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【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説⑤『Dear My Friends』第4話
2018-06-30 20:43そのまま眠れぬ夜を過ごした私が、次の朝――つまり、二月二十三日の朝に泉州大学へと出向いてみると、そこにエリの姿はなかった。
もちろん、いくら私達が幼馴染で、かつ同じ大学に通っているとはいえ、キャンパス内においても四六時中行動を共にしている訳ではない。しかし、少なくとも月曜日の一限に関しては、二人とも同じ授業を同じ講堂で受けなければいけないはずなのだ。
果たして、私が席に着くなり、彼女からのメールが届いた。
『ごめん、今日は大学休むわ』
……別に私に謝る事ではないのだが、エリはそういう文章で自分の欠席を伝えてきたのであった。
もっとも、それは想定内の出来事だった。なんせ、高校時代に自宅でゴキブリを発見したからという理由で休んだ事のあるヤツである。よそ様の土地とはいえ、人間の遺体を発見して、(しかも、それがごく親しい人間のものだったのだから)彼女が休まない訳がない。
無論、休みたい -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説④『クリエイショナー』第4話
2018-06-30 20:36誰かさんのせいで建てつけの悪くなったテーブルの前で、気まずそうな表情を浮かべながら正座する少女の証言によると――この自称未来っ娘の今朝からの行動は、以下のようなものだったらしい。
俺から借りた二千円を持って、まず彼女が向かったのは……なんと、市外にある地方競馬場だった。そんな場所をどうして知っていたのかや、どう見たって未成年だとしか思えない少女が何故ちゃんと入場できたのかはわからないけど、とにかく彼女はそこで、見事に馬券を的中させたらしい。……しかも、午前中のレース全てにおいて。
こうしてある程度の資金を手に入れた彼女は、とりあえず今後の為にと、競馬場近くのショッピングモールで、服や日用品を購入した。それがかなり豪快な買い物だったということは、テーブルの傍らに置かれてある、五つの大きな紙袋が物語っている。
……そして、結果的にこの判断は、かなり賢明なものであった。
その後彼女は -
非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説③『奥さまは魔王』第4話
2018-06-30 20:32翌朝、起床した俺をまず戸惑わせたのは、見慣れない周囲の風景であった。まぁ、新居に引っ越してきて初めての朝なんだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
しかし、俺は戸惑いと同時に、何故か軽い興奮めいた感情も覚えていた。その正体が、新生活、もとい新婚生活に対する高揚感だと確信できたのは、瞼を擦りながら寝室を出てすぐに、もっと見慣れない光景、すなわち、リビングのソファで佇む新妻の姿を目にした瞬間だった。
「……おはようございます」
俺の姿を確認するなり、深々と頭を下げてくる麻淋さん。ぎこちなくも愛らしい彼女のエプロン姿を眺めていると、自然に顔が緩んでくるのが自分でもはっきりとわかったさ。
「ああ、おはようございます」
「あの、朝御飯がテーブルの上にありますので……」
なるほど、朝食を作る為に夫より早起きしたって訳か。なかなか良い心掛けじゃないか……なんて能天気に感心していた俺は、大理石 -
非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説②『ピース』第4話
2018-06-30 20:27今から十年ほど前――すなわち、俺が小学五年生の頃。
詳しい日付まではちょっと忘れてしまったけど、気の早いセミが鳴いており、制服が汗でべとついていたのを覚えているから、たぶん七月中旬くらいだったと思う。
……その日は、俺の人生における初体験が三つあった。
第一の初体験――それは『家出』だった。
もちろん、小学五年生の家出に高尚な理由があるはずもない。控えめすぎる数字が赤く書かれた答案用紙を素直に学校から持ち帰ってしまったせいなのか、もしくは台所で作られていた晩御飯が俺の大嫌いな緑黄色野菜をふんだんに使ったメニューだったせいなのか、あるいはもっと他のくだらない理由があったのか、これも例によって失念してしまったのだけど、とにかく俺はその日の夕方、母親と大喧嘩したあげく、家を飛び出してしまったのである。
しかしながら、というべきか、当然、というべきか、家を飛び出した俺はすぐに途方に暮れ -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説①『リヴァルディア』第4話
2018-06-30 20:20外はすっかり赤くなっていた。
貧乏な画家には、きっとうってつけの風景だろう。もっとも、絵の具費用を優先して考える画家の展覧会なんて、たとえそれが初恋の相手だって行く気はしないけどさ。
『呪いのビデオ』とやらを鑑賞し終わった後、山岸はわざわざマンションの入り口まで僕を見送りに来てくれた。貴重な時間を犠牲にしてまで自分に付き合ってくれた友人への心遣いか、あるいはちょっとでも長く僕の様子を伺いたかったのか。遺憾ながらヤツの表情は、前者の可能性が限りなく少ないということを如実に示していたけどな。
「なぁ、ザキ。結局、おまえはアレを見てどう思ったんだよ?」
自分の望んでいたリアクションを引き出せなかった悔しさからか、山岸はしつこいくらいに同じ質問を繰り返した。
「だからさ、何も思わなかったって言ってるだろ」
