弱いなら弱いままで。
オープンしたばかりのKindleストアで「電子書籍を無名でも100万部売る方法」と題する本が売っていたので買ってみた。正直、いかにも怪しげなタイトルだし、値段が800円もするので買うべきかどうか迷ったのだが、検索してみると良い評判が出てきたので結局買うことにした。
正解だった。この「本」はおもしろい。タイトル通り、アマチュア(インディーズ)作家として初めてアメリカのKindleストアで累計100万部を突破した著者が語る電子書籍(以下、電書)出版のノウハウ本である。
あくまでアメリカでのノウハウなのですべてが日本でも通じるというわけではないし、ここに書かれていることをそのまま真似すればだれでも100万部を出せるわけではないということは当然だ。
しかし、それでもこれはすごい本だと思う。何がすごいって、書かれていることがことごとく「本音」と思われるところがすごい。まだ現役だというのに、こんなことまで書いていいのか?と驚かされる。いや、よくぞここまで書いてくれたというべきだろうか。読み終えたいま、著者には感謝の気持ちでいっぱいである。ありがとう、参考にさせていただきます。
それでは、本書のどこがいままであった類書と違うのか。もちろん、自分の作品の販売ルートを電書マーケットに絞っていることこそがこの本の最大の特徴なのだが、それだけならそう驚くべきものではない。
アメリカのAmazon.comで電書のセールスが紙の本を上回ったと耳にしたのはもうずいぶん前のことだ。そのルートでヒットを出す作家が出てくることは当然だし、その著者が自慢話をしたいと思ってもふしぎではない。
本書のおもしろさは、そういうところではなく、「どうすれば電書でヒットを飛ばし続けられるか」ということを詳細に書き込んでいるところにある。この本を読むと、著者は決してまぐれあたりの大ヒットで累計100万部を達成したわけではないとわかる。100万部という数字のその裏には、どこまでも現実的な方法論があるのだ。
著者は「売れっ子作家になることは素晴らしいことだ」と断言し、「こうすればあなたもベストセラー作家になれる」と誘いかける。胡散臭いと思われるだろうか。しかし、この本を読んでいくと、ベストセラーを出せるかどうかはともかく、じっさいに電書を出す際に非常に有効な武器となる方法論であることを認めざるを得なくなるのである。
たとえばディーン・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』も「ベストセラーを出すこと」を目的とした啓発書ではあった。しかし、そうはいってもあれはあくまでも「小説の書き方」の方法論に関する本であった。あたりまえといえばあたりまえの話だ。
ところが、本書に小説の書き方に関する技術的アドバイスはほとんどない。せいぜいが「一部の読者に嫌われてもいいから独創的な作品を書くこと」という程度。本書の特色はどこまでも「小説を売る方法」、つまりマーケティングの方法論にあるのである。
いやあ、これが非常に具体的かつ実践的でわかりやすく、しかも電書ならではのやり方なのだ。素晴らしい! 正直、この本のことはあまりひとに教えたくないし、話題にもなってほしくない。この本に書かれている方法論が模倣されると、ぼくの利益にならないからである。
だから、その具体的な方法論はここには書かない。これから電書を出して儲けたいと思っているひとは自分で買って読んでください。ぼくは著者の回し者でも何でもないけれど、値段相応の価値があることは保証する。
読んで驚いたのは、著者が書いていることが日本のベストセラー作家である森博嗣の方法論とよく似ていることだ。著者は「ベストセラー作家」を目指すが、「ウルトラベストセラー」を目指さない。つまり、百万部以上の桁外れのヒットを出す可能性を最初から捨てている。
その上で、一定以上のヒット作を続けて出すことを目標とする。つまり、ビッグサクセスではなく、ミドルサクセスの連続をめざしているのだ。これは森博嗣が『小説家という職業』のなかで書いていたことと共通する。
100万部の本を1冊出すことはきわめてむずかしい。しかし、10万部の本を10冊出すことは、あいかわらずむずかしくはあるにしろ、それよりずっと簡単だということ。
もちろん、そのためには、常に一定以上の評価を得る作品を出し続ける必要がある。本書にはそのためにどうすればいいのかが書いてあるのだが、これも森博嗣が実践していたことと共通点が多い。これは国を超えて有効な方法論だということだろう。
いや、じっさいこれはお金を出すだけの価値がある本だと思う。分量的には少なく、電書でなければ一冊の本になるほどのものではないと思われるが、逆にいえば内容がぎゅっと詰まっていて無駄がない。
くり返すが、これからKindle Direct Publishingを使って電書を出してみようと考えているひとのなかで、ただ趣味的に出せばいいというのではなく、利益をあげたいと考えているひとには必読の一冊である。
読めばあなたもベストセラー作家になれる、なんていんちき臭いことはいわない。しかし、読んで実践すれば、読まないよりも確実にファンを増やすことができることは間違いない。そういう本なのである。あなたもこの本を読んで「電書作家」になろう!
コメント
コメントを書くちょっと長過ぎ
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勝手にハードを送りつけるんですねww
森先生ってそういう位置付けだったんだ
いつかビジネス考えないで小説書いてくれないかな
すごい!でも内容は秘密!おわり