
「不安になりやすい人」や「落ち込みやすい人」ってのはどこにでもいるわけですが、そこで共通する特徴のひとつが「ネガティブな記憶ばかりが自動的に思い出される」という現象であります。これは、たとえ10個うまくいったことがあっても「1個の失敗だけが頭にこびりつく!」みたいな状態を意味してまして、たとえば、
- 上司に褒められたことは忘れたのに、ひとつのダメ出しだけ何度も思い出す
- 友人との楽しい会話より、ちょっと気まずかった瞬間ばかりが頭に残る
- SNSでいい反応がたくさんあったのに、1つの否定的コメントだけが気になる
- 仕事で9割うまくいったのに、最後のミスばかり思い出してしまう
- 昔の成功体験より、失敗した出来事ばかり鮮明に浮かんでくる
みたいな感じですね。なんとも難しい問題でして、研究によると、うつや不安が強い人は、過去を思い出すときにこのような状態になりがちで、そしてこの偏りによって心の不調が長引いて、ストレス耐性を下げる原因になってたりするんですな。その流れを簡単に説明すると、
ネガティブな記憶ばかり思い出す →
自分はダメだという認識が強まる →
ストレスや不安が増える →
さらにネガティブな記憶が呼び出されやすくなる
みたいになります。脳がネガティブな記憶ばかり検索するクセを強化した結果、脳の記憶検索システムがネガティブ優先モードになってしまうわけです。恐ろしいですねぇ。
では、この問題はどうすればいいのかってことで、近ごろ研究が進んでいるのが「CBM-M」であります。
「CBM-M」って何じゃろか?
「CBM-M」ってのは「Cognitive Bias Modification for Memory」のことで、日本語にすると「記憶バイアス修正トレーニング」って感じですね。その名のとおり「記憶のバイアス(偏り)」に働きかける認知トレーニングの一種で、ポジティブな記憶を意図的に引き出すことで脳の配線そのものを変えて、ストレスに強くなることを目指したメソッドになっているんですな。
CBM-Mが面白いのは、「考え方を変えましょう」みたいな精神論ではなく、記憶の検索ルールそのものをトレーニングで書き換えるところがミソ。人間の脳ってのは、「よく呼び出す記憶ほど取り出しやすくなる」って特徴がありまして、心理学ではこれを検索バイアスとか記憶アクセシビリティみたいに呼ぶんですよ。たとえば、
- テストで一度いい点を取ると、その成功体験を思い出しやすくなる
- 朝ジョギングをしていると、運動に関する記憶が浮かびやすくなる
- 仕事で褒められる経験が続くと、「自分は仕事ができる」という記憶が思い出しやすくなる
- 逆に失敗体験ばかり思い出していると、次も失敗した記憶が浮かびやすくなる
みたいな感じですね。このように、私たちの記憶システムってのは、よく使う記憶ほど取り出しやすくなるように設計されているわけです。
ところが、不安が強い人の場合、この検索システムがネガティブよりに傾いちゃってまして、失敗や恥、後悔、自己否定みたいな記憶を優先的に取り出すようになっているんですよ。すると当然ながら、人生の記憶の中にはポジティブな出来事もたくさんあるのに、検索結果だけがネガティブに偏ってしまい、これがメンタルの低下を引き起こすんですね。
そこでCBM-Mでは、この状態を逆転させるために、
- ポジティブな単語
- 自分の成功体験
- 前向きな自伝的記憶
をセットで何度も思い出すって作業を行います。たとえば、
- 「有能」という単語が出たら、うまく仕事をやりきった日のことを思い出す
- 「親切」という単語が出たら、人に感謝された体験を思い出す
- 「安心」という単語が出たら、ほっとした出来事を思い出す
- 「達成」という単語が出たら、何かをやり遂げた場面を思い出す
といった具合に、「単語→ポジティブ記憶を思い出す」っていう脳の回路を繰り返し使うことでポジティブな記憶の検索スピードが上がり、逆にネガティブ記憶の優先度が低下。そのおかげで自己イメージが安定して、最後にはメンタルが大きく改善するわけっすね。素晴らしいですなぁ。
というわけで、 「CBM-M」にはなかなか見どころがあるわけですけども、まだ新しい考え方なものでデータが少ないのが難点。これまでのCBM研究は、
- 注意バイアス(ネガティブな刺激に注意が向きすぎる)を修正する研究
- 解釈バイアス(曖昧な情報を悪く解釈する)を修正する研究
あたりを調べたものが中心で、私たちがメンタルを改善するために使うには、いまいち実践的な方法が見えにくかったんですよ。
が、近ごろ「CBM-Mの考え方で、どうやって具体的にメンタルを改善するか?」ってところをちゃんと調べた研究(R)が出てましたんで、これを参考にCBM-Mの使い方を学んでみましょう。これは富山大学などの研究チームによる研究で、不安・抑うつ特性が平均より1SD以上高い人58名を対象にしております。つまり「まだうつ病の診断はつかないけど、将来的にリスク高め」な人たちを選んで、CBM-Mの威力をチェックしたわけですな。
実験では、この人たちを、
- CBM-Mをやるグループ
- 偽トレーニングをやるグループ
の2つに割り当てまして、それぞれのトレーニングを1か月(全8セッション)、すべて自宅で行わせたらしい。あとでさらに詳しく説明しますが、トレーニング内容の違いをざっくり説明しておくと、
- CBM-Mグループ:ポジティブ・ネガティブ・中性の単語を記憶しておき、ポジティブな単語が出たときだけ、それに対応する「自分の良い思い出」をできるだけ鮮明に思い出すように脳を訓練する。たとえば、「有能」という単語が出てきたら、昔うまくやれた仕事や、達成感のあった体験を思い出す。
- 偽トレーニンググループ:記憶する単語はCBM-Mと同じだが、こちらはただ単語を覚えて思い出すだけ(「良い思い出」は思い出さない)。
みたいになります。ご覧のとおり、CBM-Mはポジティブな記憶検索のクセを鍛えるトレーニングになってるわけですな。
「CBM-M」でどんなメリットが得られたのか?
では、その結果がどうだったのか、ざっくりとしたところを見てみましょうー。
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