「いや、でも、少しくらいは何か感じるものがあったはずだぜ」
あくまでも食い下がる彼 -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説⑤『Dear My Friends』第3話
2018-06-21 06:24その後、まずプレハブに姿を表したのは、大学の警備員であった。エリにしては珍しく機転を利かせたようで、警察に連絡するついでに第二学舎の一階にある警備室にも立ち寄ったらしい。
ところが、このいかにもうだつの上がらなさそうな男性警備員は、ちっとも役に立たなかった。私達からほんの軽くだけ事情を聞いた後、
「俺らみたいな警備員はさぁ……」
たぶんまだ二十代のはずなのに、悪い意味で年輪を感じさせる顔をいっそうしかめながら、彼はぼやくように言った。「事件を未然に防ぐのが仕事であって、もう起きちゃったものはどうしようもないんや」
「いや、でも、こうやって人が倒れてるんですよ! なんとかしないと!」
私が必死になって訴えても、彼は眠そうな目で倒れている桜井を見ながら、
「とりあえず君らが110番してくれたんやろ? じゃあ、後は警察に任すしかないなぁ……」
と、そのまま立ち尽くしてしまう始末だった。 -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説④『クリエイショナー』第3話
2018-06-21 06:18――次の日の朝。午前七時半。
いつものごとく、スマホのアラームによって目覚めさせられた俺が、ただでさえ軋みまくるベッドをさらに軋ませて、ゆっくりと起き上がる。
……いた。
昨晩に突然乱入してきた自称未来っ娘は、依然として俺の居住空間の中に存在していた。
「あ……お、おはようございます、クリエイショナー」
そして彼女が俺に妙な呼称を用いることも、やたらと恭しい態度を取ることも、何ら変化はしていなかった。
「ああ、その、ええっと……おはようございます」
小さな窓から差し込む太陽光に照らし出された彼女の正座姿は、神々しさすら感じてしまうほど、美しいものであった。
……だけど、よく目を凝らすと、何故かその全身は小刻みに震えてもいる。
「あ、あの……その……あの……」
「……ど、どうしたの? 体調でも悪いの?」
「いえ、その、体調が悪いといいますか……」
両手を太ももに挟みながら、も -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説③『奥さまは魔王』第3話
2018-06-21 06:13……いやいや、待てよ。なんだ、この気まずい雰囲気は。
洋風の食事机を挟んで対面に座っている麻淋さんは、さっきからずっと顔を俯けっぱなしで、一向に俺との会話を始める気配を見せない。時折ペットボトルのお茶を飲んでは、スカートの端をいじっているだけで、むしろ構って欲しくなさそうなオーラすら放っている。
どうやら彼女は、想像以上に人見知りするタイプらしい。いや、別にシャイな性格は構わない。ズカズカと他人の心に踏み込んでくる女よりは、全然マシってもんさ。
解せないのは、そんな麻淋さんがどうしていきなり結婚を申し込んできたのかってことである。恋愛には消極的だが、結婚には積極的ってタイプなのか? それとも、奇跡的に俺を見て運命を感じてくれたのだろうか? ……どっちも、非常に考えにくい可能性だけどな。
実際、俺がいくら考えても答えなんて見つけられないだろうね。ここはやはり、当の本人に直接尋ねてみ -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説②『ピース』第3話
2018-06-21 06:09「……以上です」
唐突に前方から声が発せられた。それは、ちょっと舌っ足らずな幼い声であった。おかげで、俺は自分の意識が迷子になりつつあった事実を知る。「以上です……編集長」
余計だとしか思えない一言を付け足したその声の主が、室内の全ての窓を覆っていたカーテンを、次々と手際よく開いていった。
舞い散るほこりが煌く中、斜めから差し込んできた太陽光が、机に肘をつけていた俺をも照らし始める。
我に返った俺は、改めて自分の周囲を確認した。真っ白な防音壁に囲まれたこの部屋には、五人掛けくらいの長机が、前後左右に四十台ほど設置されてあった。単純計算でいくと、二百人くらいは収容できるのだろう。
ちなみに室内には段差が存在しており、もちろん後方にいくほど高くなっている。要は、映画館のような造りだ。正面には、さっきまで眺めていた大型モニター。こちらも映画館クラスとまではいかないものの、最後列に座る人 -
【非会員でも閲覧可】為五郎オリジナル小説①『リヴァルディア』第3話
2018-06-21 06:07そんなある日のことでした。
とつぜん、フィオーレのおやしきに、一人の旅人がおとずれました。
それは、プリマヴェーラという名の、旅人でした。プリマヴェーラは、一晩だけここで泊めてほしいとフィオーレにたのんできました。
たいくつだったフィオーレは、よろこんでプリマヴェーラをむかえいれました。そして、二人は夜おそくまでいろいろな話をしました。
次の朝。プリマヴェーラは、泊めてくれたお礼にと、フィオーレにあるモノをわたしました。
「……これは、『リヴァルディア』のタネです」
プリマヴェーラはそう説明しました。
「『リヴァルディア』? ……聞いたことがない言葉だな」
フィオーレが首をかしげると、
「このタネを土の中に埋めると、たちまち『リヴァルディア』が咲きます。……『リヴァルディア』は、幸せのシンボルと言われています」
それだけ言いのこして、プリマヴェーラは旅立っていきました。
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