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RIZIN.29大阪大会ののキックワンナイトトーナメント1回戦で皇治と対戦する梅野源治インタビュー! 今回がRIZIN初参戦となる梅野。ラジャダムナンスタジアムのライト級王座を手にし、「日本ムエタイの至宝」と呼ばれた男はなぜRIZINでムエタイではなくキックで戦うのか(聞き手/松下ミワ)



――
RIZIN大阪大会で行われるキックトーナメントへの参戦が発表された梅野選手ですが、会見での皇治選手との絡みが凄く興味深かったです!

梅野 ああ、そうですか?

――
皇治選手の会見は対戦相手との舌戦になりがちなんですけど、梅野選手だけは一歩引いた目線でコメントされていたので、ちょっと新鮮だなと。

梅野
 まあでも、ボクは「あんまり言ってこないだろうな」と思ってましたよ。これ言うと皇治選手のブランディングを崩しちゃうかもしれないですけど……彼ってじつは凄く礼儀正しい選手だと思うんですよね(笑)。

――
まあ、きっとそうなんでしょうね(笑)。

梅野
 じつはボク、彼とはいままで1回も話したことないんけど、後楽園の会場に向かう途中ですれ違ったことがあって。ボクは「皇治選手だな」と認識していたけど、話したこともないし素通りしようかなと思っていたんです。そしたら、まさか向こうが深々と頭を下げてきて「お疲れさまです」と。

――
へえ~!

梅野
 そういうことが2回あったんですよ。だから「ちゃんとした方なんだなあ」と。まあ、皇治選手はいつも挑発して相手とバチバチやってますけど、当時から彼はボクのことをリスペクトしてくれている感があったので。

――そこまで吹っ掛けてこないだろう、と。

梅野 彼は10年ぐらい前にREBELSにも出ていて、ムエタイルールで勝つのがいかに難しいかを身をもって感じているはずなので。だから、あんまりボクに言うこともなかったんじゃないかなと思います。

――
会見では「自分は実力をつけてから知名度を手に入れようとしているけど、皇治選手はその反対で、それができるのは凄い」とおっしゃってました。

梅野
 あれも、伝え方がちょっと失礼になっちゃってるかもしれないんですけどね(苦笑)。皇治選手は「実力をつけたうえでの発言だ」という認識があるかもしれないので。ただボクの中では、キックやムエタイで凄く認められているベルトを獲っているわけではない。地方から出てきて少しずつ頑張って、大きな結果を出す前に知名度のほうが上がっちゃったのかなって。それは悪いことではないんですけど、そういう印象があったので。

――そういう中でも、プロモーション側に働きかけてトーナメント開催を実現させるというのは、梅野選手から見ても凄いですか。

梅野
 そう思いますね。周りのサポートも強いんでしょうけど、その周りを味方につけたのも彼の人間性なので。だから、彼のことを叩く人は本当に勘違いしている人か、単純にキライだから言ってるのかわからないですけど、彼はどう考えても、いい人です(キッパリ)。

――
ハハハハハ!

梅野
 だって普段からあそこまで挑発的なことを言ってたらスポンサーもつかないですよ。それに、彼はけっこう人数(観客)も呼べるらしいじゃないですか。そこが、RIZIN大阪大会をやる大きな理由の1つになったとも思いますし。

――皇治選手ってRIZINではまだ白星がなく、そういう部分がわりと批判されがちなんですけど。

梅野
 そうは言っても、彼って一流どころと戦っていますよね。結果を出せてないけど戦っている選手は超一流の選手ですよ。

――
K-1では武尊選手とも戦ってますし、RIZINで戦ったのは那須川天心選手と五味隆典選手です。

梅野
 べつに、プロで1戦2戦しかやったことない選手とばっかり戦っているわけじゃない。でも、それ以上に口が一流というか。実力が一流で、口が超一流だから、その差が叩かれやすいポイントなのかなと思いますね。

――
たしかに「口が超一流」すぎるから! その皇治選手に対する白鳥大珠選手の対応ってどう思いました?

