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ボンサイ柔術日本支部を支えた男坂本健インタビュー。『
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア』オーナーでサトシは来日当初から、クレベル・コイケは中学生の頃から見守ってきた。坂本氏がビックマッチを控える2人を語ってくれた。




――
坂本さんが浜松にブラジリアン柔術&総合格闘技専門店『ブルテリア』を始めたのは2000年代前半のことなんですよね。

坂本 2002年に一番最初のお店をオープンしました。当時はブラジリアン柔術はそんなに広まってはなくて……PRIDEは始まっていましたけど。

――
ブラジリアン柔術の需要があると見込んで始めたわけですか?

坂本
 自分は一選手として柔術をやってたんですが、当時は柔術着がなかなか手に入らなかったんです。浜松にはブラジル人が多くて柔術をやってる人もいたので、道着を扱うお店もあったんですが、値段がかなり高かったり。

――
ブラジル現地から輸入してくるから、そのぶん高めの価格なるってことですかね。

坂本
 そうですね。なので知り合いがブラジルに行ったときにわざわざ買ってもらったりしたんです。

――
だったら自分でお店を始めてというのが『ブルテリア』の原点なんですね。ボンサイ柔術との出会いはその頃なんですか? 

坂本
 2004年にサトシやマルキーニョスのお兄さんであるマウリシオ先生が来日したんですね。知り合いから「ブラジルからすごい柔術家の先生がやってきた」と紹介を受けたんです。 当時私たちも柔術はやってたんですけど、習っていたジェルソンという先生がブラジルに帰ってしまって。先生不在の状態でサークルのようなかたちで続けていたんですね。 そこにマウリシオ先生がやってくることになって。その頃は道場はなくて、磐田市の武道館でマウリシオ先生と試しに練習してみようと。でも、 ジェルソン柔術の残党の中には気性の荒い人もいて。ケンカが強くなるために柔術をやってるというような。

――
グレイシーvsルタ・リーブリの抗争もそうですけど、アウトローな一面もあったりしますね。

坂本
  なので最初はマウリシオ先生のことを穿った目で見てた人もいたんです。私は最初から尊敬の目を持ってマウリシオ先生のレッスンを受けたんですけど、他の人たちはレッスンに参加をしないで横目でみながら自分たちで練習していたんですよね。

――
はー、それは緊張感がありますね(笑)。 

坂本
 「失礼だな」と思いながらも自分は普通に練習に参加して。最後のスパーリングのときにそれまで横目で見ていた人たちが入ってきたんですよ。

――
どんなもんか腕試ししてやろうと。

坂本
 そうしたらマウリシオ先生がみんなをボッコボコにしたんです(笑)。そこからマウリシオ先生にみんな尊敬の念を持つようになって。絆みたいなものが生まれましたね。それがボンサイ柔術ジャパンの原点です。

――
地域的にもブラジルからの出稼ぎの方が多いから柔術が盛んだったということなんですよね。

坂本
 浜松は東京と比べると田舎なのに、柔術の道場の数は昔から多かったんですよね。マウリシオ先生が来た頃には自分たち以外にも道場が4~5つぐらいありましたからね。

――
その頃もうクレベルは日本にいましたよね?

坂本
 はい。クレベルとそのお兄ちゃんのクリスチャンはお父さんの勧めで柔術をやるようになって。マウリシオ先生がみんなをボコボコにした中にクレベルもいたと思います。その場でボコボコにされたかはわからないですけど、あとでボコボコにされたのは間違いないですね(笑)。

――
どのみちボコボコにされていると(笑)。坂本さんはその頃からクレベルのことをご存知なんですね。 

坂本
 当時はヤンチャがけっこう酷くて。いまでも面影は残ってるんですけど、だいぶ落ち着いたと思いますね。 お兄ちゃんのクリスチャンは物静かでクールで怒らせると怖い。クレベルはとにかくヤンチャで揉め事を起こしてばかりで(笑)。

――
そこにサトシが合流してくるわけですね。

坂本
 マウリシオ先生のあとにマルキーニョスがやってきて。そのとき「マウリシオ先生の弟に凄い奴がいる」という前評判だったんです。で、サトシが来るときは「そのマルキーニョスよりもすごい弟がいる」と。当時のサトシは17、18歳ぐらいで、まだ紫帯だけど黒帯をボコボコにしてしまうと。来日したら前評判どおり、みんなボコボコにされて。身体が大きい人や黒帯もみんなサトシにやられちゃいましたし、当時からスーパースターのオーラが漂ってました。

――
サトシは日本に来た理由はあるんですか?

