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マル激!メールマガジン 2022年3月23日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1093回)
こんなやり方では次のパンデミックは乗り切れない
ゲスト:上昌広氏(医師、特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)
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岸田文雄首相は3月16日夜の記者会見で、全国18都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」を、今月21日の期限をもって全面的に解除する意向を表明した。またその会見で岸田氏は、オミクロン株の感染爆発が減少傾向に入った現状について、緊急時から平時に戻る「移行期間」にあるとの認識を示した。
コロナの感染が収まってきたのが本当であれば何よりの朗報だ。岸田政権が諸外国から「鎖国」などと揶揄されても貫いてきた厳しい水際対策や、長期にわたる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を甘受し、自主的な行動制限や感染症対策を続けてきた国民の努力の賜物と受け止めるべきだろう。
しかし、首相が会見で示した「喉元過ぎれば熱さを忘れる」を地で行くあの安堵感は、いただけない。国民はそこまでバカではない。結局日本は実際の感染者数は欧米諸国よりも遙かに少なかったにもかかわらず、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などによって、どの国よりも長きにわたり国民が行動制限や多くの犠牲を甘受しなければならなかったことを、われわれは決して忘れてはならない。
また、人口当たりの病床数では世界一を誇る病床大国であるにもかかわらず、日本は常に医療逼迫、そして医療崩壊と隣り合わせだった。PCR検査にしても同じことが言える。これも歴代総理が増やすよう大号令をかけたものの、「笛吹けども踊らず」状態が最後まで続いた。結果的に日本は人口当たりのPCR検査数は先進国中最低レベルにとどまったままだ。
医師で自らが主宰するNPO・医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は、躊躇なく「日本のコロナ対策は失敗だった」と明言する。その上で上氏は、厚生労働省の医系技官と感染症ムラの専門家によって独善的に決定されている日本の感染症対策は、現行の感染症法が戦前からの悪しき慣習である「医療よりも社会防疫」が優先される法理の上に成り立っているため、患者一人ひとりの人権や国民生活を犠牲にすることを厭わない対策が平然と行われてきたと指摘する。
確かに現行の医療法や感染症法は、日本の全病院の8割を占める民間病院に対して政府が一般病床をコロナ病床に転換するよう命令する権限は与えていない。しかし、上氏は、公的な病院については両法がその権限を認めていることを指摘した上で、公立の病院が十分にコロナ患者を受け入れていなかった点をとりわけ問題視する。公立病院は厚労省で医療問題に対して独占的な決定権を持つ「医系技官」と呼ばれる医師免許を持つ官僚たちにとって重要な天下り先となっているため、そのような癒着した関係性から、医系技官は公立病院に対して厳しい要求を出そうとしないところに問題があると上氏は指摘するのだ。
しかしだ、もし過去の総理が政府には病床転換を強制する権限がないと官僚に騙されていたのが事実だとしても、それならば日本の全病院の8割を占める民間病院に対しても、医療非常時には病床転換を強制的に求める権限を与えるよう現行法を改正すればいいではないかと考えるのが普通だろう。国民は何のために与党に国会の過半数を与えたと思っているのだ。
しかし、感染症ムラに不都合で医師会が嫌がる法改正をできる政治家など、少なくとも自民党には、そして恐らく野党にも、いるわけがないというのが、今日の日本の政治の現実なのだ。つまり日本はもし次にコロナの新しい変異種や新しい感染症の嵐に見舞われることがあっても、また同じ愚策を繰り返すことになる。国民はまた泣かされる覚悟をしておくしかないということだ。
今週は自らが医師でありながら、日本の医療の構造的問題に厳しい提言を繰り返す上昌広氏とともに、新型コロナで露わになった日本の医療界のあからさまな利権や癒着構造を洗い出した上で、それを改善するためにようやく「平時」を迎えつつ今こそ何をしなければならないかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・「まん防」や緊急事態宣言は不要で、むしろやってはいけない
・保健所がPCR検査を独占し、広がらない理由
・官僚から政治家、メディアまで「総白痴状態」の日本
・地方から草莽の志士は現れるか
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■「まん防」や緊急事態宣言は不要で、むしろやってはいけない
神保: 岸田総理が会見で、コロナについて危機的な状況を脱し、平時に戻るための移行期間に入ったという認識を示しました。コロナ対策では日本のさまざまな問題が噴出していますが、状況がひどいときに議論しても誰も聞く耳を持たないところもあるし、逆に時間が経つと誰も関心を持たなくなってしまう。いましかないと思って、満を持してこのテーマを選びました。ウクライナの問題はまたあらためてしっかり取り上げるとして、コロナの次の波が来たとき、あるいはコロナ以外の感染症が来たときに、今回の失敗、教訓が活かせる体制ができているのか、きちんと検証したいと思います。
ゲストは医師で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんです。昨日の岸田さんの会見を見ると、とりあえずここで一段落、という印象ですが、そう考えてもいいのでしょうか。
上: 春の流行に対する準備の時期なんだと思います。昨年の世界のボトムは2月の半ばで、2月20日くらいからまた流行が立ち上がっています。今年もすでに世界で増え始めており、また夏の流行はもう少し大きいので、それに対応する準備をしなければいけません。
神保: 単純に、流行を繰り返すサイクルのなかで、いったん下降期に入っていると。逆にいうと、また来ることは間違いないという感じですか。
上: 来なければいいですが、来るものの準備をしたほうがいいでしょう。
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