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熊谷晋一郎氏:盛況だったパラリンピックが残したもの、置き去りにしたもの
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熊谷晋一郎氏:盛況だったパラリンピックが残したもの、置き去りにしたもの

2021-09-22 20:00
    マル激!メールマガジン 2021年9月22日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1067回)
    盛況だったパラリンピックが残したもの、置き去りにしたもの
    ゲスト:熊谷晋一郎氏(東京大学先端科学技術研究センター当事者研究分野准教授)
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     緊急事態宣言下で無観客で行われた東京パラリンピック大会が、9月5日に閉幕した。
     感染拡大が続き、開催自体が危ぶまれ、学校連携観戦プログラムの是非なども議論された一方で、外出自粛要請が続く中、多様性や共生社会を掲げて行われたこの大会を、これまでパラスポーツに馴染みがなかった人たちも含む多くの人たちがテレビで観戦した。
     最後までアメリカと金メダルを争った車いすバスケットや迫力ある車いすラグビー、さまざまな障がいのあるひとたちが自分なりのスタイルで挑む競泳、レーサーとよばれる車いすが滑走する陸上、先を読みながら思い通りのところにぴたっとボールを投げるボッチャなど、競技としても障がいを持つアスリートの挑戦としても、強い関心を呼んだ。障がいについてあまり考えることもなかった人たちに多くの気づきを与えたのは確かだろう。
     それまで親の陰に隠れてしまっていたような子供たちが、車いすを見て駆け寄ってくるようになったと、自身も脳性まひで車いすユーザーである小児科医の熊谷晋一郎・東京大学先端科学技術研究センター准教授は言う。確かに、今まで閉ざされていたものが開かれたことは良いことだ。しかし、パラアスリートたちの活躍を見て、「障がいがあるのに頑張っていてすごいね」という素朴な感想だけで終わってしまってよいのだろうか。
     熊谷氏は、そのような反応の背後に能力主義が潜んでいるのではないかという危惧を表す。「努力すればできる」という価値観が広まれば、「できない」ことに対する見方が自ずと厳しくなり、それによって追いつめられる障がい者もいるだろう、というのだ。できることを評価する意味で使われる「エイブリズム(ableism)」は日本語で「障がい者差別」と訳されることもあると熊谷氏は言う。
     障がいのある人たちをめぐる考えには大きく分けて2つの流れがあると熊谷氏は指摘する。一つは、「適切なサポートで障がいのある人も能力を発揮できる社会を実現すべき」という方向性で、これは今回のパラリンピック大会を通じてかなり浸透してきている。ただ、もう一つ重要な考え方として、「能力の有無を超えて誰もが尊厳ある人生を歩む権利がある」という主張があることを忘れてはならない。
     この二つはどういう関係にあるのか。当事者研究として、パラアスリートやオリンピアン、薬物依存症の当事者などから聞き取りを続けている熊谷氏は、マイケル・サンデルの「実力も運のうち 能力主義は正義か?」やアマルティア・センの潜在能力アプローチなどを例にひきながら、障がいのある人にとってのスポーツの意味を語る。
     パラリンピックで前進したものと、それが置き去りにした課題などについて、今回初めてパラリンピックを見て共感できるようになったと語る熊谷晋一郎氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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    今週の論点
    ・「障がい者」と「アスリート」に共通する思い
    ・重要なのは「能力の有無を超えて尊厳のある人生を歩む権利」
    ・「自立」とは、「依存先」を増やすことである
    ・「重荷を下ろす」という、本来のスポーツへの回帰
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    ■「障がい者」と「アスリート」に共通する思い

    迫田: 今回は「パラリンピックが残したもの、置き去りにしたもの」というテーマでお送りします。宮台さんは競技をご覧になりましたか?

    宮台: はい。子供たちがよく見ていて、一口で言えばいい影響はあったと思います。非常に単純な話ですが、こういう方もいる、ということは普通に生きているとなかなか見えないもので、それが見えたということがすごい。おそらくさまざまな家庭のお子さんたちが、それまで閉ざされていたものに開かれるいいチャンスだったのではないかとは思います。

    迫田: さまざまな人にさまざまな気づきがあったと思いますが、そのなかで一体何が課題として残ったのか、ということも含めて、しっかり伺いたいと思います。ゲストは東京大学先端科学技術研究センターの准教授で、小児科医でいらっしゃいます、熊谷晋一郎さんです。ご自身も脳性麻痺で電動車椅子を使っておられ、パラアスリートの当事者研究にも携わられており、この方しかいない、ということでお招きしました。早速ですが、熊谷先生は東京パラリンピックをどうご覧になりましたか。

    熊谷: 研究会でご一緒している方々も直接、間接にかかわっており、まずはコロナ禍のなかで、開催まで漕ぎ着けられて本当によかったと思います。宮台先生も冒頭におっしゃったように、周りの障がいを持っている仲間も、子供たちの変化ということをよく言います。例えば、以前は車椅子を見ると「あれ、何?」と言って親御さんの影に隠れていた子たちが、駆け寄ってくるようになったり。少なくとも短期的には、いい影響を及ぼした面も多いなと思っています。 
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