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中森明夫氏:アイドル論から見たジャニーズ問題
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中森明夫氏:アイドル論から見たジャニーズ問題

2023-10-18 20:00
    マル激!メールマガジン 2023年10月18日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1175回)
    アイドル論から見たジャニーズ問題
    ゲスト:中森明夫氏(コラムニスト)
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     かつてアイドル批評家として一世を風靡した中森明夫氏は昨今のジャニーズ問題をどう見ているのか。
     故ジャニー喜多川氏(本名・喜多川擴=2019年7月9日死去)による性加害問題をめぐっては、記者会見におけるNGリスト問題や、NHKの局内で性加害が行なわれていたことが報道されるなど、今なお新たな問題が次々と噴出している。ジャニーズ事務所としては反省と謝罪の意を示しつつも、別会社を設立してみたり、記者会見の質問の操縦を試みたりと、何とかこの急場を凌ぎ、帝国の完全崩壊を未然に防ごうと必死のようだが、そもそも資産1,000億を超える巨大企業を経営の素人の東山紀之氏に委ねるなど、どだい無理な話。
    記者会見では誤魔化せても、結局のところ弥縫策は早晩馬脚を現すことになる。事件の規模や深刻さを考えれば、どう転んでもジャニーズ時代の終焉は避けられない状況だろう。
     しかし、半世紀あまりの長きにわたり日本の男性アイドル文化を独占し牽引してきたジャニーズ時代の終焉は、日本の芸能・アイドル史から見ても、とてつもなく大きな出来事だと、アイドル批評家でコラムニストの中森明夫氏は言う。中森氏は「アイドルは時代の反映ではなく、時代がアイドルを模倣するのだ」と言うが、もしそうだとすると男性アイドル界を席巻してきたジャニーズ時代の終焉は日本社会にとってどのような意味を持つのだろうか。
     中森氏は何を措いてもまず今は、被害者の救済が喫緊の課題であることを強調した上で、評論家としてはジャニーズという1つの帝国の崩壊に際して、ジャニーズをめぐる批評がほとんど出ていないことに不満を感じるという。ジャニーズについては過去にも元フォーリーブスの北公次氏による『光GENJIへ』などでスキャンダルが暴露されることはあったし、もとよりファンのためのファンブックなどは無数に出版されている。
    また、ここに来て、BBCの報道をきっかけにジャニー氏による性加害問題の実態や、芸能界全体が抱えるハラスメント体質や人権無視などにも目が向きつつある。しかし、その一方で、ジャニーズをめぐる批評というものがほとんど存在しないのは確かに不自然だ。中森氏は、この時期にこそジャニーズ文化とは何だったのかについて批評を加えることが批評家としての自らの役割だと考えていると言う。
     ジャニー氏による性加害が表面化したことでジャニーズ時代が終焉を迎えた形になっているが、中森氏は実際のジャニーズ時代の終わりは2016年のSMAP解散騒動の時に始まっていたと言う。1980年代末は、『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』などのレギュラーで放送されていた歌番組が次々と終了し、90年代はアイドル冬の時代と言われた。
    元々アメリカのミュージカルのような煌びやかなショーの実現を目指していたジャニー氏の芸能プロデューサーとしての野望は、華やかな衣装に身を包んだ少年隊や光GENJIの曲がヒットし、光GENJIが1988年にレコード大賞を受賞した段階で、ほぼ達成されていたのではないかと中森氏は言う。
     そして、歌番組のなくなったアイドル冬の時代に、普段着のような平易な服装でバラエティ番組にも嫌がらずに出演することで国民的アイドルになっていったのがSMAPだった。
    彼らはお世辞にもジャニーズの専売特許である歌や踊りが上手いとは言えない、新しいタイプのジャニーズアイドルだったが、そのSMAPが2016年、事務所の退所を巡るトラブルに巻き込まれ、看板番組『スマスマ』内で公開処刑のような形で謝罪をさせられた上に、解散ライブや記者会見もないまま解散に追い込まれ、解散後は事務所を去ったメンバーがあからさまにテレビから干されるなどの憂き目にあった。
    あの時のSMAPの扱われ方を見て、ジャニーズの若手タレントたちは相当に絶望したはずだと中森氏は言う。あれこそが、飛ぶ鳥を落とす勢いで芸能界を席巻してきたジャニーズ事務所の力にこれまでになかった翳りが見えた瞬間だった。
     しかし、中森氏は帝国が崩壊するときには必ず物語が生まれ、その時こそ帝国の真価が問われると語る。アイドル論としてのジャニーズ問題の意味とその先に来るもの、また70年代のスター誕生から始まる数多のアイドルの隆盛とその社会的な意味などについて、アイドル批評家でコラムニストの中森明夫氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・ジャニーズ文化の終焉
    ・アイドルの歴史は社会の歴史
    ・人間の根源的な営みとしての芸能
    ・これからもアイドルは時代に模倣され続ける
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    ■ ジャニーズ文化の終焉
    神保: 今日は2023年10月13日の金曜日、1175回目のマル激です。今日のゲストは16年ぶりの出演になる、コラムニストの中森明夫さんです。中森さんは日本で唯一といってもいいアイドルの評論家で、お名前はもちろん中森明菜からとっています。

    宮台: 中森さんはアイドル評論家を名乗っていますが、実際には小説も読みまくり、時事的な問題も色々フォローアップしているので色々なことが書けると思います。それでいてアイドルという切り口に限定していることがすごいと思います。

    神保: 11月に新著『推す力 人生を賭けたアイドル論』を出されますね。

    中森: 今では推し活という言葉が一般化していますが、推すとは何かということから始まり、アイドルというものは日本にとってどのようなものかということを書きました。自分でも乗りまくって書いたので面白く読んでいただければと思います。今の形のアイドルは1971年から始まるとされていますが、われわれの世代は、一番初めから今に繋がる流れを記憶している最後の世代だと思います。

    神保: 世代的に違う方も中森さんが本で書かれたことを知ってほしいですね。

    中森: アイドルは時代の反映ではない、時代こそがアイドルを模倣するということですね。美空ひばりは戦後復興の先ぶれとして出てきましたし、山口百恵はオイルショック以降の70年代の停滞期の先ぶれ、松田聖子は80年代のバブル景気の先ぶれとして出てきたので、時代がアイドルを模倣したと言っています。

    神保: アイドル論イコール時代論だと思いますが、今このタイミングで出ていただいた理由の1つにジャニーズ問題があります。芸能界ではジャニーズ問題が席巻していますが、今の状況をどのように見ていますか。

    中森: 僕は女性アイドルを専門にしてきましたが、BBCの放送の前に編集者からジャニーズを論じてみないかと言われ、今はフライデーデジタルで連載しているのですが、まさかこういうことになってしまったので内容を大幅に変えました。その前からジャニーズに対する興味はありましたし、いつか取り組んでみたいテーマでした。 
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