梅野
 うーん、2人があんまり噛み合ってないかなと思いました。自分をブランディングしている皇治選手に対して、白鳥選手は思っていることが出たり、自分の見え方を考えた発言だったり。まあ、白鳥選手は若いんでね。べつにいいんじゃないですか? でも、ボクは元からあんまりトラッシュトークは好きじゃないので。

――
そうなんですか?

梅野
 だから、ボク自身も誰とも言い合うつもりはなかったです。まあでも、バチバチの発言をする人が必要なのも理解していて、クールなキャラ、イケメンキャラ、可愛いキャラ、いろんなキャラがいたほうが盛り上がると思うんで。

――
でも、梅野選手のはトラッシュトークじゃないのに面白かったです。

梅野
 本当ですか? ボクは「こういうふうに言ってほしい」とか言われるのもイヤなんですよ(苦笑)。たとえば、皇治選手に対して「あの発言に対しては頭にきたけど、彼は凄いと思いますし認めています」と言ったとしても、編集では「あの発言は頭にきました」という部分を使うじゃないですか。そういうふうにされちゃうと、結局ボクもトラッシュトークをしているように見えちゃうんでね。

――
そう見えるのはイヤですか。

梅野
 だって、悪口を言い合ったり胸ぐらつかんだり、あれをいちいちみんなの前でやる必要がないというか。本当に揉める気があるんだったら、どこかで2人でやればいいじゃないですか。

――
ハハハハハハハ!

梅野
 それもショーだと考えてやる人もいますけど、ボクはやらない。本当にムカついたらあとで控え室で話せばいいし。

――
いまって、そういう煽りをやならいとプロじゃないという考えもありますよね?

梅野
 それをやっても、たかが知れてますよ。いまいる格闘技ファンから外側のファンを取り込めないのは、そこだと思うんですよね。「やっぱり格闘技って野蛮だな」「リスペクトがない世界なんだな」と。

――
それによって盛り上がる部分もあるけど、離れていく人もいる。

梅野
 それ、どっちが大きいのかというと、トラッシュトークをしたり胸ぐらつかんだりしないから、いまいるファンが離れることはないと思うんですよ。となったら、単純に外側の層に向けてアピールしたほうがいいですよね。

――
それにしても、皇治選手が発案したRIZINキックトーナメントに対して、まさか梅野選手が手を挙げるとは思いませんでした。

梅野
 ボクは実力か知名度かでいうと、ずっと実力を追ってきたタイプで。だから、そろそろ知名度もほしいかな、と。しかも、白鳥選手も参戦するのでリベンジマッチも兼ねられますし。

――
白鳥選手は、19年RISE World series決勝で黒星を喫した相手です。

梅野
 もうちょっと細かくいうと、ボクはいまタイのルンピニースタジアムのベルトがほしいんですけど、コロナの影響でタイから選手を呼べないし、ボクが向こうで試合をすることもできない。ある程度、話が決まってたんですけど、どんどん伸びちゃうんですよね。

――
そうだったんですね。

梅野
 そうなったときに、いま実現できないタイトルを追うよりはRIZIN参戦だな、と。まだボクが20代前半だったら話は別ですけど、30歳を超えてある程度キャリアが見えてきた中で、夢が叶えられないことが確定しているんだったら次にどうするか。

――
そこで現実的な選択をした、と。

梅野
 で、ボクは14年間格闘技をやってきて、タイでも世界チャンピオンになったんですけど、チャンピオンになって初めて戦ったタイでの試合、2012年ゴンナパー・シリモンコン戦ですけど、そのファイトマネーが2万円ちょっとだったんですよ。

――
えっ! チャンピオンなのにその額とは……。

梅野 渡航費は別でしたけど。たしか2万円だったんです。

――
もう、そこにあるのは名誉だけなんですね。

梅野
 名誉もあるのかよくわからないですけど(苦笑)。でも、それもわかっていたというか。格闘技を始める前は、お金や知名度は勝手についてくるものだと思っていたのか、まったく気にしてなかったんですよ。とにかく、誇れるものが1つほしかったから格闘技を始めたわけで。そしたら、実際の試合では体重も合わせますし、喧嘩とは違うと。体重が60キロなら60キロと合わせてやるので、「これ、どうやって負けるんだろう?」と不思議だったんですよね。

――
それは、喧嘩で相当鳴らしてきた方の発言です(笑)。

梅野
 フフフフ、まあそんなことないんですけど。でも、当時は本気でボブ・サップにも勝てると思ってましたから(笑)。

――
そこまで自信があった!

