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第335号 2019.11.6発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…先月27日、アメリカのトランプ大統領はホワイトハウスで「昨夜、アメリカは世界最悪のテロリストのリーダーに正義の鉄槌を下した」と演説し、米軍の軍事作戦によって武装過激派組織イスラム国(IS)の指導者、アブ・バクル・アル・バグダディが死亡したと発表した。2011年、米軍が9.11テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンを殺害した際のオバマら政権中枢と同じように、今回のトランプも中東から遠く離れた安全なホワイトハウスの作戦指令室で、現地からの生中継を全くの他人事のように見物していたのだ。これを「野蛮」と言わずして何と言う!?
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…服を見るのがとても好きだ。いろんなデザイナーの新作を、写真でざっと眺めるだけでも面白い。歌や絵画と同じで、服もその時の世相や社会現象から得たインスピレーションが反映されている。子供のころは母から買い与えられた洋服を着るのがイヤで、着る服を巡って母と娘の攻防が度々繰り返された。なぜ母が買ってくる服が気に入らなかったのか?服を選び着ること…そこにもまた“主体性”の問題が潜んでいる!
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!「即位恩赦」って必要?加害者の実名拡散などの“さらし”は正義の行為?萩生田文科相の「身の丈」発言をどう思う?杉下右京の相棒役、一番印象に残っているのは誰?表に出ない絵コンテを緻密に描く理由は?彼女が誰かに優しく接していると嫉妬してしまう…この嫉妬を止める方法はないものでしょうか!?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第347回「アメリカの文明の野蛮」
2. しゃべらせてクリ!・第292回「貧富対決?よしりん少女像VS金ピカ茶魔像ぶぁい!の巻【後編】」
3. 泉美木蘭の「トンデモ見聞録」・第144回「母と私と“女の子”の服」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第347回「アメリカの文明の野蛮」

 以前も紹介したが、岡本太郎は70年大阪万博のテーマ館プロデューサーに就任し、「人類の進歩と調和」というテーマに対して「人類は進歩なんかしていないし、調和もしていない」と断言した。
「人類の進歩と調和」は「科学技術万歳」で、科学力さえ進歩すれば人類も進歩するという発想によるものだったが、それを真っ向から否定したのだ。
 50年後の今、岡本太郎は完全に正しかったと常に思わされる。

 先月27日、アメリカのトランプ大統領はホワイトハウスで「昨夜、アメリカは世界最悪のテロリストのリーダーに正義の鉄槌を下した」と演説し、米軍の軍事作戦によって武装過激派組織イスラム国(IS)の指導者、アブ・バクル・アル・バグダディが死亡したと発表した。
 米軍は数週間前にシリア北西部のバグダディの潜伏先を突き止め、2週間ほど前から秘密裏に作戦を計画。
 作戦は現地時間26日夜に実行され、米軍の特殊部隊がヘリコプター8機で潜伏先の建物を急襲。建物の正面には爆弾が仕掛けられていたため、部隊は建物の横に穴を開けて侵入し、応戦してきた戦闘員5人と、自爆ベストを着ていたバグダディの妻2人を殺害。
 バグダディは周辺のトンネルに逃げ込むが、軍用犬に追い詰められて自爆ベストを起動させ、一緒にいた3人の子供と共に死亡したという。
 トランプはホワイトハウス地下の作戦指令室で現地からの生中継を視聴、「映画を見ているようだった」と言い、自爆する直前のバグダディについて「臆病者のように泣き叫んでいた」と述べた。

 本当にバグダディが泣き叫んでいたかどうかについては、記者会見で作戦の詳細を説明した中央軍司令官が「確認できない」と述べており、トランプがバクダディを「臆病者」として印象づけるために話を「盛った」のではないかと言われている。
 ともかくトランプは、現地から遠く離れた全く安全な場所で、まるでゲームのように面白おかしくそれを見物しておけばいいのだ。
 前任の大統領で、なぜかノーベル平和賞受賞者であるオバマも、かつて同じことをやった。
 2011年、米軍が9.11テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンを殺害した際、オバマら政権中枢は今回と全く同じようにホワイトハウスの作戦指令室で現地からの生中継を見物し、ビンラディンの死亡を確認すると、記者会見で「正義はなされた」と宣言したのだった。
 科学力の進歩が、そういう事態を作り上げてしまった。アメリカという「文明国」だから、それが出来るのだ。

 わしは基本的に、イスラム国は大嫌いである。あれは日本の自称保守派と同じ男尊女卑の連中だから、潰して全然構わない。とはいえ、その指導者が無惨に殺害されていく様を、全くの他人事のように高みの見物で眺めていられる神経には、呆れ果てるばかりだ。
 トランプは、少しは自分の身に置き換えてものを考えるということができないのだろうか。
 例えばものすごく性能のいいドローンが開発されたら、トランプだってどこかの何者かからどんどん追い詰められて、暗殺されてしまうことだってあり得るのではないか?
 大国にしかできないこととは限らない。このままメカの性能がどんどん発達して行ったら、中東からの遠隔操作で暗殺ドローンが大量にホワイトハウスを襲撃することだって、不可能とはいえない。
 そんなことになったら、トランプはどんな臆病者の醜態を見せることになるだろう? 泣き叫びながら小便垂れ流して逃げ回った挙句、惨めな死にざまをさらすんじゃないか?
 そんなことを一切想像もせず、たまたま自分が圧倒的に有利な立場にいるということだけに乗っかって、追い詰められて死んでいく敗者をせせら笑う精神は、とてつもなく野蛮だとしか言いようがない。

 トランプはイスラム国を潰すために利用したクルド人を、あっさり裏切った。
 米国は2014年、イスラム国の支配圏拡大を阻止するためにクルド人に協力を要請。武器と金を渡し、訓練と後方支援を行い、戦闘に当たらせてきた。