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3/15のお蔵出し:岡田惠和×河野英裕「テレビドラマ『銭ゲバ』をめぐって」
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3/15のお蔵出し:岡田惠和×河野英裕「テレビドラマ『銭ゲバ』をめぐって」

2013-03-18 16:43

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    3/15のお蔵出し:岡田惠和×河野英裕 テレビドラマ『銭ゲバ』をめぐって
             (初出:「PLANETS vol.6」)

    安易な漫画原作やリメイク作品が溢れる中、松山ケンイチ主演でドラマ化された『銭ゲバ』は原作漫画の毒を薄めることなく、同時に単なるリメイクにも収まらない、野心的な作品として登場した。その果敢な挑戦に秘められた思いを問うべく、脚本の岡田惠和氏とプロデューサーの河野英裕氏の対談を試みた。現代に『銭ゲバ』を復活させたその意図とは? そして作家とプロデューサーはそのとき何を考えていたのか?
    (取材:宇野常寛、中川大地  構成:成馬零一、中川大地)

    『銭ゲバ』ドラマ化の経緯

    ――『銭ゲバ』おつかれさまでした。スタッフ一同非常に面白く見させていただきました。日テレの土曜9時台で、『銭ゲバ』というアナーキーなものがドラマ化されたということと、それを岡田さんが書かれるという二重の意味で衝撃的だったと思うのですが、まずは『銭ゲバ』の企画立ち上げの経緯を教えてください。

    河野  最初は、単純に岡田さんと一緒に仕事がしたいという意識しかなかったです。ただ、仕事をするには人としてのシンパシーが必要だから、まず会ってみたいってところからですね。最初はお見合いみたいに飯食って、単純に好きな音楽や漫画は何だとか、「俺は村上春樹になるつもりだった」「あぁ僕もそうでした」みたいな話をしていたんです(笑)。そんな中で、岡田さんが『銭ゲバ』って面白いよねって話が出て。

    岡田  単純にその頃、『銭ゲバ』を思い出してたんですよ。ちょっと前に『カラマーゾフの兄弟』や『罪と罰』といった世界の名作を漫画化した文庫が出てましたから、あのシリーズをほとんど読んだんです。それで最後まで印象に残ったのが『罪と罰』とスタンダールの『赤と黒』だった。そこから『銭ゲバ』を思い出したのかもしれません。子供の頃に読んで以来、一度も読み返してはいなかったので、原作の前半とラストしか覚えていなかったですけどね。あとはキャラクターの顔と。それも『アシュラ』とごっちゃになってたけど(笑)。その程度の記憶で「面白かったよね」って話をしたら、「持ってます」ってこの人が言うんだよね。

    河野  幻冬舎文庫に入る前の、今はなくなっちゃった出版社【編註:ソフトマジック】の分厚い一冊のやつを買ってたんですよ。企画に困ったときには自分の本棚とかを見るんですけど、表紙が金ピカですごい目立つので、いつも真っ先に目に入るんですよ。でも『銭ゲバ』に関しては規格外の作品なので、岡田さんに言われたときはドラマ化のことなど何も意識せずに、単純に貸しただけだったんです。それで、土曜9時枠というところに僕も囚われていたので、「ナチュラルに学園モノにしよう」とか「ファンタジックなものはどうですか」とか話を進めていて。だけど、岡田さんも全然違うものをやりたいっていう気持ちがあっただろうし、僕も違うことやりたかったので、もっと面白いものはできないかって発想でしばらく企画を考えてたら、岡田さんから夜中にメールが来たんですよ。「『銭ゲバ』読んだ」って。「あぁ今頃読んだんだ」って思ったんですけど(笑)、そのメールには「恐れ多いことを言うならば、これを書けるならば、作れるならば、絶対に名作になる」って書かれていたんです。

    岡田  すごいこと言うな。覚えてないや(笑)。読んでメール打ったのは覚えてますけど、中身は覚えてないですね。ヤバイね、そのメール(笑)。

    河野  それがきっかけです。携帯メールとは言え、作家がそれだけのことを書くという、この種をどうにかしない限り、プロデューサーとしてはイカンだろうと。そういうモチベーションがある時の方が、ゼロから築きあげてくよりは良かったりするじゃないですか。じゃあそこに賭けようと思ったのが、きっかけだったんですよ。まあ、そんなこと言いつつ過去に何回も断念してますけど(笑)。

