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室崎益輝氏:なぜわれわれは過去の震災の教訓を活かすことができないのか
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室崎益輝氏:なぜわれわれは過去の震災の教訓を活かすことができないのか

2024-02-07 20:00
    マル激!メールマガジン 2024年2月7日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1191回)
    なぜわれわれは過去の震災の教訓を活かすことができないのか
    ゲスト:室崎益輝氏(神戸大学名誉教授)
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     能登半島地震から1カ月が経った。2月2日時点で少なくとも240人の死者が報告されており、今なお14,000人以上が避難所での生活を強いられている。また、4万戸以上で断水が続いている。
     日本は災害大国だ。一定周期で大きな震災に見舞われてきたし、毎年のように台風で人が亡くなっている。特に地震については1995年の阪神・淡路大震災や2011年の東日本大震災を経験してきたわれわれは、その経験を通じて、多くの教訓を学んできたはずだ。しかし、今回の能登半島地震でもその時の反省や教訓が活かせていない。未だに避難所は体育館の床で雑魚寝を強いられているし、食料や水の備蓄も代替インフラの整備も至って不十分だった。そのため被害状況の把握が遅れ、災害の被害をより大きなものにしてしまっている。
     防災工学の権威で石川県の防災会議のメンバーでもある室崎益輝・神戸大学名誉教授は、まず事前の備えが不十分だったことを悔やむ。自身が県の防災会議の震災対策部会長を務める室崎氏は、今回地震への初動が遅れたり、対応が追いついていない原因として、石川県の地域防災計画の被害想定が甘かったことを指摘する。被害想定が甘かったために、明らかに十分な備えができていないところに、想定外の大きな地震が襲った格好だ。
    石川県の防災計画は27年前に策定されたままの状態で、早ければ今年からその見直し作業に着手する予定だった。県の防災計画は国が策定する地震の長期予想を受けて策定されることが多く、石川県もそれを待っていた状態だったというが、室崎氏は国から予想が示されるのを待たずに、県の防災計画の見直しを進めるべきだったと語る。古い防災計画が想定していた地震は死者7人しか想定されていないなど明らかに小さく見積もられていたため、それに見合った対策しか取られていなかったのだ。
     今回の能登半島地震の特徴は、激しい土地の隆起が起きたため、全域で道路が寸断され水道管が破損したことだ。そのため、孤立集落が多くできたほか、広い地域で何カ月も断水が続くこととなった。道路が寸断されて物資が届かなくなることが想定されていれば、備蓄を増やしたり、海や空から物資を輸送する方法を予め準備することも可能だった。長期の断水が想定されていれば、地域ごとにバックアップの水源を用意するなどの対応がとられるべきだった。
     室崎氏は石川県は早急に被害想定を見直す必要があるし、その他の地域でも正しい被害想定を策定した上で、然るべき備えをする必要があると語る。
     今回の震災では地震発生後、石川県の馳知事らが、しばらくの間はボランティアの被災地入りを控えるように呼びかけた。2次的な被害を引き起こす可能性があるというのがその理由だった。室崎氏は、ボランティアを制限するべきではなかったと言う。地震災害時には、がれきの撤去だけでなく、避難所での子どもの遊びの手伝いや温かい食事の提供、届いた物資の仕分けなど、大量のボランティアが必要だ。
    実際、今回も被災地では明らかにボランティアの手が足りず、溢れるほどの物資が届いていても、必要とされる支援を必要な人に届けることができていなかった。
     避難所の環境が悪いことも改善されていない。現在も多くの避難所では体育館などの床にそのまま布団を敷いて寝る「雑魚寝」状態が続いている。土足のままで入れる避難所も多くあるため、寝ている人の顔のすぐ隣を雪道を歩いてきた汚れた土足で歩くのは非常に不衛生だ。東日本大震災の教訓として、避難所では簡易ベッドや段ボールベッドを使おうという話になっていたはずだが、現実にはほとんどの避難所でそれが実現しなかった。
    また、避難所の食事も相変わらず貧しいままだ。これも不十分な備えに起因するところが多いが、東日本大震災では1,600人を超える災害関連死の3割が苛酷な避難所生活が原因で亡くなっている。災害関連死をゼロにするためには、避難所生活の質を上げることが不可欠だ。
     それにしてもなぜ日本では過去の震災の教訓が伝承され、次の震災で活かされないのか。その要因の一つに恒常的に震災に対応する政府機関が存在しないことがあるのではないか。常設の機関がなければ、ノウハウは蓄積されにくい。日本では国の組織としては防災は内閣府の防災担当が担い防災担当大臣の下に政策統括官と10部署に分かれた参事官が設けられているが、スタッフは総勢で92人しかいない。
    常勤職員が7,600人もいるアメリカのFEMAとは比べるまでもないが、防災担当大臣や副大臣、政務官は他の多くの役職を兼務していて、防災に専念できる状態にはない。そもそも防災の専門家でもない大臣の下、100足らずのスタッフで大規模震災に対応できるのか。また、そこで培ったノウハウを継承していけるのか。災害大国という日本の事情を考えると、政府の防災体制は考えられないほど手薄ではないか。
     その一方で室崎氏は、災害時には行政だけに頼るのではだめだと言う。あくまで自分たちで自分たちの町を守っていく気概を持つことが基本だという。室崎氏は、災害の基本は「風(ボランティア)」と「水(地域にいる専門家)」と「土(住民)」だという。風であるボランティアが種を運んでくるが、それを植える土である住民1人1人にも防災力がなければならない。さらに、専門的な危機管理ができる防災士などが地域の中に根付いていなければならない。防災の力を持った人を地域全体で育てていく必要がある。
     能登半島地震でも過去の震災の教訓やノウハウが活かされていないのはなぜか。こんな状態で日本はその何十倍、何百倍もの被害をもたらすことが予想されている東南海トラフ地震への備えはできているのかなどについて、防災の一人者の室崎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・現在の防災システムは高齢社会に十分対応できない
    ・物理的な回復と社会的な回復
    ・不十分だった石川県の地震被害想定
    ・災害時に最も力を発揮するのは普段のコミュニティ
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    ■ 現在の防災システムは高齢社会に十分対応できない
    神保: 今日は2024年2月3日の土曜日で、これが1191回目のマル激となります。1月1日の能登半島地震から一カ月が経ち、メディア報道も下火になってきています。そろそろ初期報道が収束してくる段階ですが、実はここからいろいろな意味での戦いが始まり、今回の教訓をどうやって残すのかなどいろいろなことが問われてきます。

