マル激!メールマガジン 2024年7月31日号
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渡邊啓貴氏:なぜヨーロッパの右傾化が止まらなくなっているのか
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(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1216回)
なぜヨーロッパの右傾化が止まらなくなっているのか
ゲスト:渡邊啓貴氏(帝京大学法学部教授、東京外国語大学名誉教授)
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ヨーロッパの右傾化が止まらない。
欧州議会選挙に続いて、フランスの下院総選挙でも極右勢力が軒並み躍進を遂げた。ヨーロッパはこのまま右傾化していってしまうのか。それともこれは一時的な現象なのか。
また、ヨーロッパの極右政党の主だった政治的主張は、現在大統領選挙の佳境を迎えつつあるアメリカのトランプ前大統領が主導する「MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」の主張とも酷似している。欧州と米国の両方で右傾化や極右化が進めば、日本にもその影響が出ないはずがない。
6月に行われた欧州議会選挙における右派の躍進に危機感を覚えたフランスのマクロン大統領は6月9日、唐突にフランス下院を解散し総選挙の実施を宣言した。6月30日と7月7日の2回に渡ってフランス全土で実施された総選挙では、マクロンの思惑とは正反対の結果が出てしまった。元々単独では過半数に届いていなかったマクロン大統領の支持基盤である与党連合は、78議席を失い168議席まで減らす大敗を喫した。
しかし、極右政党国民連合の伸張に危機感を覚えた29以上の勢力から成る左派が力を結集し、与党連合と200以上の選挙区で候補者の一本化を図った結果、最終的には全577議席中左派連合が最多の182議席を獲得し第1党となり、国民連合は54議席増の143議席にとどまった。
結果的に左派が大きく議席を伸ばすことにはなったが、それもこれも国民連合の躍進を阻止するために左派が小異を捨てて大同についた結果だった。
フランス政治に詳しい渡邊啓貴氏は、フランス総選挙は2つの意味でマクロンの完敗だったと断言する。1つ目はマクロンが率いる与党連合が大きく議席を減らしたこと。また、もう1つは極右勢力の議席獲得を防ぐために与党連合と左派連合が選挙協力した結果、マクロンと敵対するメランションの率いる急進左派政党「不服従のフランス」などが、第1党になってしまったことだ。
フランスでは当面パリ五輪とバカンスシーズンということもあり政争は休戦に入るが、首相に誰を据えるかも含め、マクロン政権は政治的に困難な舵取りを求められることは必至だ。
渡邊氏は今回の選挙で急進左派を含む左派連合と極右勢力が議席を伸ばしたことについて、右派も左派もポピュリズムに訴えて支持を伸ばしてきた点を指摘する。フランスでは移民の急増に対する反発と、コロナ後の収束やウクライナ戦争以降のエネルギー価格の高騰による高いインフレが問題となっており、低所得層や生活困窮者にとっては、いずれも看過できない問題となっている。極右政党も急進左派政党もいずれもこの争点を掲げて選挙戦に臨んできた。
移民の急増やインフレによる生活困窮などが起きた時、市民は将来不安を覚える。元々、右派も左派もそこに訴えかけるのがポピュリズムだ。ポピュリズムは市民の熱狂を巻き起こしやすいのに対して、極端な政策を掲げない中道は支持が集まりにくい。そもそも「中道ポピュリズム」というものは成り立ち難いからだ。
一方、それくらい脅威になるほど、近年のフランスでは極右勢力が伸びてきていることも確かだ。2012年には2議席だった国民戦線(現・国民連合)の下院の議席数は、2017年に8議席、2022年に89議席、そして今回の選挙では143議席に達している。このまま党勢を増せば、時間の問題で過半数の289議席に到達すると見る向きもある。
そして、極右政党が勢力を伸ばしているのはフランスに限ったことではない。EU圏内ではすでにイタリアやハンガリーで、極右政党が国のトップの座についているし、ドイツやオランダ、スウェーデンでも極右政党が勢いを増している。
そしてアメリカでもトランプ現象だ。バイデン大統領の選挙戦からの撤退で大統領選挙の方はまだ先行きが見えなくなっているが、少なくともここまでは全体としてトランプ陣営に勢いがあることは明らかだ。