    ――本誌前号での岡田さんインタビューでは、「次は〝悪〟を描いてみたい」とおっしゃっていましたが、この『銭ゲバ』はまさにドンピシャでしたね。

    岡田  そうですね、不思議な流れです。ちょうど前にインタビューしていただいた去年ぐらいから、自分に煮詰まってたんですよね。そんなにテンション低かったわけじゃないんだけど、自分の引き出しの中だけで勝負してるなって感じがあって、普通に自分に来るオファーや、自分が普通にやれそうと思う作品に、ちょっと飽きていた。だから、次にやることをぼんやりと捜そうと思ってたんだけど、『銭ゲバ』を読んだ時に、脚本家になりたかった頃に、これをやりたかったんだよな、という気持ちが蘇ってきて。もちろんプロの眼もあるので、原作そのままでできるわけはないし、このままやっても面白いとも思わなかったけど。基本的に自分がどれだけその世界に入れるかが、原作ものをやるかやらないかの基準になってるんですよ。例えば、『イグアナの娘』の原作をもらった時にも、「何かできる気がする」っていう根拠のない予感みたいのがあったから。今回もこれは「何かをやれる」って思ったんですね。

    河野  岡田さんがそれだけ言うなら、名作になるって予感はあるじゃないですか。ではプロデューサーとして、どうやったら成立させられるんだ? 何か方法論あるはずだ、と思いながら動きだしました。まず、ジョージ秋山先生って怖いじゃないですか(笑)。会ったこともないし、あの漫画の巻末には先生のインタビューもあるんですけど、写真も怖いんですよ(笑)。だから、最初に原作者の雰囲気を見てから、社内をいろいろ巻き込んでいこうと。そしたら、すごく運がいいことに、息子の秋山命さんがジョージ先生の権利関係をまとめて管理していて、『みのもんたの朝ズバ!』とかの構成作家さんでもあるんですよ。業界の人で、「自分もオヤジの『銭ゲバ』や『アシュラ』や『恋子の毎日』や『ピンクのカーテン』を将来映像化したいと思ってたんです」とのことで、足がかりを探されていたんですね。すごくいい人で、原作者サイドのことは全て取り仕切ってくれたんです。だから僕らは誰も、ジョージ秋山先生とは一回も会ってないんです。でも、第4話の「へのへのもへじ」も率先して書いてくださいましたし、息子さん経由で松山ケンイチ君に直筆の風太郎の絵とかプレゼントをいただいたりして、「コレはコレ、アレはアレ」という考え方をちゃんと持ってくださっていたようなので、良かったです。

    岡田  その時点では、『銭ゲバ』が本当に成立するかわからなかったから、もちろん同時進行で別企画も考えてたんだけど(笑)。テレビって、「それがダメだったら残念でした」では済まなくて、ダメだったら何か別のことやらなきゃいけないから。どっかハンコ通らなかったらそれで終りで、それは僕らの熱意でできるものじゃないし。

    河野  全然違う原作も考えてましたよね。『銭ゲバ』が本命のA案だとすると、B案やB’案もいっぱいありました。

    ――松山ケンイチさんはどのあたりから押さえられてたんですか?

    河野  松山君に演じてもらうことは、岡田さんと最初にやるって時から決まってました。それが一番デカかったと思いますね。じゃないと、『銭ゲバ』って発想に行かなかったかもしれないですよね。日本テレビという会社組織の中では僕は単なるヒラですから、部長に理解があれば部長が局長と掛け合うので、僕は直接の上司だけ口説けばいいわけです。『銭ゲバ』とB案、B’案を並べて、「どっちがいいと思いますか?」と投げかけたんですよね。そしたら、絶対『銭ゲバ』の方がいいという話になったという、そういう通し方をしました。だから社内のハードルはあまり高くなかったです。高かったのは営業現場ですね。スポンサーとか。

    ――そうですね。気が付いたら、提供としてきちんとクレジットが残ったのはコカコーラ一社だけという(笑)。でも、そのことが逆に「こんなにいいドラマなのにスポンサーは理解がない」という意見がネットに出て、『銭ゲバ』を盛り上げていこうっていう空気につながった部分もありましたね。

    河野  ドラマと関係ないですけど、ああいう動きって面白いなって思いましたね。視聴者がそこまで裏読みして、コカコーラ製品を買って、テレビの前に座ります、みたいな。ちょっと胸が熱くなりました(笑)。

    ――やっぱり松山さんで風太郎っていう部分のハードルが一番大きかったんですか?