    宮台: 僕の仲間たちがまとまった人数で能登半島に入りボランティアの支援を行いましたが、まず個々の地震で違った学びがあるということを覚えておく必要があります。したがっていかにそれを後で使えるように情報として蓄積するのかが重要です。

    神保: 受け皿がなければノウハウが蓄積されないということはずっと言われていることですよね。日本の場合は役所だけを作り新しいポストができてもそれが本当に動くのかという問題があります。多くの場合、寄せ集めの役所になってしまうのでそろそろこういったことをやめなければなりません。

    内閣府の中には防災担当という部署があり、そこがアメリカでいうところのFEMAのようなものですが、FEMAには7,600人くらいの人員がいる一方で内閣府の防災担当は92人しかいません。その上、大臣はいろいろな仕事を兼務している上での防災担当大臣です。したがって本気で防災をする気があるのかと思ってしまいますが、お金は結構使っています。

    宮台: 日本の行政はお金を使うけれど有効ではないというのが定番ですよね。しかしアメリカのFEMAもハリケーンが起こった時にいちいちFEMAのお伺いを立てなければ地域の防災行政が動かないという大問題がありました。インフラやロジスティクスがほとんど崩壊した状態で動かなければならないので、災害時に司令塔として機能すると考えることが誤りだという考え方になりました。司令塔として機能するのは普段なんです。
    普段どういう備えをするべきで、どういうノウハウを蓄積すべきなのかということについてイニシアチブを執り、いざ非常にシビアな災害が起こった時には自分たちで動けるようにするということが大事で、従来の近代的な軍隊のようなトップダウン型の行政よりもゲリラ戦に近いような形で動かなければ災害の有効な対処はできないということです。 
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