80年代以降の日本の音楽を「V系」という切り口から問い直す、市川哲史さんと藤谷千明さんの対談連載『すべての道はV系に通ず』。後編では、TwitterなどのSNSの普及が、ヴィジュアル系カルチャーにもたらした変化について、ゲストの蟹めんまさんと一緒に考えます。(構成:藤谷千明)
今のバンギャルは解散を恐れてお布施する
市川 めんまさんがいま中高生だったとしたら、バンギャルになっていたと思う?
めんま なっているとは思うんですけど、現代のバンギャルって私が中高生の頃のそれより、ずっと大変だと思うんですよ。
市川 あ、そっか。現代の子たちは〈商品を買うこと〉をまず、要求されてるもんね。
めんま そうなんですよ。「買わなきゃいけない」なんて義務はもちろん無いし、みんな好きで買ってるんですけど、「買わないと解散しちゃうんじゃないか」みたいな〈圧〉は私たちの頃よりずっとあると思うんですよ。「バンギャルはこういう気持ちでCDを買ってます!」ってひとくくりにするのは良くないんですけど、明らかに90年代とは空気が違います。
市川 圧かぁ。V系黄金時代だった90年代と較べれば、明らかにバンギャル一人ひとりに対するバンドの依存度は増したと思うよ。たしかに。
藤谷 分母が減ってるんで、それは仕方ないとは思うんですが。だってジャンル問わず、ミュージシャン自身が「活動を続けたいからCDを買って欲しい」「チケットを買ってライヴに来て欲しい」ということを公言する機会も増えましたし。
めんま 私が中高生の頃は、自分の好きなバンドが「(売れなくて)解散するかも」って考えたことなかったのに。現代で中高生バンギャルでいるということは、思春期に好きなバンドの解散をたくさん経験するってことなので、きっと辛いだろうなぁ。
藤谷 たとえば90年代のブーム期の解散の理由って、〈売れないから〉というより〈売れ過ぎて〉解散みたいなケースの方が印象に残っています。人気が出て急激に環境が変わって、いろいろなものが狂ってしまった上での空中分解ってパターン。
めんま 私は「人気過ぎるとミーハーなファンがつくから嫌だ」とか、「売れると誰かがソロ活動始めてバンド活動に支障が出るし嫌だ」とか本気で思ってた世代ですね。いまそういうバンギャルさんは、年齢問わず見なくなりました。
藤谷 インディーズならともかく、メジャー・デビューしている人たちが「CDを買わないと活動が立ち行かなくなりますよ」なんて言う状況、当時は考えたこともなかったんです。メジャー・デビュー後のインタヴュー記事で、皆が「外車買った」って話をしていた時代……(←遠い目)。
市川 V系に限った話じゃないよ。もうバンドブーム以前から続く、日本人のいじましい伝統だから。売れるとまず、収入が増えます。収入が増えると、バンドに大した貢献をしてない奴に限って外車買ったりするんだよ。大体、ドラマーとかベーシストに多い現象なんだけども(失笑)。するとそいつはさらに仕事をしなくなり、にもかかわらず「(印税が欲しいから)俺にも曲を書かせろ」だの「バンドは全員平等だから(曲を書いてようが書いてなかろうが)印税は均等割りだ」だの「表紙は全員写真、インタヴューは全員同じページ数で」だのと権利ばかり主張し始めて、あとはモメるだけとくらぁチョイナチョイナ。
藤谷 それはそれで大変でしょうけど! でもそれがゼロ年代以降、「もっと売れてたら解散しなかった」みたいなことを公言するバンドが増え始めるようになったんです。
市川 鉄道の廃線とか飲食店の閉店とか動物園や遊園地の閉園とか、営業終了をアナウンスしたらバーっと群がる身勝手な客を見て、「普段から来てくれていれば、もっと続けられたのに」みたいなね。
藤谷 そういう声がステージの上の人から聞こえるようになったのは、CDバブルが終わったゼロ年代からかなって思いますね。