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青木理氏:公益通報者を逮捕し報道機関にまでガサ入れをする鹿児島県警をどう裁くべきか
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青木理氏:公益通報者を逮捕し報道機関にまでガサ入れをする鹿児島県警をどう裁くべきか

2024-08-06 20:00
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    マル激!メールマガジン 2024年7月24日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1215回)
    公益通報者を逮捕し報道機関にまでガサ入れをする鹿児島県警をどう裁くべきか
    ゲスト:青木理氏(ジャーナリスト)
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
     日本には本来は先進国であれば必ず備わっていなければならない警察の犯罪を中立的な立場から捜査する仕組みが存在しないことをご存じだろうか。
     鹿児島県警は警察関係者の犯罪を内部告発した元幹部を逮捕し、その情報提供先となったネットメディアの事務所に家宅捜索に入った。どんな組織にでも多少は身内贔屓はあるかもしれないが、これはもはやそんな次元を超えた、公益通報者保護制度の破壊であり、報道の自由の侵害に他ならない。
     鹿児島県警は今、2つの内部通報に揺れている。1つは元県警生活安全部長の本田尚志氏が警察による隠蔽が疑われる事件について告発文を送ったというもの。もう1つは同じく県警元巡査長の藤井光樹氏が不正捜査が疑われる事案について資料などを提供したというものだ。
     いずれも警察の不正を内部から告発するもので、福岡県をベースにネットでニュースを配信している「ハンター」とそこに寄稿しているフリーのジャーナリストに情報は提供されていた。これはいずれも組織内の違法行為を告発するもので、明らかに公益通報の範疇に入るものだったが、鹿児島県警は内部告発者を逮捕し、ハンターの事務所を家宅捜索した。
     藤井氏は県警の「告訴・告発事件処理簿一覧表」などの資料をハンターに提供したとして4月8日、地方公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで逮捕され、5月20日に起訴されたが、その処理簿には2021年の強制性交事件に関する情報などが含まれていた。これは医師会の職員による看護師に対する強制性交事件で、被害者の度重なる訴えにもかかわらず事件化されていなかったが、その職員の父親は鹿児島県警所属の警察官だった。
     藤井氏は7月11日に鹿児島地裁で行われた初公判で起訴内容を認め、争わない姿勢を示しているが、同時に強制性交事件の捜査に疑問を感じたことが告発の動機だったとも述べている。この問題を取材しているジャーナリストの青木氏は、藤井氏の行動は公益通報以外の何物でもないと指摘する。
     県警はハンターの事務所を家宅捜査した際に、パソコンやハンターの代表者である中願寺純則氏の携帯電話を押収しているが、その中にあったデータから藤井氏の他にも内部告発者がいることを突き止め、藤井氏に続いて元生活安全部長の本田氏が逮捕された。
     本田氏もまた鹿児島県警の職員によるストーカー事件や盗撮事件に関する情報を提供していたが、いずれの事件も事件化しておらず、警察による身内の隠蔽が疑われるものだった。本田氏は告発文の中で「闇をあばいてください」と訴えていた。
     今回露呈した問題は大きく分けて3つある。まず警察官による犯罪は県警のトップである本部長の直轄案件となるため、本部長自らが隠蔽を指示していた疑いが濃いということ。犯罪の隠蔽、しかも被害者が存在する犯罪の隠蔽ということになれば、身内贔屓で済まされる問題ではない。加えて、今回の強権発動は警察という組織では決して内部告発は許さないという強い意志を示すことが目的だと思われるが、そのために内部告発した警察職員を様々な理由をつけて「あれは公益通報には当たらない」と決めつけ逮捕までしていること。
     そして、3つ目が、内部告発者を特定する目的で情報の提供先となったメディアに強制捜査にまで入ったことだ。言うまでもなく1つ目は警察という組織の信頼の根幹を揺るがすものだし、2つ目は公益通報者保護制度を根底から破壊する行為、そして3つ目は報道の自由を侵害する憲法違反に他ならない。
     実際、警察官による犯罪が疑われる行為は表沙汰になったものだけでも非常に多い。一般市民で得られない情報を得られる立場にあり、強大な権力を持った警察官は、よほど規律を厳しく徹底しないと、容易に犯罪に手を染めかねない立場にいる。しかも、警察が警察官を逮捕することは希だし、仮に捕まっても自身の経歴に傷を付けたくない県警本部長の温情と身内贔屓の体質故に、罪に問われずに処理されてしまう場合が多い。
     しかし、今回鹿児島で起きたような内部告発が許容されれば、どこの警察にも正義感を持った警察官が多少なりともいるだろうから、下手をすると日本中の警察で内部告発が乱発され、収拾が付かなくなるおそれがある。少なくとも鹿児島県警の野川明輝本部長がそう考えたとしても不思議はないだろう。
     今回、警察の内部告発者2人が、記者クラブに加盟する数多ある大手メディアではなく、小さなネットメディアを通報先に選んだことを、既存のメディアは深刻に受け止める必要があるだろう。藤井元巡査長も本田元生活安全部長も、記者クラブに加盟する大手メディアに情報を提供しても報道されないばかりか、下手をすると彼らの情報提供の事実が警察に通報されることを恐れた。
     警察の内部事情や日頃の警察と記者クラブとの関係をよく知る元警察官だからこそ、警察官の犯罪を告発する対象としては既存のメディアがまったくあてにならないことを熟知していたはずだ。実際に今回内部告発者の警察官が逮捕された事件も、一部で報道はされているが、事態の深刻さを考えると、その報道量はまったく足りていない。
     極めつけは藤井氏がハンターに提供した一連の情報の中にあった、警察内で回覧されている「刑事企画課だより」という資料だ。これには、事件記録を速やかに廃棄するよう促す内容が記された上で、「再審や国賠請求において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」などと書かれていた。後に警察に不利になりそうな資料はあらかじめ全部廃棄しておけという警察内の指令だ。一体、警察はどこまで腐ってしまったのだろうか。
     一連の事件が露わにしているものは、警察の隠蔽体質はもとより、そもそも犯罪を取り締まる立場にある警察の犯罪は誰が取り締まるのかという問題が日本では未解決となっていることだ。泥棒に泥棒が捕まえられるわけがない。日本では本来は国家公安委員会と各都道府県に設けられた公安委員会がその任にあたる立場にあるが、歴史的に公安委員会は警察によって骨抜きにされ、本来の機能を期待すべくもないお飾りの組織に成り下がっている。
     しかも、青木氏によると、年収2,000万円を超える公安委員会の委員には大手報道機関のOBにまで指定席が用意されているという。警察の腐敗も深刻だが、警察とメディアとの癒着も底なし沼だ。
     鹿児島県警で今何が起きているのか、警察の身内の犯罪の隠蔽や内部告発者の逮捕、メディアへの介入を許していいのか、警察の犯罪は誰が取り締まるべきなのかなどについて、この問題を取材しているジャーナリストの青木氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・明るみに出た鹿児島県警の数々の不祥事
    ・内部告発者をこれ以上出さないための見せしめ逮捕
    ・鹿児島県警だけの問題では済まされない
    ・関西生コン事件にも通じる警察・検察の暴走問題
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    ■ 明るみに出た鹿児島県警の数々の不祥事
    神保: 本日のゲストはジャーナリストの青木理さんです。 今回は鹿児島県警のあまりにもひどい隠蔽体質の話を伺いたいと思いますが、まずは問題のあらましを話していただけますか。

