ミステリーの書き方

 先日の「読みやすい文体とはどういうものか。簡単な気づかいで文章技術向上を図る。」(http://ch.nicovideo.jp/article/ar24317)に続けて、文章技術ネタをもうひとつ。

 今回は「文章のダイエット」について少し詳しく語りたい。文章技術の要訣が簡潔さにあることは前回も話した。何か文章を書く際はある必然性に沿い、可能なかぎり言葉を削ることが重要だ。

 それでは、具体的にはどのように減量すればいいのか。良いテキストがあるから紹介しよう。『ミステリーの書き方』という本で、作家の北方謙三がデビュー前の書き手の文章を添削した箇所である。北方といえば簡潔な文体で有名だ。当然、かれが添削したあとはその文章はよりシンプルに削られている。まずは添削前の文章を見てみよう。

 舳先がゆっくりとローリングし、そのむこうに太陽の頭が踊っていた。海面を照らしつけるその眩しさに、慎吾は目をしばたたかせた。櫓が啼く度に船体がかすかに左右するが、それはけして不快ではない。まるで油の上を滑っているような感触だ。きぃ、と木が擦れあう音が、一定のリズムを刻み、舟は海を割って進んだ。
「相変わらずの櫓さばきですね、おやっさん」
 慎吾はいった。

 どうだろう。一見して「なんだ、無駄だらけじゃないか」と思われただろうか。ぼくはそうは感じなかった。とくに無駄な箇所があるとは感じ取れなかったのだ。しかし、北方の目にはこの文章の「贅肉」がはっきり見えたようだ。北方がどう直したか。答え合わせの前に少し考えていただきたい。

 ――いいだろうか? それでは、北方の「解答」を記す。

 舳先がゆっくりとローリングし、そのむこうに太陽の頭が踊っていた。眩しさに、慎吾は目をしばたたかせた。櫓が啼く。船体がかすかに左右する。不快ではない。油の上を滑っているような感触だ。木が擦れあう音。舟は海を割って進んだ。
「相変わらずの櫓さばきですね、おやっさん」
 慎吾はいった。

 あきらかに前の文章より緊張感が増している。もちろん、前の文章でも意味が通らないわけではない。しかし、表現を「ダイエット」することにより、より読みやすく、テンポが良くなっている。これが文章の減量効果なのだ。具体的に見ていってみよう。