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前嶋和弘氏:トランプが変えたアメリカと世界の今
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前嶋和弘氏:トランプが変えたアメリカと世界の今

2017-11-08 23:00

    マル激!メールマガジン 2017年11月8日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第865回(2017年11月4日)
    トランプが変えたアメリカと世界の今
    ゲスト:前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)
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     トランプ大統領が来日する。
     昨年の11月8日の世界に衝撃を与えたあの大統領選の勝利から約1年。人類史は「トランプ前」と「トランプ後」に分類されるようになるだろうと言われるほど、トランプ政権の誕生とその後の政権運営は、アメリカのみならず、世界の民主主義に対する見方に大きく影響を与えている。インターネット全盛の21世紀、自由や民主主義の行き過ぎがトランプのような指導者の台頭を生んでしまうのだとしたら、われわれはこれまで無条件に尊いものと考えられてきた自由や民主主義を、もう少し制限すべきではないかという議論まで、真剣に交わされるようになっている。
     予想通りと言えば予想通りかもしれないが、トランプ政権の10か月は、アメリカ史のみならず世界の民主主義の歴史の中でも、いまだかつて経験したことがないような異常な10か月だった。選挙戦では暴言を繰り返すことで人気を博してきたトランプだったが、いざ大統領になればもう少し大人しくなるだろうという玄人筋の期待を見事に裏切り、トランプ政権は発足当初から数々の波乱に揺れまくった。
     ホワイトハウスの側近は、選挙戦でのロシアとの不適切な接触などが取り沙汰され、次々と辞任した。今やトランプ政権は無条件の忠誠心が期待できる親族と、どんなに不満があっても規律を守ろうとする軍人によって、辛うじてその機能を維持しているような状態だ。
     また、トランプ政権は議会との調整能力の乏しさゆえに、法案らしい法案は何一つ通せていない。しかし、この間トランプは、議会の承認を必要としない大統領令を連発することで、選挙戦での公約のいくつかを実行に移している。その中には移民や難民の流入制限やTPPからの離脱、NAFTAの再交渉、パリ協定からの離脱、イラン核合意の破棄、ユネスコからの脱退など、国際社会に影響の大きいものが多く含まれている。
     また、国内向けには、オバマ前大統領が作った医療保険改革「オバマケア」の廃止に躍起になるものの、なかなか代替案を提示できず右往左往してきたが、その間も、人種差別や白人至上主義に寛容な姿勢を示すなど、トランプに対して多くの識者たちが抱いていた懸念は、ほぼ丸ごと的中してしまった。
     既存の政治システムに対する未曾有の不信感が、トランプ政権を生んだと説明されることが多いし、恐らくそれはそれで正しい分析なのだろう。しかし、トランプが既存の政治秩序を次々と破壊する中、その代わりにどのような理念に基いたどのような政治体制が立ち上がってきているのかが、依然として見えてこないところが気になる。
     また、各国の首脳がトランプの言動に苦言を呈する中、日本の安倍首相だけがトランプとツーカーの関係を維持していることにも注意が必要だ。人種差別や性差別を容認し、人権を軽視すると見られている大統領と仲睦まじくゴルフに興じる日本の首相の姿が世界に報道される時、日本という国の品位や人権感覚にまで世界から疑いの目が向けられる恐れは十分にある。
     トランプ政権の誕生でアメリカの社会や世界とアメリカの関係はどう変質したのか。日本はこのままトランプ政権と一蓮托生の道を歩んでいて本当に大丈夫なのか。アメリカ政治が専門の前嶋氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・史上最悪の大統領に見えて、支持が底堅いトランプ
    ・政治的人脈がないトランプの“中小企業運営”
    ・何もつくらず、壊し続ける
    ・日本が“ポチ“であり続けることのリスクとは
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    ■史上最悪の大統領に見えて、支持が底堅いトランプ

    神保: 本日は11月1日、4日にトランプ大統領の初来日を控えるなかでの収録です。今回はトランプ政権でアメリカがどう変わったか、というテーマで議論していきますが、まず宮台さん、トランプさんの来日ですが、一外国首脳が来る、という扱いを超えていますね。シャレではなく、日本はアメリカの属国だ、と言われるようなところを地で行っている感じがします。

    宮台: EU諸国のメディア、あるいはメルケルさんを含めたEUの首脳たちのトランプさんに対する扱いを見ると、決して高くないどころか、そうとう低いことが伺われます。つまり、単にアメリカの大統領を迎えるということでなく、世界的に不人気というか、非常に懸念を抱かれている存在を呼ぶということに対して、何も考えていないのが悲しいというか、力が抜ける感覚です。この歓迎ムードはチキン/エッグではなく、メディアがお祭り騒ぎを作り出しているんだと明確に思いますね。

    神保: イヴァンカさんも含めて、話題がたくさんあって数字も取れる、ということでしょうか。

    宮台: その通りで、お祭りになればトピックの数も増えるし、政治的・批判的スタンスではなく、お祭り的スタンスに一辺倒になるのは、メディア的には合理的です。

    神保: なるほど。問題は、それで何が隠れてしまうのか、ということだと思います。最後にはやはり、世界のなかで得意なポジションにある日本が、トランプと一蓮托生でいいのか、ということも考えたいと思います。ゲストをご紹介いたします。上智大学総合グローバル学部教授でアメリカ政治がご専門の前嶋和弘さんです。前回はスーパー・チューズデーの前(2016年2月6日・第774回「米大統領選に見る米国内に鬱積する不満の正体」)に来ていただきましたが、ほかのアメリカ専門家と同じように、前嶋先生も、さすがにこれは続かないだろう、という見方でしたね。

    前嶋: そう思っていました。

    神保: それが、まさかの大統領と。専門家の皆さんがあり得ないと思っていたことが、あり得てしまった理由を総括していただくと、いまはどう考えていますか?

    前嶋: ふたつあると思います。ひとつは、やはりアメリカがそもそも割れているということです。民主党と共和党のそれぞれに固定票があり、そのなかでほんの少し多く稼げば勝てる、という。そのほんのちょっとしたところで、トランプさんがうまく稼いだ。
     ふたつ目の理由は、やはり選挙直前のメール問題です。FBIの再捜査で、そんなに強くなかったヒラリー支持が崩れてきたと。あのときは本当に衝撃的でした。RealClearPoliticsという、アメリカでさまざまなニュースや世論調査をまとめたサイトがあり、予測が出ていたのですが、2~3時間ごとにヒラリー支持の数値が崩れていく。ホラー映画を観ているようで、それでも最後には常識が通る、と思っていたら、そうなりませんでした。

    神保: いまさら持ち出すのも古い話ですが、FBIのジェームズ・コミー長官――この間、トランプといさかいがあって辞任しましたが、なぜあのタイミングで彼が再捜査と言い出したのか。結局、何だったということになっているんですか?

    前嶋: アメリカの普通の言説で行くと、コミーさんのもとに情報があって、隠しておくのは耐えられなかった、と。言っても黙っていても、大統領選挙の結果に影響をもたらしてしまうなら、言わざるを得ないということだ、とコミーさんからも説明がありました。さまざまな陰謀説もあるわけですが、それを抜きにしても、本当に状況を変えてしまいましたね。

     
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