坂本
 お兄さんのマウリシオ先生に呼ばれてきたんですよ。 ブラジルは経済的に不安定で、日本のほうが平和で治安もいいし、仕事もあるということで。サトシは来日当初は最初は工場で働いて……『ブルテリア』のスタッフにエベトン(エヴェルトン・イワナガ)という人間がいて、当時からサトシやクレベルと一緒なんですけど。一緒に話をしてもいいですか?

――
ぜひ!

エベトン こんにちは。私はサトシ、クレベル、マルキーニョスと一緒に暮らしていたこともあります。

――
強すぎる集団生活ですね(笑)。

エベトン サトシはすぐに日本が気に入ったみたいで、わりと平穏な生活を送っていました。来日して1ヵ月ぐらいは工場で働いて、そのあと磐田のボンサイの道場で朝のクラスが始まったので、そこで指導を始めました。 

――
どうして1ヵ月だけ働いたんですかね?

坂本
 そこは経済的な問題ですね。 お兄さん2人も工場で働いていて、やっぱり道場だけでは生活はできなくて。柔術はアマチュアスポーツなのでファイトマネーもないですし、スポンサー収入もなかなか厳しくて。 

――ボンサイ柔術の道場設立は坂本さんがサポートしたそうですね。

坂本
 そうですね。 マウリシオ先生が道場を作るとなったときに、やっぱり異国の地ですから外国人だとなかなか難しいじゃないですか。金銭面を含めて自分がサポートをさせていただいて。箱を作って道場が始まりました。

――
そこまで親身になるって凄いですね。

坂本
 浜松には柔術道場はたくさんあって、いい道場もあったんですけど。 マウリシオ先生の人となりや技術を肌で感じて、自分が守りたいと思うようになったです。それで2004年にボンサイ・ジャパンが立ち上がって。

――
サトシはスター候補でしたけど、当時のクレベルはどういう評価だったんですか。

坂本
 ボンサイ柔術の中のコンペティションチームの1人ではあったんですけど、当時のクレベルは勝ったり負けたりで。お兄ちゃんのクリスチャンのほうがすごかったんですよ。柔術の大会に出るとお兄ちゃんがたいてい勝って、クレベルが2位だったり。兄弟でワンツーフィニッシュする感じでしたね。でも、クリスチャンは結婚して子供が生まれたあとに柔術からフェードアウトしちゃったんですよね。

――
ああ、格闘技だけでは生活が……もったいないですねぇ。 

坂本
 サトシは紫帯のときに来日したんですが、そのときクレベルも紫だったんですよね。そうすると比べられやすいですし、 クレベルもサトシにボコボコにされてましたね。それは他のみんなもそうなんですけどね(笑)。 

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左からマルコス・ヨシオ、マウリシオ、坂本氏、サトシ、クレベル・コイケ。
マウリシオから坂本氏とクレベルに黒帯が授与されたときの記念撮影

――
ボンサイの中ではクレベルがMMAで最も成功してますが、彼はMMAを始めたきっかけはなんですか?

エベトン クレベルはあの気性のとおりケンカが強かったんです(笑)。戦いが好きだったんですよね。
その延長線上でMMAを始めたところはありますね。

坂本 ボンサイにはそういうマインドがあって、根底には“なんでもあり”の考えがあるというか。

――
シュレック関根さんが言うには「サトシはMMAをやるつもりはなかったけど、MMA に通じる柔術をやっていた」と。

坂本 そうですね。柔術って技の数も多いし、他の格闘技と違ってルールの制約も少ないので、スタイルが幅広いんですよね。 同じ柔術でも戦い方は本当に人それぞれで、たとえばひたすら固めてポイントで勝つ人もいれば、 サトシやクレベルのようにボンボン一本を奪っていったり。なので柔術が強くても MMAに合う人・合わない人はいるんです。その点、ボンサイでやっていた柔術はMMAにマッチしやすかったのかなって思いますね。

――
クレベルもMMAで活躍できたということですね。

坂本
 でも、クレベルはあそこまで行くまでに、すごく苦労したんですよ。

――
お兄さんのように格闘技をやめる可能性もあったということですか。

エベトン それはなかったです。クレベルはずっと格闘家でやっていくという信念がありました。途中でもう無理かなと思うことはなかったと思います。

――
柔術とMMA、どちらを極めたいと思ってたんですかね。

エベトン  最初は柔術でトップを狙ってました。MMAはお金のためにやってるだけであって。あと趣味ですよね(笑)。

――ケンカ好きだから(笑)。

坂本 以前インタビューでクレベルが言っていたんですけど、外で他人を殴ったりしたら怒られちゃうし、場合によっては逮捕されちゃうけど。 MMA だと他人を殴ってお金をもらえると(笑)。
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