    河野  確かにそこが、一番のハードルでもありましたね。企画の時もそうだけど、松山君が乗らずに「こんな悪い人は嫌です」って言われてたら、終わってたんです。でも僕らが想像していた以上に、松山君が原作を気に入って、こういうタッチでやりたい、テレビだから甘くしたんだって思われたくないってのがあったみたいです。これはマネージャーからしか聞いてないけど、『セクシーボイスアンドロボ』をやった後に、彼は彼なりに考えがあって、『セクロボ』は内容が若干難しかったから、テレビで次にやるなら自分のじっちゃんばっちゃんがワクワクして観られるものがやりたかったらしいんですよ。土曜9時だし、もっとわかりやすく楽しめて、笑えて泣けてっていうドラマをやりたいっていうイメージがあったらしいんだけど、投げたのが『銭ゲバ』だったでしょ。そのギャップが大きかったみたいですね。一方、僕らは僕らで大人の理屈があって、会社はもちろん松山君の事務所(ホリプロ)の担当マネージャーからその上層部まで、きっちり企画に納得してもらって、口説いていかなければならない。ホリプロサイドとも何度も話し合って、お互いがきっちり納得する形でないと、松山君に出てもらう意味はないし、ホリプロだって出す意味がない。
      そこで、実は僕が書いた企画書は五種類ぐらいあったんですが(笑)、結果的にその中の一番軟弱なやつが松山くんに行ったんですよ。でも、それだと松山君は原作のキレだとかダークさとか本質的な部分が弱いじゃんってことを頭のいい子だから読みとるんですよ。それで、「だったらやる意味が無いじゃん」ってことを突きつけられたんです。

    岡田  あぁ、そういう段階だったんだ。それで一回苦しかったんですね。

    河野  で、松山君にこっちの気持ちを伝えるために岡田さんにも手紙を書いてもらって。

    岡田  A4用紙にびっしり7枚ぐらい、書いて(笑)。 僕の覚悟っていうか、そういうものを書いて、その後に松山君と会ったんですよ。そしたら松山君、「そんな所あったっけ?」と思うくらい原作を読み込んでいたので、逆にこれは大変だなって思った。

    河野  最初は僕が書いた企画書ではノーだったんですよ。原作のままやりたいっていう松山君の声が聞こえてきて。もう時間も無くなってきていたし、だから、その頃、『銭ゲバ』は一度飛んだんですよ。いつぐらいですかね、アレ。

    岡田  そうすね。秋……結構ギリだったねぇ。

    河野  結構ギリですよね。岡田さんはこういう人なんで、「大丈夫だよ。俺はプロなんだから」みたいな感じだったんですけど。僕は『銭ゲバ』がダメになった瞬間に岡田さんにも逃げられるって思ったんですよ。「どうしよう、岡田さんだけでも捕まえとかないと」って(笑)。

    岡田  ははは(笑)

    河野  まあ大丈夫だろうとはどこかで思いながらも、真摯に「すいません」って言ったら「いや、そんな逃げることなんて無いよ。やるよ僕は」って言ってくださったので、違う方向にシフトしていって、別の企画を考えようとしてたんですよ。

    ――ドラマの企画って、そんなふうに飛んだりすることも多いんですか?

    河野  やりたいと思ってるスタッフがいて、やりたいと思ってる役者さんがいて、それで成立しないってことは、あんまり無いんですよ。そもそもムリ目のものは、そこまで動かない。もっと早い段階で諦めるし、企画を提出しないし。まあ、そこは考えが硬直化してるところもあって、「テレビでは無理だ」ってみんな最初から思いすぎちゃうんですよね。それはPも作家も、事務所も。やってみると、意外とそうでも無かったりする場合もあるんですけどね。
     
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