ヨーロッパでもアメリカでも、これらの政治勢力はほぼ例外なく自国第一主義を掲げ、反グローバリゼーション、反移民・難民、反イスラム、反気候変動対策などを主張している。そして、特にフランスではEU懐疑主義は急進左派にも共通した政策となっている。右派も左派も伝統的な経済政策を維持することが難しくなり、いずれもがポピュリズムに訴えることで支持基盤を広げる道を選んだ結果と考えられる。
ヨーロッパの極右勢力の台頭にはどのような背景があるのか、ヨーロッパはこのまま右傾化していくのか、それは世界や日本にどのような影響を及ぼすのかなどについて、帝京大学法学部教授の渡邊啓貴氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・欧州の極右勢力の伸長-欧州議会選挙とフランス総選挙
・欧州の右派ポピュリストとトランピズムの共通点
・世界的な右傾化は一時的な現象なのか
・日本に保守化の流れが輸入されるとどうなるか
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■ 欧州の極右勢力の伸長-欧州議会選挙とフランス総選挙
神保: 今日はヨーロッパの政治情勢や右傾化の話をテーマに選びました。アメリカのポピュリズムとの共通点や相違点を見て、それが日本でも起きるのかどうかについても考えたいと思います。
今回は大きく分けて2つの選挙を取り上げます。1つは、6月6日から9日まで行われた欧州議会選挙です。改選前は過半数を切っていた右派の政党が全体の過半数を占めました。右派が伸びてその分左派が縮んだという状況になっていて、この選挙の結果を見てフランスのマクロン大統領が解散総選挙をしました。
その結果、フランス下院では左派連合が前回の2022年の選挙で142議席だったものを182議席に増やし、右派連合も89議席から143議席に増やしました。それによってマクロン大統領の支持基盤である与党連合は246議席から168議席まで数を減らしました。欧州議会選挙では特に極右が非常に伸び、また欧州議会選挙におけるフランスの結果を見ても右派が過半数を取っているように見えます。
渡邊: 右左という分け方をするとそうなりますが、それよりもEU統合に賛成か反対かというところが重要です。欧州議会選挙では、中道右派の欧州人民党(EPP)はキリスト教的要素が入っているので思想的には保守になるのですが、欧州統合には賛成派です。
欧州議会もフランス議会も、何を見るべきなのかといえばEU統合に賛成か反対かという軸になります。しかし左派政党の全てがEU統合に賛成しているのかといえばそうではなく、極左政党には反対している人が多い。そうなると、EU統合については極左と極右がくっついてしまいます。
宮台: 欧州議会とは何なのかと思う人もいるかもしれないので説明すると、EUに属する国は国民国家なのですが、その主権の一部がEUに移譲されているという補完性の原則に基づく建付けがあります。したがって、日本やアメリカのように国家が自由に金融政策を決められるようにはなっていません。
渡邊: 主権の移譲と言うと反発が起きるので、最近は右でも左でも主権の共有という言葉を使います。ブリュッセルにある本部が中心でもその他の国や地方が勝手にやっていい部分もあるわけで、両方から見た補完性なんです。中心でやっても足りないところは地方でやり、地方でやりたいことを中央からカバーしてもらいながらやるということで、そういう意味で主権の共有という少しごまかしのような言葉を使っています。
しかしそれはいけないと主張するのが極右と極左の人たちです。主権とはブリュッセルの高級官僚のエリートたちのものではないんだという発想になります。
神保: EUを作った段階で一部の主権を共有し、EUが自分たちの行動を制約するということは分かっていたわけですよね。しかしEUに入るメリットも大きいので、嫌なことがあったとしても十分にメリットがあると考える人が多かったものが、今は段々とそれが逆転してきてしまったということなのでしょうか。あるいは何か状況が変わってしまいEUに対する風当たりが強くなったということなのでしょうか。
渡邊: 主権にも色々な種類があります。市場の問題としての主権、文化的な主権、政治的な主権、理想はこういうものを合わせて一つの国家のようになることで、経済から順番にやってきました。市場経済についてはこれがグローバリゼーションの波だと考えると、皆すとんと腑に落ちるんです。
しかしそこで問題になるのは、勝ち組と負け組が出てきてしまうということです。厳しい状況に置かれている人は当然反発します。すると、市場経済や経済的な合理主義は幻想だと考え、EU統合そのものに反対する人たちが出てきます。
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