201686()に,愛媛県総合科学博物館で開催された「第2回中高生のためのかはく科学研究プレゼンテーション大会」に,本プログラムの生徒4名が参加し,ポスター発表が愛媛県教育長賞,口頭発表が審査委員特別賞を受賞しましたので,発表について紹介します。


ポスター発表 植物が光で曲がる性質

植物には,環境によって変化するさまざまなしくみが存在しています。この植物の環境への変化のうち,私たちが目にする機会が多いのが,茎(くき)と根の成長です。室内の窓辺(まどべ)においた植物の茎が,光が当たる窓にむかって曲がりながら伸びるのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。このように,ある特定(とくてい)の刺激(しげき)によって,植物が一定の方向に曲がる性質を屈性(くっせい)とよびます。この屈性のひとつに光によって植物が曲がる性質,光屈性(ひかりくっせい)があります。光屈性は,よく知られている現象ではありますが,なぜ光屈性が起こるのかについては,まだ謎が残っています。

そこで,本研究では,光屈性を短時間で調べることのできる豆苗を用いて,光屈性の性質について調べて,豆苗の光屈性が,どの光の波長でおこり,どの部位で光を吸収しているのかを検討しました(図1)。

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図1 植物が光で曲がる性質ポスター

中学生は,発表を通して大きく成長し,堂々と声を張って説明し,興味を持ってくださった多くの聴衆に自分自身の成果について説明することができました。多くの先生や高校生との質疑応答で大いに盛り上がりました(図2)。

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図2 ポスター発表風景

口頭発表 デンプンの加水分解反応の研究とおいしい甘酒と水あめづくり

 デンプンの加水分解反応は,小学校や中学校で,だ液をつかっておこないます。しかし,デンプンを加水分解するのは,だ液だけではありません。デンプンを加水分解は,食品をつくる方法としてもつかわれており,日本では,味噌,しょう油,清酒などがデンプンの加水分解でつくられています。これらの食品をつくりだすときにつかうのは,麹菌とよばれる菌です。麹菌は,だ液とおなじようにデンプンを加水分解する消化酵素,アミラーゼをもっています。

そこで,本家研究では,デンプンの加水分解と,その産業的な利用について研究するため,麹菌から取り出したアミラーゼなどの消化酵素をつかって,おいしい甘酒と水あめづくりの研究を行うことを計画しました。

甘酒造りでは,新日本化学工業社の消化酵素アミラーゼ(商品名スミチームL)とマルターゼ(商品名スミチーム)をもちいた甘酒の製造では,60℃で6時間,デンプンの加水分解反応を行い,糖度の上昇する速度を糖度計で調べ,またヨウ素デンプン反応でデンプンがあるかないかを確かめました。その結果,ふたつの消化酵素を両方用いた場合は,糖度の上昇が非常に速くなること,アミラーゼとマルターゼではアミラーゼが速いこと,麹菌によるデンプンの加水分解反応は微生物の生命活動であるため反応速度が遅いことがわかりました(図3)。

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図3 アミラーゼ,マルターゼ,麹をつかったときの甘酒の糖度の上昇速度

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図4 水あめの製作

つぎに,水あめについて検討しました(図4)。水あめは,まず約8%デンプン水溶液を70℃前後に加熱することにより,ゲル状のかたまりにします。この段階を「糊化(のりか)」とよんでいます。糊化したデンプンに,消化酵素を加えると,いっしゅんでゲルが水状になり,とても不思議です。この水溶液を,40℃で加水分解反応を続けると,1時間以内にヨウ素デンプン反応で色が変わらなくなりました。ヨウ素デンプン反応で色が変わらなくなったところで,質量をはかり,温度を上げて水溶液を煮詰めて,元の60%程度の質量まで煮詰めました。これを冷やすと水あめになります。
本研究では,ジャガイモなどの根茎(こんけい)デンプンのほかに,小豆などの豆類,はだか麦などの穀類(こくるい)で,水あめの製造に挑戦しました。

水あめと甘酒の結果をくらべると,水あめは甘酒よりも20℃も温度が低いにもかかわらず,ヨウ素デンプン反応の色が変わらなくなる時間は6倍以上も速くなりました。一般に,反応の速さは,温度と濃度によって決まっていて,温度が10℃上がると反応の速さは2〜3倍になると言われています。温度が低いのに反応がとても速いのは不思議ですね。このちがいは,濃度のちがいであると考えています(図6)。甘酒は,デンプンを固体で入れていますので,デンプンの加水分解反応は,デンプンの表面で起こっています。一方で,水あめはデンプンを溶液のなかにバラバラにしていますので,反応は水溶液中のいたるところで起こります。そのため,水あめでは,水溶液中のデンプンの濃度が大きくなって反応の速さが,とても速くなります。

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図5 なぜ甘酒より水あめのデンプンの加水分解反応が速く終わるのか

そして,できた甘酒と水あめの「おいしさ」について検討しました(図6)。おいしさというのは,ひとによってちがいます。そこで,「だれにでもおいしい」甘酒と水あめを調べるために,統計的手法(とうけいてきしゅほう)をつかうことにしました。7つのおいしさの基準を作って,甘酒と水あめを食べてもらった人に,それぞれについて5段階で評価してもらいます。このデータをあつめて平均値(へいきんち)を取ることで,「だれにでもおいしい」ものはどれかがわかります。

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図6 おいしさの統計評価

本研究でもちいたおいしさの基準
(1)ちょうど良い甘さ
(2)おいしそうな色
(3)ちょうど良いねばり気
(4)口どけがまろやか
(5)透明感がある
(6)後味が良い
(7)味の好み

おいしさの評価の結果,甘酒では,葛粉を原料として,アミラーゼとマルターゼを1%ずついれて,60℃で6時間,加水分解したもの,水あめでは,タピオカと片栗粉の1:1混合物を原料として,アミラーゼとマルターゼを2:1でいれて,40℃で15分,加水分解したものがもっともおいしいという結果になりました。

ふたつの賞を受賞することができました

以上,ふたつの発表が,どちらも賞を受賞することができました。高校生に混じっての発表でしたので,中学生のがんばりと科学者としての才能が高く評価されたものと思います。とくにポスター発表の1名は,昨年度2名で進めてきた研究について発表しましたので,発表できなかった生徒の分もがんばらなければという強い想いがあったようです。かれらの今後の活躍が期待されます(図7)。


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図7 受賞した中学生たち(左から3名が口頭発表,右端の1名がポスター発表)

今年度の共同研究も8月7日より開始しました。今年度から新たに参加した小学生,中学生をふくむ研究チームが,それぞれ役割分担して研究を進めていく予定です。成果は11月5日に香川大学で開催される日本化学会中国四国支部大会高校生ポスターセッションで発表の予定です。