文章読本 (中公文庫)

 うまい文章が書きたい。読みやすく、わかりやすく、ユーモアに富み、なおかつ端正、流麗、そういう文章が書きたい。普段から文章を書くひとは大半がそう願っていることだろう。ぼくもそうである。

 ただ、文章の良し悪しとは微妙な概念で、たしかに美しく華麗な文章はあるのに、それを分析しようとすると、その「美しさ」はどこかに消えていってしまう。

 たしかにいえることは精々「簡潔に書いたほうがいい」という程度のことで、しかし簡潔なだけでは魅力ある文章にならないことはだれも知っている。昔から「文章読本」の類は何百と出ているにもかかわらず、「決定版」といえるものがないのはそのためだ。

 しょせん文章とは技芸であり、その奥義は言葉で伝えられるものではないのかもしれない。しかし、ここで注意しておくべきことがある。そもそも文章の巧拙を真剣に気にする読者は少ないということだ。大半の読者にとって文章とはただ読みやすければいい程度のものなのであり、その審美的価値に留意するひとはほとんどいない。