梅野
 もちろん、いまは思ってないですよ(笑)。

――
そういえば、学生時代の梅野選手はMMAもよく見ていて、ヒョードルが好きだったと聞きました。

梅野
 ああ、PRIDEはずっと見てて好きだったんですよね。もともと、ボクは総合格闘技をやりたかったんですよ。だけど、友達から「おまえはヒョロ長いからボクシングとかムエタイがいいんじゃないの?」と言われてムエタイを選んだんですけども。でも大好きでしたね。いまでも、やってみたいなというのはあるんですよ。

――
そんなこと言ったら本当にオファーが来ますよ(笑)。

梅野
 ハハハハハ! でも、あのオスとしての強さはいいですよねえ。ヒョードル、ノゲイラ、ミルコとか。まあでも、「ムエタイ軽量級のベルトは誰も獲ったことない」と聞いてたので、「それを獲ろう」と。誰もやったことがないことを自分が実現したら、より自分のことを誇れるんじゃないのかなと思ったので。そして、チャンピオンになったら知名度もお金も勝手についてくるだろうと思っていたら、プロになって試合を重ねていくうちに「……あれ?」と。

――
おかしいぞ、と。

梅野
 「こんな痛い思いしているのに、こんだけしかもらえないんだ」と。しかも、ボクが所属するフェニックスなんて当時は弱小ジムだったんで、試合もなかなか組まれないんですよ。それで日本ランキングに入ったとしても、月給に換算するとたかが知れている。だから、日本チャンピオンになったときぐらいに、会長にファイトマネーの相場を聞いたんですよ。

――
そこは不安解消のために聞いておきたいです。

梅野
 そしたら「日本チャンピオンはこれぐらい、世界チャンピオンはこれぐらい」と教えてもらったんですけど、「それじゃ生活できないじゃん」と。普通に会社員として働いているほうがいいじゃんと思っちゃって。当時、大学3年生だったんですけど、みんな就活を始めていてボクもどうするか悩んだんですよね。こう見えて、意外と真面目なんで……。

――
いや、凄く真面目に見えますよ(笑)。

梅野
 親にも迷惑もかけたくないし、就活したほうがいいんじゃないかと。それを考えたら2日間ぐらい寝れなくて。なので、ジムのオーナーにも「就活しようかどうか迷ってます」と相談したんです。そしたら「梅ちゃんは頑張ってるから、なんかあったら誰かが協力してくれるから大丈夫だよ」と(苦笑)。

――
うわ~、それは逆に不安になりますねえ(苦笑)。

梅野
 そう、それは他人事だから言えるんだよ! と。でも「仕事しているから、練習に集中できなくて負けちゃった」とか言い訳ができちゃうのがイヤだったんで、結局これ一本で本気で頑張ってみようと思ったんですけどね。でも、日本チャンピオンになり、2011年11月にWPMFの世界チャンピオンになったんですけど、「こっからちょっと変わるのかな?」と思ったら、その第1戦目がタイでのファイトマネー2万円での試合だった。

――
それは、かなり厳しい!

梅野
 でも「何かを突き破るぐらいのチャンピオンになればもっといけるだろう」と思ってやってきたんです、今日までね。

――
だからこそ、今回は満を持して知名度を取りにきたわけですね。

梅野
 そうです。中には「梅野にはムエタイだけをやってほしかった」という人もいると思うんです。でも……たぶんこういう伝え方すると批判されると思うんですけど、そうやって要望が多い人ほど、この業界にお金を落としてないと思うんですよね。

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