主張

混迷 マイナンバー

不安は置き去り 推進をやめよ

 日本に住民票をもつ人すべてに12桁の番号をつけ、国が個人情報を管理するマイナンバーが1月に本格的に始まってから1カ月が過ぎました。番号が通知されていない人が依然として多数残されるなど問題は山積したままなのに、安倍晋三政権は、つくることが個人の任意である「個人番号カード」の宣伝・普及にばかり力を入れています。多くの国民の不安や疑問などを置き去りにして、カードの普及や利用拡大をすすめることは、国民のプライバシーを危険にさらすものでしかありません。

番号カード交付でも混乱

 マイナンバーは、赤ちゃんからお年寄り、在日外国人まで住民登録している約1億2000万人に番号を割り振り、税や社会保障の手続きなどで使わせようという仕組みです。昨年10月から番号通知の郵送作業が開始され、1月から一部の社会保障の申請、金融機関の窓口などで番号の提示を求められることにもなりました。

 しかし全国で約300万人が番号の通知書を受け取れておらず、実務を担う市区町村はその対処に忙殺されています。マイナンバーを示さなくても各種手続きは可能ですが、多くの住民は制度を熟知していないため窓口の説明などで混乱するケースも少なくありません。マイナンバー関連詐欺が相次ぐのも、制度が周知されていない実態に付け込まれたものです。実施ありきでマイナンバーを推進する政府の姿勢が問われます。

 希望する人にだけ発行される「個人番号カード」交付でもトラブル続きです。1月中旬から市区町村の窓口で同カードの引き渡しが始まりましたが、カード交付を全国的に管理する「地方公共団体情報システム機構」のシステムがたびたび不具合を起こし、多くの市町村で個人番号カード交付が一時できなくなる事態も起きました。

 政府も機構も不具合の詳細な理由を明かしていません。システムが万全でないのに無理に実施を急いだ弊害も指摘されています。個人情報の管理システムの不調の原因について十分説明せずカード交付を推進するのは大問題です。

 個人番号カードは現在、身分証明以外に使い道がありません。顔写真、氏名、住所とマイナンバーが一体で記載されているカードをむやみに持ち歩くことの方がよほど危険です。カードの紛失・盗難などでマイナンバーが他人に知られ悪用されれば、被害の回復は困難です。

 政府は、個人番号カードに組み込まれたICチップ機能を民間でも利用できるようにするとしてキャッシュカードやクレジットカードの機能まで付けようとしています。危険性はまともに知らせず、「こんなに便利」と幻想を広げてカード普及をあおり、利用拡大をすすめる安倍政権のやり方は極めて重大です。

国民監視への懸念広がる

 住民に番号をつけ民間分野でも広く使われているアメリカや韓国で、大量の個人情報漏れや「なりすまし」犯罪が続発している事実を直視すべきです。さまざまな情報が個人番号カードに集積されることには、国による個人情報の掌握強化・国民監視につながるとの批判の声も上がっています。国民にメリットどころか、プライバシー侵害などデメリットしかないマイナンバーは中止・凍結し、廃止へむけた検討が必要です。