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マル激!メールマガジン 2024年6月19日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1210回)
緊急時に国の権限を強化する法律をこのまま通して本当にいいのか
ゲスト:永井幸寿氏(弁護士)
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 国にそこまで大きな権限を委ねて大丈夫なのか。また、それは真に問題の解決につながるのか。
 緊急時に地方自治体に対する国の指示権を強化する地方自治法の改正案が先月衆院を通過し、現在参院で審議中だ。今国会で成立の見込みだという。しかし、この法案は政治資金規正法改正審議の陰であまりメディアでは取り上げられていないが、緊急事態条項にもつながるおそれがある重大な法改正になる。
 地方自治法改正案は総務省が公表している概要によれば、大規模な災害、感染症のまん延など「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例」として、国の地方公共団体に対する指示権を補充的に認めるもの、となっている。
 しかし、日弁連の憲法問題対策本部委員である弁護士の永井幸寿氏は、改正案は地方自治体に対する国の権限を広く認める内容となっており、「補充的」というのは言葉のまやかしに過ぎないと警鐘を鳴らす。国が権限を行使する要件として、個別法では指示できない場合に、事態の規模・態様等を勘案して判断するとなっているが、解釈でいかような運用も可能な内容になっているからだ。
 阪神・淡路大震災の際に自身の事務所が全壊した経験を持つ永井氏は、長い間災害法制の問題に関わってきた。災害対策基本法では原則として災害の応急対応の第一次的な責任を負うのは市町村であり、市町村が機能不全に陥っている場合は、都道府県が支援することが定められている。永井氏は、国主導による市町村合併や財政改革で職員数が減少するなど市町村の自治能力が落ちている面はあるが、だとしても国はあくまで後方支援にとどめるべきだと指摘する。
 そもそも大規模災害や新型コロナ対策において、国がより強い権限を持っていればより好ましい対応ができたと考えられる立法事実は存在しないと永井氏は言う。むしろ、現場の状況を把握できていない中央からの指示が混乱の原因になることが予想される。災害現場に近く現場のニーズがよくわかっていて、なおかつ迅速で柔軟な対応ができるのは市町村だ。国の指示ではなく、地方自治体の自主的な取り組みが効果を発揮した事例は枚挙に暇がない。
 特に緊急時には権力が濫用されやすい。だからこそ、これまで個別法で要件を厳しく決めて対応してきたはずが、今回の地方自治法改正はそうした積み上げを無にする。これは改憲を伴わない緊急事態条項ではないかと永井氏は危惧する。
 地方分権に逆行する今回の法改正の課題を、永井幸寿氏と社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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今週の論点
・コロナの後、火事場泥棒のように浮上した地方自治法改正案
・市町村合併で自治体の力を削いでおきながら指示権を手に入れようとする国
・憲法改正によらない緊急事態条項の導入になる
・可決されたとしてもまだ終わりではない
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■ コロナの後、火事場泥棒のように浮上した地方自治法改正案
迫田: 国会の審議が最終盤に入っていますが、今日はその中で審議されている法案の一つである地方自治法の改正案を取り上げます。なかなか報道されていませんが、私たちの生活に大きな影響を及ぼす問題です。

宮台: 生活にも影響しますし、われわれの国の未来にも影響する問題です。日本は災害国家ということもあるので、中央集権で国全体を統治するというのは無理です。だからヨーロッパやアメリカ並みに分権化を進めるということが非常に重要になります。特に災害時には、東京や県庁所在地などの中央には、被災地の生活形式などが全く分からない。したがって、共同体自治を貫徹することが非常に重要になります。

迫田: 今まさに地方分権が大事なのに、それに逆行する法律なのではないかということですね。今日はこの問題をきっちり伺おうと思い、弁護士の永井幸寿さんに来ていただきました。日弁連で、以前は災害復興支援委員会の委員長をされていて、現在は憲法問題対策本部の委員を務めています。阪神・淡路大震災で被災されたそうですね。

永井: はい、事務所が全壊しました。それから災害法制にずっと関わっています。

迫田: 今回の改正案も、災害あるいは新型コロナをきっかけに国の権限を強化しようという話ですね。

永井: いわゆる災害3バカといいまして、この機会に金を儲けたい、この機会に有名になりたい、これを政治に利用したいという人がいるわけです。今回もその1つです。

迫田: 地方自治法改正案について総務省が「概要」というものを出しています。「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例」を定めるということです。具体的には、(1)国による地方公共団体への資料又は意見の提出の求め、(2)国の地方公共団体に対する補充的な指示、(3)都道府県の事務処理と規模に応じて市町村(保健所設置市区等)が処理する事務の処理との調整、(4)地方公共団体相互間の応援又は職員派遣に係る国の役割などが挙げられています。

永井: 概要に書かれていても、法律には書かれていないことがあります。まず概要には「特例」だと書いてありますが、法案には書いていない。つまり原則です。国の指示などは特別な場合だけ認められるわけではなく、非常に広い範囲で認められることになります。また、概要には「補充的」な指示と書いてありますが、法案には書かれていません。補充的ならば改正する必要はありません。