セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱 (小学館101新書)

 坂爪真吾さんの新書本『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』を読みました。

 これがもう、素晴らしい本で、なんとしてもブログでお奨めしなければならないと考えたしだい。

 坂爪真吾と非営利組織「ホワイトハンズ」のことはいままで薄っすらと知ってはいたましたが、あまり興味を抱いていませんでした。

 しかし、この本を読んだいまは、なぜもっと早く関心を抱かなかったのかと思うくらい。

 ホワイトハンズはまず新潟で活動を開始しているので、もしもっと早く知っていたら直接著者と逢って話をすることもできたかもしれない。

 著者の主張は必ずしも世間の常識に沿っていませんが、ロジカルに考えれば自然と出て来る結論であり、納得性は高いものがあります。

 この人の本はちょっと追いかけて行きたいところ。気になる気になる。

 それでは、「セックス・ヘルパー」とは何で、ホワイトハンズは何をする団体なのか。

 簡単にいってしまうと、セックス・ヘルパーは男性障碍者の性の介助をする職業で、ホワイトハンズはセックス・ヘルパーを斡旋するNPOです。

 本文中には「射精介護」という言葉が出て来ますが、セックス・ヘルパーの目的は文字通り、ひとりでは射精できない障碍者の射精を手助けすること。

 ひとりでは自慰すらできない重度障碍者にとって、射精できないということは重いストレスになっている。

 しかし、いままでは「障碍者は天使」といったあいまいなイメージによって「障碍者にも性はある」というあたりまえの事実は押しつぶされてきた。

 坂爪さんはその現実を踏まえた上で、ホワイトハンズによって状況に革命をもたらそうとします。

 かれは東大の上野千鶴子ゼミで性風俗を研究した人物。

 牛丼屋でバイトして貯めた資金でひとりホワイトハンズを立ち上げ、運営しているという変わり種です。

 ホワイトハンズを立ち上げた当初は関心を持ってくれる人も少なく、だれもいない部屋でひとりで講義を行っていたといいます。

 ああ、そんなことをやっている人がいると知っていたらぼくは聴きに行ったのに。情弱乙、ですねえ。

 著者はまず、既存の性風俗を「ジャンクフード」であり、風俗嬢や経営者を含め、「関わった人全員が、もれなく不幸になるシステム」であると定義します。

 ジャンクフードと性風俗の共通点は以下の三つ。

・美味しいけれど、不健康。
・素材の産地が不明。
・中毒の危険がある。

 つまり、性風俗とはサービスと呼ぶべき水準に達していないサービスが横行し、情報公開も行われておらず、またいったんその業界に足を踏み入れた人はなかなか出られなくなるという特徴を持つ世界なのだというのです。

 それはまさに「関わった人全員が、もれなく不幸になるシステム」とも呼ぶべきものです。

 じっさいには経営者も、風俗嬢も、客も、幸せになることができない、それにもかかわらず延々と自律的に続いているシステム、それが風俗業界なのだ、と著者は喝破します

 ぼくはここで少々反感を覚えました。

 そうはいっても、風俗で働くことで幸せになっている風俗嬢もいれば、客もいるのではないか、と。

 しかし、著者が語っているのはそういう幸運な例のことではないでしょう。

 なんといっても、風俗業界が「日があたらない業界」であるためにきわめて不健全な状況に置かれていることは客観的な事実です。

 「全員」、「もれなく」とはいかなくても、相当数の人が風俗業界に関わることによって不幸になっている。この事実を見逃すべきではない。その解決のためにどうすればいいのか。

 売買春を一切禁止する? しかし、現在の段階ですでに売春禁止法という法律があり、売買春は公的に禁じられているわけです。ただ、有名無実化しているだけで。

 いくら売春禁止法があっても、デリヘルやソープランドを利用すれば女性とセックスできることはだれでも知っています。

 つまり、日本社会は売春禁止という「建前」と、売春を認める「本音」に分裂しているわけです。

 これはあきらかに良くないし、売春禁止という方法は結局はこういう結末に行きつきそうです。

 それでは、どうする? 著者はそこでホワイトハンズの活動を持ち出すわけですが、ホワイトハンズだけでは片手落ちだとぼくは考えます。

 やはり、一方ではセックス・ビジネスの健全化がなされなければならない。

 そのためにはどういう方法があるでしょう。

 ここから先は