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 石田衣良『池袋ウエストゲートパーク(11) 憎悪のパレード』読了。3年半ぶりの『池袋ウエストゲートパーク』です。

 いや、良かった。全10巻でファースト・シーズンを終え、しばしの休眠に入っていたシリーズが帰ってきた! 一時の別れを挟んでいるとはいえ、マコトもタカシもあいかわらず。まったく違和感がありません。

 それはまあ、マンネリといえばマンネリなのだけれど、その時代、時代の最新のテーマを取り込んでいるから退屈さは感じない。安心、安定の一冊なのでした。

 知らないひとのために説明しておくと、このシリーズは池袋の果物屋にしてトラブルシューター、マコトを主人公にした一連の連作短編。既に始まったのは十数年前で、各時代の空気を切り取ったエピソードが用意されているあたりに特色があります。

 3年半前にファースト・シーズンが終わり、しばらく展開が休止していたのですが、今回、あたりまえのように再開しました。非常に面白いので、未読の方にはオススメです。古い時代の作品を読むと、当時の空気がわかって興味深いかも。

 このシリーズ最大の魅力はマコトが一人称でしゃべり倒すユーモラスでスタイリッシュな語り口。

 それぞれの時代で最先端のテーマを扱いながらも、マコトを時代時代の流行を追うようなキャラクターに設定しなかったあたりが天才的なバランス感覚で、マコトはあくまで時代の変遷をクールに眺めています。

 かれの趣味はバッハやモーツァルトといったクラシック音楽で、最も尊敬してしているのは何百年も前に亡くなった作曲家たち。だから、その時代、時代で流れ去って消えていくブームに興奮したりはしないのです。

 しかし、それでいて、マコトのもとには時代を象徴するような事件が転がり込んでくる。今回、マコトが相手にするのは合法ドラッグにパチンコ産業、コワーキングスペースにヘイトスピーチと、まさに現代のホットなテーマ。

 そのいちいちをシニカルに眺めながら、かれはスピーディに事件を解決していきます。クールなように見えて案外浪花節が入ってくるあたりもこのシリーズの面白さで、そこらへん、甘いといえば甘いのだけれど、ぼくは大好き。

 世間にあふれるあらゆる小説のなかでもいちばん気分よく読めるのはこのシリーズかも。

 まあ、途中からはマコトが歳を取らなくなっているので、ひりひりするようなリアリティは欠落してくるのですが、そのかわりキャラクター小説としての魅力が全景に出て来ます。

 マコトには池袋のストリートギャングのキング、タカシや、若くしてヤクザの幹部に出世したサルといった友人がいて、かれらのマコトのかけあいがいちいち面白い。

 異常なまでにソフィスティケーションされた独特の文体と相まって、とにかくリーダビリティ抜群。ライトノベルでも読むようにすらすらと読めてしまいます。

 はっきりいって事件なんて起きても起こらなくても大して変わらないんじゃないかと思うくらい。大半の読者はマコトの軽口を読みたくてこのシリーズを買っているのだと思う。

 ぼくにしても、プアなので普段はハードカバーの本はあまり買わないのだけれど、このシリーズはついつい買ってしまいます。

 毎回、一定の水準の話ばかりで、大傑作