映画『コードギアス 反逆のルルーシュ 叛道』を観て来ました。

 ダイジェスト版『コードギアス』三部作の第二章にあたるわけですが、いやあ、面白かった。

 本来、50話ある『コードギアス』本編を2時間超の映画3本にまとめあげるという無茶な企画であるわけですが、実によくまとまっていると思います。素晴らしい構成力。

 しかも今回は相当にオリジナル演出が入っていて、良くも悪くもテレビ版『コードギアス』とは別ものになっています。ここまで来るとダイジェストというレベルじゃないですね。

 よくいわれることですが、『コードギアス』という作品は、ある意味でそのちょうど10年前に発表されている『新世紀エヴァンゲリオン』へのアンサーという側面があると思います。

 『エヴァ』は、長い戦いの果てに大義を見失い、戦うべきモチベーションをなくしてしまった主人公を描いた。

 そして、『コードギアス』はその迷路から脱出するために意識的に悪を選択する主人公の物語を綴っているわけです。

 LDさんはその系譜を「悪を為す系」と呼んでいるようですが、つまりは「世界を変える」という大局的な目的のためにあえて悪の道を進んでいるのが『コードギアス』の主人公ルルーシュなのです。

 ルルーシュの大義は妹であるナナリーに象徴されます。かれは社会的弱者であるナナリーを守るため、テロを初めとする悪行を犯していくのです。

 ルルーシュは「正義の味方」ではありません。一貫して「正義の味方」として行動するのは、かれのライバルであるスザクのほうです。

 しかし、ルルーシュがある種のダークヒーローであることは間違いないでしょう。そして、かれはゼロ年代でおそらく最も魅力的な主人公です。

 ルルーシュは計算外の出来事からたびたびミスを犯しますが、まったくいいわけを口にしません。かれには「ギアス」という人を支配する悪の力を使用するにあたっての覚悟があるのです。

 そんなルルーシュに比べると、スザクのほうはもう少し軟弱かもしれません。ここら辺はスザクのほうが自分の正義を信じているからというところが大きいのでしょうね。

 本来であればスザクのほうが主役だったのでしょうが、時代はルルーシュを必要としているようです。ただし、スザクはヒーローだけにルルーシュの計算を突き破るだけの力を持っている。

 そして、このふたりを中心に、『コードギアス』は群像劇を展開していきます。

 わりに女の子が重要な役目を果たすあたりがぼく的に嬉しいところなのですが、そこら辺には限界を感じないこともない。

 今回、わりを食ったのはなんといってもユフィことユーフェミアでしょう。完璧にルルーシュの計画を打ち破ったにもかかわらず、かれのギアスの暴走によって死んでしまうという必然性のない展開。

 ぼくはこれはユフィが物語のなかでしかるべきポジションを発見できなかったということだと思っています。

 スザクには「ルルーシュのライバル」というポジションがあるのだけれど、ユフィはそれを見つけられない。だから、死ぬしかなかった。そういうことなのではないかと。

 いいキャラクターなのですけれどね。ルルーシュの知略を人徳によって破っていくその能力をぼくは高く評価しています。

 それにしても、今回の映画はテレビシリーズに比べだいぶわかりやすかったです。皇帝シャルルが何を考えているのかとか、テレビシリーズではいまひとつピンと来なかったのだけれど、この映画でははっきりと感じ取れる。

 これは、物語の重要なポイントに合わせて再編集しているからなのでしょうね。

 この第二章でテレビシリーズのかなり後半のほうまでエピソードを消化しているので、おそらく次はもっとオリジナル要素が入って来るのではないかと思います。

 そうでないと、語るべき要素がなくなってしまいますからね。

 すでに現時点でテレビシリーズとの齟齬が発生しているのですが、はたして今後、テレビシリーズと辻褄が合うことはあるのでしょうか。

 このままだと、『復活のルルーシュ』につながったとき、まずいと思うのですが。

 特にシャーリー関係とか、どうするつもりなんだろ。たぶん、『復活のルルーシュ』はテレビシリーズと映画、どちらを見た人も違和感なく楽しめるものにするつもりだとは思うんだけれど。

 それにしても、テレビシリーズでここまでやってしまって、いったい『復活のルルーシュ』では何をやるつもりなのでしょうね。

 ルルーシュの死後数年して再び世界に戦乱が巻き起こる、というのでは二番煎じめいていますし、何より『反逆のルルーシュ』の感動的な最終回を台無しにしている感がぬぐえません。

 あえて新作を用意するからには何かしらアイディアがあるとは思うのですが、ちょっと思いつかないですね。まあ、それだけに楽しみだともいえる。

 『コードギアス』は時代の寵児です。あれから十数年が経ったいま、どのような新たなヴィジョンを見せてくれるのでしょうか。わくわくしつつ待つことにしたいと思います。