マル激!メールマガジン 2017年9月13日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第862回(2017年10月14日)
アベノミクスこそがこの選挙の最大の争点だ
ゲスト:河村小百合氏(日本総研上席主任研究員)
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安倍政権は2012年に政権奪回以降、国政選挙のたびにアベノミクスの継続を選挙の争点に掲げ、毎回勝利を収めてきた。ところが今回の総選挙では消費税の使い道と北朝鮮を選挙の争点に自ら設定し、アベノミクスを選挙の争点にすることをあえて回避している。アベノミクスの最大の眼目である「異次元」の金融緩和が今も継続中であるにもかかわらずだ。
安倍首相は10月8日に日本記者クラブで行われた8党党首討論会で、アベノミクスの成果で日本の雇用は改善し、GDPの伸びや株高などが実現していることを強調している。大きな成果があがっていると胸を張るのであれば、なぜ首相はこの選挙でアベノミクスの継続の是非を問わなかったのだろうか。
アベノミクスの果実が大企業や富裕層に偏り、経済格差を拡大させているとの批判は根強いが、とはいえ安倍政権発足後、企業収益やGDP値が伸びていることは事実だ。しかし、それは大変な犠牲の上に成り立っていると、中央銀行の政策に詳しい日本総研上席主任研究員の河村小百合氏は指摘する。それは単なる格差の拡大にとどまらず、近い将来、国民に膨大なツケが回ってくるリスクが日に日に大きくなっていると河村氏は言う。
黒田バズーガと呼ばれる未曾有の金融緩和に続いて、マイナス金利まで導入して経済を刺激しても、2%おろか僅かなインフレすら起こせない事態に業を煮やした日銀は今、年間80兆円にものぼる国債や株式の買い付けを行うことで市場に膨大な資金を投入している。しかし、これが日銀のバランスシートの異常な肥大化を生み、日銀が支え切れる能力を超えているために、破綻のリスクが現実味を帯び始めていると河村氏は警鐘を鳴らす。
また、日銀が事実上の財政ファイナンスによって人為的に株価を釣り上げているため、株価市場は20年ぶりの高値に沸いている。しかし、日銀の買い支えによって釣り上げられたこの株価は、企業の現実の経営実態を反映させたものとは到底言えない。企業努力をしないでも高い株価が維持できると、企業側に経営努力や合理化のインセンティブが働きにくくなり、ガバナンス欠如による数々の不祥事の遠因になっていると見ることもできる。
欧州諸国やアメリカもリーマン・ショックから立ち直る過程で金融緩和政策を採用してきたが、彼らが常に出口を意識しながらコントロールされた金融緩和を行ってきたのに対し、日本の金融緩和は一度走り出したら止まらない暴走列車の様相を呈していると河村氏は言う。その姿に河村氏は先の大戦の失敗がダブって見えると嘆くが、あとさきのことを考えずに暴走すれば、河村氏が指摘するような「経済敗戦」が現実味を帯びてくる恐れもある。
日本がこのままアベノミクスを継続するとどうなるのか。日銀はこれまでどこの国も経験したことのないサイズにまで肥大化した巨大なバランスシートを支え切れるのか。アベノミクスに安全な出口シナリオなるものは存在するのか。最後にそのツケが回ってきた時、国民はどれだけの負担を強いられることになるのか。
そもそもアベノミクスによる量的にも時間的にも異常なまでの金融緩和は、金融の実務を理解していない安倍政権が、人事権を盾に本来は日銀の専権事項であるはずの金融政策に手を突っ込んだことから生じた歪んだ政策だったと指摘する河村氏に、アベノミクスの現状と膨れ続けるリスク、そして近い将来予想される影響を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。
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今週の論点
・出口戦略なきアベノミクスのツケは、国民が払う
・事実上行われている財政ファイナンスと、すでに“手遅れ”の現状
・日銀の異常なバランスシートと、その意味
・やはり見られる根深い問題――損得勘定に基づく振る舞い
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■出口戦略なきアベノミクスのツケは、国民が払う
