労働時間短縮、残業代も支給
労働組合のたたかいで、過酷な労働で人間を破壊する「ブラック」な職場を変え、職場復帰を果たした若者がいます。安売りコンビニエンスストア「SHOP99(現・ローソンストア100)」で、権限のない「名ばかり店長」だった清水文美(ふみよし)さん(34)=首都圏青年ユニオン組合員=です。 (田代正則)
2006年入社後、わずか9カ月で「店長」となり、残業代なしの過酷な長時間労働で、うつ状態と診断され、入社から1年2カ月で休職に追い込まれました。
11年5月に、東京地裁立川支部での勝利判決で、未払い残業代と慰謝料の支払いを実現。ことし9月、復職しました。実に、6年ぶりです。
いまは、主治医と相談しながら、一般の正社員として、週3日、1日4時間の勤務から再スタートです。
戻った職場の環境は、少し変化していました。
清水さんが店長だったころ、1日15時間労働は当たり前でした。いま清水さんの働く店舗では、店長でも11時間程度で帰っています。「1日8時間労働」という国際基準には届きませんが、前向きの変化です。
店長の残業代も以前は、名ばかりの「管理職」扱いで支払われていませんでしたが、いまはみなし残業手当がつき、それを超えた残業時間の分も、申請すれば支払われるようになっていました。
人手不足 / 休日返上 / 残業代0
行動しないと変わらない
SHOP99に入社した2006年当時、清水さんを過酷な労働に追い立てたのは、非正規雇用が拡大し、正社員になるのが困難な社会状況でした。
高校卒業後、就職難でフリーターを8年間続け、「賃上げなんて想像もできない。将来どうなるのか不安だった」といいます。ハローワークで正社員の仕事を探したところ、見つかったのは、配管工とSHOP99店員の2件だけ。選び間違ったのではなく、選択肢がなかったのです。
SHOP99に採用されると、わずか9カ月で店長にされました。実際には権限がないのに「管理職」扱いで残業代がなくなり、手取りは店員時代の約30万円から約22万円へと大幅ダウンしました。
ランク付け
月1回の店長会議では、店舗の売り上げ、人件費、利益率など、あらゆる指標でワーストランキングが示され、成績の悪い店長は立たされ、追及されました。
清水さんが配属された店舗は、すべての指標でワースト10に入る状況でした。「何が悪いと聞かれても、店舗の立地条件が悪いとしかいいようがない」。しかし、ドラマ「半沢直樹」のように上司に言い返すことなどおよびもつかず、自分が追及されないか、いつもビクビクしていました。
会社が人件費を売り上げの9・8%に抑えるため、慢性的な人手不足で、休日返上で働き続けました。
24時間営業の店舗に正社員は店長ひとりだけ。勤務シフトに入れるアルバイトがいなければ、自分が入らなくてはなりません。
「休日でも、利用客から苦情があれば、対応できるのは自分ひとりしかいないので、24時間スタンバイ状態です。絶対に逃げられません」
1カ月の総労働時間が343・5時間にもなったことがありました。37日連続勤務もありました。レジで「ありがとうございます」の呂律(ろれつ)がまわらないなど、自分が壊れていきました。
3倍きつく
体を壊して休職していたあいだ、多くの支援を受けて裁判をたたかい、働き方を見つめなおしたという清水さん。あらためて振り返って言います。
「個人がまじめに働くだけでは、限界があって、働く環境をなんとかしなければいけない。行動しないと、変わらない」
清水さんのまわりでは、「出世して、賃金が多少上がっても、仕事は3倍きつくなる」と言われていました。実際に清水さんは、一般の正社員から「名ばかり店長」となって、長時間労働なのに賃金は下がりました。
「名ばかり店長」裁判を通して、職場に前向きな変化をつくりだした清水さん。「職場にどういう要求があるのか、集めて会社に伝えたい。それが、会社をよくするんじゃないか」と話しています。
名ばかり管理職 権限もないのに肩書だけ管理職にすること。偽装管理職です。労働基準法41条で、管理監督者には労働時間規制を適用しなくてもよい、とされています。これを悪用して、管理監督者としての権限もないのに「店長」などの肩書だけをつけ、残業代を支払わず際限のない長時間労働を強いるのは、違法行為です。
管理監督者であるかどうかの基準は、▽経営者と一体的な立場▽勤務時間の自由裁量▽職務に見合う待遇―などです。