前回から始まりました新連載「料理店の寝椅子」。菊地成孔が、女性の表現者とともにおいしい食事とお酒をいただきつつ繰りひろげる「普通の会話」。今回も『LUPIN the Third 峰不二子という女』のアニメ監督・山本沙代さんをゲストにお送りいたします。今週号でサーブされた料理は「オリーブオイルで仕上げた鰊の燻製とホワイトアスパラガスと空豆のスパゲッティ」(マジで旨かった…)。
好評放映中のアニメ『進撃の巨人』のエンディング・テーマを演出されている山本監督。ギャラやマーケティングといったアニメ業界のディープでシビアな話題から、菊地氏とアニメファンとの心あたたまる交流秘話まで、今週も盛りだくさんの内容です。(編集=吉住唯/全4回)
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├○ 対談メモ
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├○ 於)新宿三丁目「トラットリア・ブリッコラ」(イタリア料理)
├○ 開始時刻) 2013年04月23日午後08時
├○ 終了時刻) 2013年04月24日午前02時
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■燻製したにしんのスパゲティでございます
菊地 そういえば最近、山本さんと同世代くらいの女友達の誕生会があって。漫画やアニメに詳しい子から、でっかい巨人が人を食うアニメが流行していて、今一番いいと言われてるんだと丁寧に説明されて、「ドえげつない設定だね」「流行りそうだなそれ。見ないけど(笑)」なんて盛り上がっていたんです。そうしたらさっき編集部のユイくんから、山本さんがそのアニメに関わっておられると聞きまして。
山本 そう、エンディングの……終わりの歌の絵コンテ・演出をしていて──
菊地 んんー、歌の……?(不思議そうな顔)
山本 なんて言ったらいいんでしょう(笑)。
菊地 すみません、何から何までアニメ業界の勘所がわかってない(笑)。演出というお仕事は、山本さんが歌を選ぶわけではないんですよね? その場合、何をするんですか。
山本 いただいた曲に絵をつけていく、ミュージッククリップみたいな感じです。
菊地 ああ、なるほど。
山本 『進撃の巨人』の監督は、以前勤めていたマッドハウスの先輩で、私の作風をなんとなく知っているので、それほど注文は多くなかったと思います。
菊地 その、エンディングのミュージッククリップ的な仕事、まあ90秒間くらいですか、その仕事はアニメの中でも独立して存在するんですね。
山本 独立しやすいパートではあります。本編と同じスタッフが制作する場合もありますが、スタッフが少ない場合は、本編の作業がストップしてしまうので、差し支えが出てしまう。
菊地 ああ、労働時間的に(笑)。そこまで分業するというのは、いよいよハリウッド的ですね。
山本 でも、30代半ばの女性が『進撃の巨人』を普通に観ているというのが、すごくびっくりです。多くの30代半ばの女性は『月刊少年マガジン』は読まないと思うので、どういうきっかけだったんだろう。というか、菊地さんがお友達と『進撃の巨人』の話をしていることに衝撃を受けました。
菊地 その人は漫画好きだったんです。でも、大雑把な話、オタクさんが30過ぎても少女。っていうのは、日本のマーケットの消費メジャーじゃないですかね。けど、逆に言えば、『進撃の巨人』の視聴者って、作り手から見れば誰がメインなんですか? もっと若い男の子が観るものですか。
山本 リサーチしているわけではないので、実際はどうなのかはわかりませんが……(笑)。漫画好きの女性なら観ている人も当然いるでしょうけど、性別でいったら男性の方が割合としては多いのかな……と思っています。DVDを買うのは一般的には男性の方が割合として多いと言われています。
菊地 なるほど……。
ウェイター ──こちら、燻製した鰊のスパゲティでございます。
菊地 お。コンビニ料理とかいって、缶詰めなんかを使って一工夫。みたいな料理あるじゃないですか。「げ」「ところが喰うと旨い」という流れが定番ですけど、ああいうのの多くが、原型は郷土料理みたいにして実際どこかにあるんですよね。「本当の無茶」っていうのは、ないかも知れないです。もう。
■もらってないのにキワキワだ、と
菊地 ……とまあ鰊の話はともかく(笑)、この対談シリーズは、今は女性の時代である、というのが一応のテーマなんです。ただ、各業界によって、女性の進出度って違ったりするでしょ? ジャズの女性プレイヤーも急激に増えていて、昔は、女性のジャズプレイヤーといったらピアノかボーカルしかいなかったのが、トランペットやサックス、ドラムなどにも女性が多く、逆にデリケートでフェミニンな男性ピアニストが増えています。アニメの監督をする30代の女性というのは、今、日本にどれくらいいるんですか。