永遠の一球---甲子園優勝投手のその後

 元陸上選手の為末大さんがTwitterで「短距離走の能力と、長距離走の能力は同じではないにもかかわらず、世間では短距離の選手は長距離も速いものと思われる」という意味の話をしていました。つまり、ひとはある分野で抜きん出て凄いひとは、ほかの分野でも凄い能力を発揮するものだと考えがちであるが、それはほんとうではないのだ、と。

 これはなかなか示唆に富む意見だと思います。たしかにぼくたちはたとえば一流大学を出ているひとだとか、トップクラスのスポーツ選手であったひとに対し、しばしば幻想を見てしまいます。このひとはこんなに素晴らしい業績を挙げたのだから、ほかの分野でも十分に活躍できるに違いない、というふうに考えてしまうのです。

 しかし、人間はそう単純ではありません。ある分野で秀でた才能を示したからといって、ほかの分野でも活躍できるとは限らないと考えるべきです。

 『永遠の一球 甲子園優勝投手のその後』という本があるのですが、この本には甲子園で素晴らしい活躍をした選手たちがその後、何かと「甲子園で優勝したのに、こんなこともできないのか」と非難されるというエピソードが出てきます。

 よく考えて見れば甲子園で優勝したからといって何でもできるわけではないことは自明ですが、ひとはそういうふうには考えないもののようです。

 「万能の天才」といえばレオナルド・ダ・ヴィンチですが、そのダ・ヴィンチにしても何もかもできたわけではなかったでしょう。ほんとうの意味で万能の人間など現実にはまずいるものではないのです。