まだ未決定&未発表ですが、今年の夏もペトロニウスさん、LDさんといっしょに〈アズキアライアカデミア〉のオフ会を開こうかと考えています。

 で、過去二回と同じく何か講演を行うことになると思うのですが、毎回、内容でLDさんに負けるのもくやしいので、今回はちょっと力を入れてやろうかと思っています。

 で、テーマは何にしたものかと思案したのですが、ぼくが好きな実験文学の話をしようかなと考えました。ほんとうはオタク系統の話をしたほうが良いのかもしれませんが、それはまあ、LDさんがやるだろうから、ぼくは「この世にはこんな奇妙な小説があるんだよ!」という話をしようかなと。

 ただ、あまり需要がないようだったらべつの話にしたほうが良いかもしれないとも思っています。どうでしょう? 以下のような小説について知りたいという方はいらっしゃるでしょうか?

・泡坂妻夫『生者と死者』(袋とじを開けるか閉じるかで内容が変わる)
・竹本健司『匣の中の失楽』(連続する作中作)
・黒田夏子『abさんご』(固有名詞のない小説)
・円上塔『文字禍』(るびの冒険)
・古川日出男『アラビアの夜の種族』(架空の物語が現実を侵犯する)
・ミロラド・パヴィチ『ハザール事典』(事典の形をした小説)
・スタニスワフ・レム『完全な真空』(架空の作品の書評集)
・イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』(55の架空都市)
・レイモン・クノー『文体実験』(99通りの文体)
・レイナルド・アレナス『めくるめく世界』(一人称、二人称、三人称が混在)
・レオ・レオーニ『平行植物』(平行世界の植物図鑑)
・ウラジミール・ナボコフ『淡い焔』(999行の詩とその注釈)
・ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』(子供のための実験文学)
・ロレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』(遊びとしての小説)
・ジェイムズ・ジョイス『フィネガンズ・ウェイク』(文体実験の極北)
・ニコルソン・ベイカー『中二階』(ひきのばされる時間)
・バルガス=リョサ『フリアとシナリオライター』(もし作家が発狂したら?)
・ルネ・ドーマル『類推の山』(架空の山を目指す)
・ジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』(崩壊する文体)
・アラン・ライトマン『アインシュタインの夢』(さまざまな時間の流れ方)

 まあ、このすべてを紹介するのは時間的に無理でしょうけれど、だいたいこんな作品について話をしようかと思っているということです。

 たぶん、「袋とじを開けるか閉じるかで内容が変わる」とかいってもわけがわからないと思うんですけれど(笑)、ほんとうにそうとしかいえないんですよ。

 これはちょっと小説の形をしたびっくり箱というか、良くもまあこんな小説を考えてなおかつ実践したなあと驚かされる、翻訳不可能、日本人しか楽しめない一冊です。

 同じシリーズに『しあわせの書』というのもあって、こちらもとんでもない仕掛けがほどこされた作品なのですが、ネタバレが絡むので話ができません。

 あとまあ、『ハザール事典』とか、架空の民族、国家に関する事典なんですよね。何しろ事典なのでどこから読むのも自由という、もはや小説なのか何なのかよくわからない本です。

 「実験小説の帝王」カルヴィーノの本のなかからはいちばん好きな『見えない都市』を選びました。ひたすら架空の幻想的な都市が叙述されるという、物語も何もない小説です。

 物語も何もないのですが、そこら辺の凡庸な物語と比べたら遥かに美しい。ぼくにとって理想の小説のひとつですね。素晴らしすぎ。

 あと、ナボコフの『淡い焔』。これは最近出た新訳のほうですね。999行に及ぶ架空の詩人の詩と、その注釈という形式の作品です。実験にもほどがあるだろうって感じですね。普通の意味では小説とはいえないと思います。

 それからまあ、お約束の『フィネガンズ・ウェイク』とか。文体が完全に崩壊しているというか、言語を解体してしまった作品です。書くほうも書くほうですが、良くもまあ訳したものだと思います。いや、意味はわからないんですけれどね。

 ことほどさように文学とは「何でもあり」、自由な精神の発露に他ならないのです。ぼくはとても面白いと思うのだけれど、オタク文化とは限りなく乖離しているので、はたして聞きたいという需要があるものなのかどうかさっぱりわかりません。

 うーん。どうしよ。しばらく悩みたいと思います。