ビュロ菊だより 第XX号 「料理店の寝椅子──彼女たちとの普通の会話」1-3 アニメ監督の山本沙代さんと



 


 

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 ご好評いただいております新連載「料理店の寝椅子」。菊地成孔が、女性の表現者とともにおいしい食事とお酒をいただきつつ繰りひろげる「普通の会話」というコンセプトのもと、今回も『LUPIN the Third 峰不二子という女』のアニメ監督・山本沙代さんをゲストにお送りいたします。今週号は、ついに熟成肉が登場します!


 今回は、山本監督の恋愛・結婚観をきっかけに、じょじょに「寝椅子」、つまり精神分析的なほうへと話がスライドしていきます。ファミコンを持ったおじいちゃん・おばあちゃんという典型的なファミリー・ロマンスへと話は展開し……続きは本文をお楽しみください! (編集=吉住唯/全4回)


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├○ 対談メモ


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├○ 於)新宿三丁目「トラットリア・ブリッコラ」(イタリア料理)


├○ 開始時刻) 20130423日午後08


├○ 終了時刻) 20130424日午前02


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ワイン、赤をご用意いたしますか?



 

給仕 料理、ご用意してよろしいですか。今から盛り合わせのお肉を──



 

菊地 お願いします。



 

給仕 ワイン、赤をご用意いたしますか?



 

菊地 そうですね、山本さん、お好みはありますか?



 

山本 重めで(笑)。



 

菊地 (給仕に)では、グリッリアに合わせて、そうですね、アリアニコとかカリニャーニみたいなワイルドで苦いやつを見繕ってください。えっと、これは対談シリーズ恒例の質問になっていくのかどうか、微妙なところなんで、差し支えない程度で構わないのですが、結婚して子供を作って……といったライフプランはありますか?



 

山本 うーん……考えられないですね。仕事をずっとしていくと思います。仕事に追われ続けるのもつらいですけど、何も作らないと何のために生きてるの?って思ってしまうので、つい仕事をしてしまう。



 

菊地 いや、でも、仕事もして恋もして、やがては結婚する、というヴィジョンもあるじゃないですか。そんなに非現実的でもないですよね。こうしたヴィジョンは。



 

山本 そうかもしれませんけど。うーん、というか、私と結婚して得する人なんていないんじゃないかと(笑)。なんで私と結婚したいのか、よくわからない。



 

菊地 いやいやいや(笑)、だって稼ぎもあるわけだし。



 

山本 稼ぎですか、そこで基準になるのは(笑)。



 

菊地 えーと、男を扶養するとかそういうことではなく、好きな仕事をきちっとされていて、リスペクトできるじゃないですか。それだけで好きだという人もいるだろうし、それ抜きでも山本さんを好きになる人は普通にいっぱいいると思いますけど。



 

山本 へー、そうですか。それは知らなかった。



 

編集部 仕事が忙しそうなときなんか、特に応援したくなったり。



 

菊地 「サヨ、肩凝ってないか? 手休めてこっちおいで」みたいな。ねえ?(笑)



 

山本 そうなんですか。すごい……発見です。例えば、「子供はいらない」ってどちらかが言い出したら、なぜ結婚したんだろうかってなりません? 結婚ってなんでするんですかね。



 

菊地 最近の「出来婚」概念が定着した根拠ですよね。子供ができたら結婚する、それ以外に結婚する理由はないという。20世紀から見ると逆説的ですらある。



 

山本 だって、結婚も離婚も家族を巻き込むおおごとですよね。私は、そのおおごとがイヤなのかも。彼氏にも、やっぱり消耗するんで……なんというか、相手がかまってくれるのに、こちらが忙しすぎたりして気の効かない返ししかできないようなとき、申しわけなくて自分がどんどんイヤになってくる。あまり、同時にいろいろなことができないんです。



 

菊地 あのう、むちゃくちゃな例えですけど、ワタシのまわりにいる若い男性、20代とかですね。童貞的な感覚が抜けきらなくて、異性のことを考えると「自分なんてホントにダメだ。自分には何の魅力も価値もない。自分とつきあう女の人のことを考えると申しわけない」と落ち込む子が、に本当にいっぱいいるんです。山本さんの話を聞いていると、それとまったく同じ感じがする(笑)。



 

山本 ああ、私にも童貞感が(笑)。そうかもしれません。たしかに、そういう友達も多いです。飲みに行って、おたがい傷を舐めあう(笑)。



 

菊地 今、自嘲心というか、自己卑下に取り憑かれた人たちが多いですよね。自分はダメだ、という。だけど、病的な卑下は自尊心の裏返しですよね。



 

山本 それがたぶん、童貞だと言われる理由な気がします。



 

菊地 そんな、元も子もない(笑)。