    青木: 僕は長い間、事件取材も含めて警察に取材してきましたが、こんなに出来の悪い警察小説のようなあからさまな権力犯罪はそうそう記憶にありません。鹿児島県警の最高幹部である前生活安全部長が定年退職をした後、不祥事が隠蔽されているということを匿名でフリージャーナリストに手紙を送って告発しました。しかし鹿児島県警はメディアに強制捜査をして生活安全部長が告発をした事実を掴み、生活安全部長を守秘義務違反で逮捕してしまいました。
    この生活安全部長が告発した内容である、県警のトップである本部長を筆頭として不祥事を隠蔽したということが事実であれば公益通報になります。公益通報者を、警察が持っている最高の権力である逮捕をして捕まえたということは口封じではないのかという問題があります。
    もう一つは、メディアに強制捜査をしてメディアにとって最も大事な取材の情報源を割り出し、その情報源であった人物を捕まえたということが許されれば、ジャーナリズムの根幹的な価値が警察によって完全につぶされるということになります。

     今日は色々な話が出てくると思いますが、鹿児島県警がひどいという話で終わらせてはいけないと思います。生活安全部長は鹿児島県警で採用されたノンキャリアの職員の最高到達点なので、こういう人物を逮捕するという判断は鹿児島県警だけでできるはずがありません。警察庁にお伺いを立て、ゴーサインが出たから捕まえているということです。
    当然のことですが、生活安全部長が内部情報を流出させていたことを特定した経過も含めて、警察庁がゴーサインを出したのであれば、これは鹿児島県警だけの問題ではなく、日本の警察組織全体の問題だと捉えるべきだと思います。

    神保: 警察には歴然とキャリアとプロパーの違いがあります。叩き上げという言い方が良いかどうかは分かりませんが、地元で上がってきた人の最高到達点は生活安全部長や刑事部長になります。その上に、中央から2年か3年の任期で来た県警本部長がいます。この人は警察官僚で、いろいろなところを渡り歩いて出世していきます。
    鹿児島県警では、中央から送られてきた本部長の野川明輝さんが隠蔽を行ったということを前生活安全部長である本田尚志さんが主張しました。本田さんは現職の時に情報を漏らしているのですか。

    青木: 本田さんは定年退職をし、その後札幌で活動している小笠原淳さんというフリージャーナリストに手紙を送り告発をしました。なぜ小笠原さんという人に送ったのかといえば、福岡に「ハンター」というネットメディアがあり、ハンターは一生懸命鹿児島県警の不祥事を追及していて、小笠原さんもハンターで記事を書いていたからです。
    本田さんはハンターに送ろうと思ったのですがサイトに住所が書いておらず、代わりに小笠原さんの住所があったので、そこに送ったということです。 
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