マル激!メールマガジン 2015年3月18日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第727回(2015年3月14日)
川崎中1殺害事件の教訓とこれから私たちにできること
ゲスト:土井隆義氏(筑波大学人文社会系教授)
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 川崎市で13歳の少年が殺害された事件は、われわれに何を投げかけているのか。2月20日に川崎市の河川敷で、市内の中学1年生、上村遼太君の遺体が発見され、27日には主犯格とされる18歳の少年ら3人の未成年が逮捕された。報道では概ね犯行を認めているという。
 その後、遼太君一家が、1年あまり前に島根県の西ノ島から移転してきたばかりだったこと、遼太君は1月から一日も学校に登校していなかったこと、今回の加害少年から繰り返し暴行を受け、顔にアザを作っていたこと、遼太君の家が母子家庭で5人の子どもを抱えた母親は日々の仕事に追われ、異変に気づかなかったこと、などが明らかになっていった。
 13歳の少年が夜な夜な出かけて行くのを、母親はなぜ止めなかったのか。中学1年生が1ヶ月以上にもわたって不登校だったのに、学校は異変に気づかなかったのか。警察はトラブルの存在を知らされていたのに、なぜ何もしなかったのか。
 子どもの非行問題などに詳しい筑波大学教授の土井隆義氏は、遼太君がなぜ自分に暴力を振るう年上の仲間たちと一緒にいたのかや、今日、少年らがどういうつながりで日々を過ごしていたのかなどを考える必要があると指摘する。土井氏によると、今日の子どもの世界は「フラット化」していて、かつてのような同世代、同じ学校、同じ部活のようなシステム上の枠でグループを形成するのではなく、特定の趣味や遊びを接点にして年齢に関係なくつながる傾向にあるという。
 土井氏はまた、遼太君について周辺の人々が口を揃えて「明るくいい子だった」と語っている点にも着目する。島根県の離島に生まれ、9歳で両親が離婚し母子家庭になり、小学6年になって川崎に引っ越してきたばかりだった遼太君は、学校や家庭では懸命にいい子を演じなければならないと感じていたのではないか。そんな遼太君にとって、共通の趣味を持つ少年たちのグループが、唯一の居場所となっていた可能性が否定できない。母親の責任を問う声もあるが、シングルマザーで5人の子どもを抱え、昼間は介護の仕事をし、夜はスナックで働いて家計を支えていた母親を、一体誰が批判できるだろうか。
むしろ、われわれはそのような状況に置かれている家庭が決して少なくないことに着目する必要がある。これは子どもの問題ではなく、大人の問題であり、社会の問題として受け止める必要があるのではないか。土井隆義氏とともに、この痛ましい事件でわれわれ一人ひとりが考えなければならないこととは何なのかを、神保哲生と宮台真司が議論した。
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今週の論点
・人間関係の「フラット化」がもたらす、新たな問題
・この事件はなぜ、防ぐことができなかったか
・いまこそ求められる、地域における「斜めの関係」
・“見物人”を満足させる重罰化のメカニズムに乗るな
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