楽団員とツアースタッフ全員を代表してご挨拶に参上仕っております。菊地成孔です。当楽団が結成されて、そろそろ20年が経過いたしますが、私が現在、指揮、運営する楽団として、とうとう最古参と相成りました。
我々、元々腰が重く、楽器の搬送だけでも大変な労力ですし、楽団員は腕利きばかりでマネージも難しく、そこにウイルスの蔓延も加わり、帝都東京都下で演奏会を行うのもままならぬ状況ではありまするが、数少ない演奏の機会には、皆様からの、それはそれは、言葉さえ選ばなければ、ふしだらとも、淫らとも言える愛と官能のバイブスは日々、頂戴しておりますし、私共も常に、皆様を愛し、淫しております。
この度、久しぶりに遠征の機会に恵まれ、私が最初に思いついたことと申せば、「我々を、酒や料理と共に、ゆったりとシーツに身を沈めて鑑賞したい方々もいらっしゃるだろう。しかし、我々の演奏で、現在、おおっぴらには禁じられておる所の、踊ったり歓声を上げての祝祭、そのトランスを味わいたい方々もいらっしゃるのではないか?」という事でした。
そこで今回、大阪ではスタンディング、京都ではシッティング、という、我々の遠征史上初めての形式を採らせて頂きました。演奏式目、いわゆるセトリも、それに準じて些かながら変えて御座います。
ただただ、生きる事だけでも大変な辛苦が必要な世の中になりました。我々がこの四半世紀、何を皆様にお届けするために演奏活動をしているかは、今更申すまでも御座いません。四半世紀前からのご贔屓から、動画でのみ見たことがある、というお若い方々まで、我々の音楽にはあらゆる区別は存在しません。ただあなたが、官能と浄化、生きる喜びと死の甘さを渇望されればこそ。逢瀬の愉しみと祝祭の全開放。それは初冬の生々しい寒さと共に。
菊地成孔
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