神保: 22日に選挙が行われます。われわれはさまざまな形で選挙を取り扱ってきましたが、今回はあまり得意とする分野ではないものの、金融政策をやっておかなければならないだろうと考えました。つまり、争点になっていないことがむしろ問題だと思われるのが――「アベノミクス」という言葉でいいかどうかはともかくとして、金融政策であると。特に、異次元緩和がこのまま続くと何が起こるのか、ということについて、あまりにも議論がない。真っ向から反対している政党もそれほど見当たりません。アベノミクスならぬアベノリスクというものが、今回のテーマになります。
宮台: ここでは野口悠紀雄先生に複数回出ていただいて、国の借金が、国債残高という形で増えていくことのリスクについて議論しました。
神保: 「ドゥームズデイ」(最後の審判の日)という言い方をされていましたね(2012年2月25日/第567回『消費増税ではDoomsdayは避けられない』)。
宮台: そのころは某銀行が国債を買い、その国債を銀行が買うが、元手は僕たちの預貯金で、国民貯金のキャパシティには限界があり、そこに到達するのがドゥームズデイだ、ということでした。しかし、いまは市中銀行ではなく、政府が発行した国債を日銀が買いまくっていて、日銀が6割以上(残高)買っているという状況になっているんですね。
神保: 新規発行の倍近くを買っていると。気をつけなければならないのは、安倍政権の政策を採用したことで一見、数字的にはよくなっているが、実はその裏でもともとあったリスクがむしろより大きくなっている可能性がある、ということです。その政策で事態が切り抜けられればいいが、4年半続けてきて、どうも切り抜けられそうもない。安倍さんは2回の衆議院選挙でアベノミクスを問うていますが、今回だけは問うていないんです。それはなぜか――選挙の争点は政府側ではなく、有権者側が決めることなので、金融政策のリスクがどれだけふくらんでいるか、ということはきちんと押さえたいと思います。
われわれも専門の分野ではないので、われわれが分かればおそらく、普段あまり金融に関心がなかったり、ご存じない方も分かると思いますので、そういう内容にするよう努めたいと思います。ゲストには、日本総研上席主任研究員の河村小百合さんをお招きしました。
実は今回、河村さんのご著書『中央銀行は持ちこたえられるか-忍び寄る「経済敗戦」の足音』(集英社)を拝見して、「これは大事だ」と考えてオファーをしました。まず、なぜこのタイミングでこのタイトル、かつ新書という一般向けの本としてまとめようと考えたのでしょうか?
河村: アベノミクスはやはり、日銀の異次元緩和にものすごく寄りかかった政策だと思います。中央銀行に国債をじゃんじゃん買わせて財政出動すれば、景気はよくなる。世の中も中央銀行が魔法を使えるような感覚で受け止めてしまい、将来的にどんな問題があるのかは、正直に語られていません。アメリカやヨーロッパも似たようなことはやっていますが、もっと誠実に先のことを考え、リスクも説明しています。ところが日本では、国会や記者会見の場で、いろんな人が「出口戦略をはっきりしろ」と聞いているにもかかわらず、日銀は一切、答えようとしない。そのなかで、みんなが何となく景気がいいという気分に浸ったまま走ってしまうと、後々に大変なことになってしまうのではないか。そのツケは安倍政権や日銀ではなく、私たち国民にまわるので、そこを少しでもお伝えできればという思いで、この本を書かせていただきました。
神保: 「忍び寄る『経済敗戦』の足音」という副題ですが、“敗戦”というと、みなさん先の第二次世界大戦を思い出すでしょう。これはどういう意味でつけられましたか?
河村: 先の大戦でも、この国は昭和20年までやってきたことをすべて否定されたと思います。GHQがグッと手を突っ込んできて、さまざまなシステムを変えたわけですね。同様に、このまま進めば単に財政破綻というだけでなく、この国の経済運営すべてが否定されるというか、すべてが本当にダメになってしまうような事態に陥ってしまうのではないかと。そういう思いで、「経済敗戦」という言葉を使わせていただきました。
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