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第278号 2018.7.24発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしの人たち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…「日本人は水と安全はタダだと思っている」評論家の山本七平がでそう指摘したのは今から48年も前、昭和45年(1970)のことだ。半世紀近くが経っても「水」に対する意識は、大して変わっていないようだ。なんと安倍政権は、市町村など自治体が運営している水道事業を「民営化」しようと目論んでいるのだ!水道民営化によって外資が参入し、利益ばかり追いかけるために「再公営化」を余儀なくされる…そんな事態が世界各地で相次いでいるにも拘わらず、日本が今から「水道民営化」に舵を切ろうとは、正気の沙汰ではない!!
※「泉美木蘭のトンデモ見聞録」…Apple社に忖度したドワンゴの検閲や、「ナパーム弾の少女」の児童ポルノ判定、Facebookでドラクロワの「民衆を導く自由の女神」がポルノ画判定されるなどトンデモニュースが相次いでいる。スコット・ギャロウェイ著『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』によると、すでに世界は「GAFA」に支配されて創り変えられてしまってるというのだ。ネット企業が世界を支配する恐るべき現実とは?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!“よしりん仮面”の正体とは?日本にカジノは必要?W杯前のドイツ代表選手による“エルドアン写真問題”をどう思う?本棚はどのように整理している?小泉進次郎は信用できる?就学中に熱中症になる子供が続出…どういう措置が必要だと思う?細田守監督の『未来のミライ』は見た?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第286回「水道民営化は売国行為だ!」
2. しゃべらせてクリ!・第235回「真夏のビーチで美人にかしずくぶぁい!の巻〈後編〉」
3. 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第90回「米国ネット企業“GAFA”への警戒心」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第286回「水道民営化は売国行為だ!」

「日本人は水と安全はタダだと思っている」
 評論家の山本七平が『日本人とユダヤ人』(イザヤ・ベンダサン名義)でそう指摘したのは今から48年も前、昭和45年(1970)のことだ。
 日本人は常識のように「水と安全はタダ」だと思っているが、そんな感覚は世界では一切通用しないと、山本は警鐘を鳴らしたのである。
 それから半世紀近くが経って、「安全」がタダではないということはようやく意識され始めた感もある。
 しかし「水」に対する意識は、大して変わっていないようだ。

 日本の別名は「瑞穂の国」。これは「水穂の国」とも書く。
 日本人は時に水の恩恵を受け、時に水の災厄を受けて生きてきた。
 西日本豪雨を見ていると、日本人は決して水との戦いからは逃れられないのだということを思い知らされる。
 日本は大雨ばっかりで、しかも国土のほとんどが山地だから、あまりにも水が豊富にある。
 だがそのためについ錯覚に陥って見落としがちになるのだが、世界では逆に水不足にあえぐ国の方が圧倒的に多く、それは年を追って深刻化しているのである。
 1984年から2015年の約30年間に、実に9万平方キロメートルの地表の水域が、世界から消失している。
 最も有名なケースは中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンをまたぐ湖「アラル海」で、かつては琵琶湖の約100倍、世界で4番目の湖水面積を誇っていたが、旧ソ連時代に「自然改造」の号令の下、アラル海に流れ込む川の水を綿花の栽培に使ったため、今では10分の1程度の面積にまで縮小してしまった。
 このような人為的な開発や、近年では地球温暖化の影響により、世界中で湖水の消失が起きているという(朝日新聞7月20日「月刊安心新聞plus」より)。

 天然資源は世界中に均等に存在しているものではないから、国や地域によって不平等が生じるのは仕方がない。恵まれた場所では恵まれるし、恵まれない場所ではどうしても恵まれない。
 日本には石油がない、鉄鉱石がない、あらゆる資源に恵まれず、そのために大戦争をせざるを得ない状況にも追い込まれたが、水資源は豊富である。
 しかしこの資源はしばしば人間に対して牙をむくし、必要とされる場所に届かず、干ばつになることもある。水資源を使いこなすまでには、数知れない人々の長年にわたる治水事業や用水路開発の努力の歴史があったのである。
 日本は現在97.9%の水道普及率を誇り、誰でもどこでも安価で衛生的な水を得られる。国交省の発表では、安全に水道水を飲める国は世界に15カ国しかないという。
 これは豊富な天然資源と、それを有効に利用できるようにすべく尽力した先人たちの賜物であり、これを活用して、未来に残していくことは我々の責任である。
 ところが、安倍政権がやろうとしていることはそれとは正反対なのだ。

 安倍政権は、市町村など自治体が運営している水道事業を「民営化」しようと目論んでいる。
 高度経済成長期に拡大した水道管や水道施設は老朽化が進んでいるが、水道事業を担う自治体は財政難で改修・更新が遅れている。これを民営化で促進しようというのだ。
 水道民営化は以前から麻生太郎副総理兼財相の持論だが、実はそれより前から、全く同じことを竹中平蔵が言っている。
 民営化すればうまく採算を取れるようにできるかのように言うのだが、同じようなことを言って民営化した国鉄や郵政と同じことが起きるのは目に見えている。儲かるところだけは改修されていくが、採算の取れない地方の水道管はさび付き、使えなくなっていくだろう。
 結局のところ、これは国民の財産である水道を民間・外資に売り渡そうという「売国政策」でしかないことは明白だ。
 もしこれが実現すれば、全国津々浦々に水道管を通して水を供給することもできなくなるし、水道料金は跳ね上がるし、世界トップクラスの水道水の安全基準も保たれるかどうかもわからない。

 しかも、もう既に海外には先例がある。