ以外の素性はまったくわからなかった。というのも、彼女は初めて顔を合わせた十五分前からずっと、ストローの袋を縮めては広げるという作業に没頭していて、会話はおろか俺と目を合わせようともしてくれない始末なのだ。
「ええっと……鈴木さんの下のお名前は、何てお読みするんですか?」
沈黙に耐えかねた俺が、やむなく口火を切ってみると、
「麻淋(まりん)、です」
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【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説②『ピース』第1話
2018-05-28 12:09――月川 早苗(つきかわ さなえ)は笑っていた。
シャギーの入った、肩を隠すにはやや短い長さの黒髪。
面積は大きいのに、鋭利さをも感じさせる瞳。
何かの方向を示すかのように、まっすぐ通った鼻筋。
シャープではあるものの、見る角度によっては幼い印象も受ける輪郭。
そして、空に向けてすらっと伸びるたおやかな体と、それに纏う、水色と緑と薄紅色で構成されたモザイク調のワンピース。
……確かに、眼前の大画面では、幾千もの発光体によって、月川早苗が電子的に再現されていた。
映像の中の彼女は、眩いばかりの陽光を余すことなく受け止めるように、ゆっくりと歩を進めている。
もしこの時の感想を本人に尋ねたならば、『太陽が照明代わりになってくれたねん』とでも言うに違いない。あいつはそういう女だ。
いや、そういう女だった。
たぶん、というより、まず間違いなく、この映像が撮影された季節は初夏 -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説①『リヴァルディア』第1話
2018-05-28 12:08一言ではあらわせないくらい昔のこと。
一言ではあらわせないくらい遠いところに、フィオーレという若い男がいました。
フィオーレは、一言ではあらわせないくらい大きなおやしきに、たった一人で住んでいました。
フィオーレの両親は、彼がおさないころに二人ともびょうきで死んでしまいました。しかし、両親がたくさんのお金をのこしてくれていたので、フィオーレは毎日ごうかなおやしきでごうかな料理を食べながら暮らすことができました。
だけど、どれほどおいしいごちそうを食べても、どれほどぜいたくをしても、フィオーレの心はけして満たされませんでした。
何をやっても楽しくない。何をやってもまんぞくできない。
……やがて、フィオーレはずっと家にこもるようになってしまいました。
そんなある日のことでした――
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