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 川上さんとの対談のなかで、少しジョージ・R・R・マーティン『氷と炎の歌』の話が出ました。この小説、『ゲーム・オブ・スローンズ』のタイトルでドラマ化されていて、そちらも傑作らしいのだけれど、原作は歴史的なウルトラマスターピース。

 およそ世界のファンタジー小説のなかで、これ以上に面白いものはないのではないか、と思うくらいのとんでもない作品。普段あまりふれないのだけれど、田中芳樹とか栗本薫の小説が好きだったひとには文句なしでオススメの超名作です。

 いやー、云ってしまえばどこにでもある平凡な設定で、ありふれた筋書きなんだけれど、それを力技で超絶レベルの作品に仕上げているんですね。

 ひたすら王道。どこまでも正統。ただあたりまえのことをあたりまえにこなす、それだけでほんとうに凄まじい作品を仕上げてしまっている。

 作者のマーティンはSFも書けばファンタジーも書くというひとですが、典型的な「物語作家」で、書けば書くほどに長くなっていくんですねw

 これはストーリーテラー型の作家の特徴で、どうも「物語の自走性」に任せるとそういうことになるらしい。『グイン・サーガ』が予定を超えて長くなったのと同じ理屈です。

 おそらく、書いている最中に「あれ、この展開も面白いな」とか、「こいつの過去はどうなっているんだろう?」ということを際限なく思いつくのでしょう。

 だから、書けば書くほどに新たな物語が生まれてくる。どうやらそういうことらしい。もっとも、例によってぼくは途中で止まっているので、そろそろ最初から読み返したいと思っているところではあります。

 いや、ほんとうに面白いのだけれど、ひたすらマジメでギャグがないから、読んでいて疲れるんですよね……。

 それでもまあ、この手の戦記小説のなかでは最高の出来で、歴史的な重要作品であることは間違いないけれど。日本でどれくらい売れているのかわからないけれど、北方謙三の『水滸伝』シリーズとか好きなひとは楽しめるはず。

 とはいえ、マーティンの小説をファンタジーの代表のように語ることは、少々違和感があります。たしかにめちゃくちゃ面白いのだけれど、そこにファンタジーの息吹があるかというと、ちょっと違うよね、と。

 つまりは具象性が高すぎるのですよ。すべてがリアリスティックに描きぬかれていすぎる。ぼくにとってファンタジーとはもっと抽象的なもの。

 やっぱりタニス・リーとか、ロード・ダンセイニ、フィリス・アイゼンシュタインという作家が思い浮かぶわけです。

 フィリス・アイゼンシュタイン! 最期に翻訳されたのは何十年も前だけれど、いやー、ぼくは好きだったんだよなあ。『妖魔の騎士』に『氷の城の乙女』。素晴らしいですね。

 ただ、早川書房は最近あまりこの種の象徴性の高いファンタジーを出してくれなくなった印象がある。いや、たぶん売れないんだろうけれど、ぼくは好きなんだよなあ。

 ジェイン・ヨーレンとか、そこらへんの女性作家ですね。ジェイン・ヨーレンの『夢織り女』、大好きでした。ここらへんの流れはこの頃あまり見かけない気がします。

 やっぱり具象的で男性的な作品のほうが売れるのでしょう。抽象的で女性的な意味でのファンタジーは、受け手にある種の素養を要求するところがある。

 それは知識ではなく感性。感じるひとしか感じない世界なんですね。マーティンの小説にはないものがそこにはあります。

 とはいえ、一部の出版社はがんばっていろいろと出しつづけてくれていることも事実で、パトリシア・A・マキリップとか、気づくとたくさん翻訳されていますね。

 そこらへんも読まないといけないとは思っているんですが、どうも時間が。いや、