マル激!メールマガジン 2014年4月2日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第676回(2014年03月29日)
ロシアのクリミア編入に見る新しい国際秩序
ゲスト:廣瀬陽子氏(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
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ロシアによるクリミアの編入に世界が衝撃を受けている。大国が軍事力にものを言わせて小国から領土を分捕るような古典的な力の政治は第二次大戦以来、世界が経験してこなかったものだったからだ。半世紀に及ぶイデオロギー対立を前提とする冷戦と、その後の混沌たるポスト冷戦の時代を経て、世界は再び古い力の政治の時代に舞い戻ろうとしているのか。それともこれはこれまでとは全く異なる新しい世界秩序の始まりなのか。もしそうだとすると、対立の中身は資源なのか、それとも何か別の新しいものなのか。
2月下旬にウクライナで起きた政変は親ロシアのヤヌコビッチ政権を転覆させ、よりEU寄りの新政権の樹立に向かうかに見えた。ところがロシアは政変そのものに介入するのではなく、実を取りに出た。ロシア人の安全確保という大義名分の下、クリミア半島に軍を派遣し、クリミア自治州をウクライナから離脱させるという力技に打って出たのだ。
この事態にEU諸国やアメリカなどはロシアによる事実上のクリミア併合であるとして厳しく反発し、さまざまな制裁を行っているが、効果を上げているようには見えない。クリミアのためにロシアと本気で一戦交える気など誰にもないことが明らかだからだ。
しかし、それにしてもロシアはなぜいきなり力による領土の編入などという思い切った施策に打って出たのだろうか。ロシア問題に詳しい慶應義塾大学准教授の廣瀬陽子氏はクリミア半島にある軍港セバストポリがロシアにとって戦略上非常に重要な意味を持っていたことを強調する。ロシアの領土沿岸部はほとんどが寒冷地であるため、不凍港で黒海経由でアジアやアフリカへの玄関口となるセバストポリはロシアの安全保障上の生命線とも言っていいほどの重要な戦略的意味を持つ。ウクライナに親EU政権が成立し、クリミアにNATO軍の基地ができるような事態をロシアが恐れても不思議はない。
今回のクリミア問題には、国際政治の古くて新しい論争の要素もあると廣瀬氏は指摘する。クリミアはロシア系住民が6割を占める親ロシア地域だ。ロシアとウクライナのどちらかを選ばなければならない住民投票を行えば住民の多数がロシアを選ぶ可能性が高い。
ロシアによるクリミア編入は国際政治の歴史的な文脈の中でどのような意味を持つのか。これが今後の国際政治の流れの一つの源流を作る可能性はあるのか。そうした中で日本は何を考えなければならないのかなどについてゲストの廣瀬陽子氏、国際政治学者の山本達也氏とともに、ジャーナリストの神保哲生が議論した。
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今週の論点
・地政学的なクリミアの重要性とは
・国際社会のルールは「変わった」のか、「戻った」のか
・「ポスト冷戦期」の新しい秩序
・ロシアに対する欧米の立場と、苦境に立たされる日本
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