多くのMMAファイターをマネジメントするシュウ・ヒラタ氏が北米MMAシーンを縦横無尽に語りまくるコーナー。(この記事は1月3日にニコ生配信されたものを編集したものです)



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シュウさん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします!

シュウ あけましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします。

――新年一発目の配信は、シュウさんにとっては残念なお話からスタートになってしまいますが……シュウさんがマネジメントする井上直樹選手が大晦日のRIZINバンタム級GPで扇久保博正選手に判定で敗れてしまいました。

シュウ 今回のテーマは「脱帽」ですね。皆さんご存じのとおり、多くの選手が満身創痍のかたちでこのトーナメントに臨み、ボクも聞いてるけど扇久保選手だって決して万全な状態じゃなかったわけですからね。何を言おうがとりあえずノーエクスキューズですよ。完敗は完敗、扇久保選手に脱帽です。試合中に直樹くんの薬指が脱臼したとセコンドの水垣さんが明かしたそうですけど、それは試合の流れであることなんで、ケガも実力のうちですよ。そこでガチャガチャ言ってもしょうがないことですし、彼の弱点はMMAレスリングだっていうことは全員わかってたことじゃないですか。だからこそ練習先としてセラ・ロンゴを選んだんで。UFCバンタム級王者のアルジャメイン・スターリングもそうですけど、親分のクリス・ワイドマンやアル・アイキンタとか、アマレス出身が多いですし、ほかにもメラブ・ドバシビリ、マット・フレボラなどMMAレスリングが強い選手がいますから。

――UFCリリース後に井上選手の練習環境を再構築したわけですね。

シュウ だけどコロナで1年半で日本に戻って来ざるをえなかった。結局どのスポーツみんなそうだと思いますけども、技術を習得して、それを身体に染み込ませてしっかり試合に自然に出るようになるのは簡単じゃないってことですね。そこを扇久保選手はしっかり教えてくれたってことですよ。だって扇久保選手は何年やってきたんですかって話で。

――キャリア6年ですからねぇ。ばっちりと染み込んでますね。

シュウ 「簡単に俺に勝てると思うなよ」ってことですよ、やっぱり。それが事実だとボクは思ってます。あとやっぱり扇久保選手はモチベーションも高かったし、彼女にプロポーズできて最高のエンディングじゃないですか。

――きっと現役最後のチャンスぐらいのつもりで臨んだんでしょうね。

シュウ 素晴らしいですよね。これからもうめちゃめちゃ有名になって金を稼いでほしいですよ。扇久保選手はTUFで決勝まで残ったのにUFCと契約できなくて。ボクは個人的におかしいとすごい思ってたんで、じつをいうとマッチメイカーのショーン・シェルビーに酒を飲んでるときに「フェアじゃねえだろ」みたいなこと言ってたんです。もしもこれがウチの選手がこんな扱いされたらたまらないじゃないですか。扇久保選手本人からしても納得いかなかったと思うんですよ。

――同時期に堀口恭司がUFCであまりいい扱いをされなかったりしてFAすることになりましたし、日本人ファイターの評価が微妙だったりしてて。

シュウ いまでもハッキリ言いますけど、扇久保選手は取るべきだったと思いますよ。UFCって枠にかぎりがあるわけじゃないんですよ。いい選手だと思ったら、すぐに取りに行きますからね。だから、あのとき直樹くんが契約したから扇久保選手の枠がなくなったわけじゃないんですよ。それをモチベーションにしてくれたらそれは素晴らしいことだと思うけども。

――あの悔しさをパワーにしてきたわけですからね。

シュウ とにかく直樹くんに関しては課題は明白になんで。ボス魅津希選手も「ショーン・サンテラ戦後での問題点を克服できてないんだから戻ってこい」と言ってました。試合後に反省会をしてるんですけど、アルジャメインがUFCのタイトルマッチをやるんですよ。その試合に向けてのキャンプに入るので、そこに合流するように言われてるんです。あと直樹くんが負けちゃったときのことも考えて、新規契約させていただいたスポンサーには、試合ごとじゃなくてみんな年間契約をお願いしたんですよ。つまり毎月お金が入ってくる。それで日本とアメリカの両方でアパートを持って、行ったり来たりして練習できるだけの経済面は確保してあるので。それにどのスポーツでもトップはアメリカと母国とか、良いとこどりの練習環境なんですよね。そしてそれにお金を使う。

――アメリカと母国に拠点を持つのがスタンダード。そういう備えがあってこそ試合に集中できると。

シュウ 本当にスポンサーの皆様方、ありがとうございますってことなんですけども。落ちたら這い上がるしかないですよ。そして勝って結果を残すことがスポンサー様に対しても最大の恩返しですから。直樹くんは頑張ってくれると思うんですよ。負けず嫌いですから。

――井上選手は前回の金太郎戦が判定だったことが納得いかなくて、2試合ともフィニッシュしてやろうとしてたみたいですね。

シュウ 聞きましたよ、それ。その点に関してはボク、ちょっと責任感じちゃって。前回の判定勝ちの内容にブーブー文句を言ってたじゃないですか。

――セコンドの水垣さんも責任を感じてましたよ。もっと気持ちよく試合に入らせてあげるのがボクの役割だったな、というふうに。

シュウ いい経験になったと思いますよ。ただ、彼にも厳しいことを言いました。日本人最年少でUFCと契約したとか5連勝してたとか、これで全部なくなった。日本人ファイターのワン・オブ・ゼムになったからねと。そこはハッキリ言いました。だけど、この悔しさをどう糧にしてやっていくのか。そこを考えていくしかないじゃないですか。お姉さんの魅津希選手も電話で30分ぐらい説教してましたけども。

――ビッグボスが。

シュウ ボスがカワイイのは、最後の10分ぐらいは自分も泣きながら説教してたんですよ……。

――弟思いのいい話ですね……。

シュウ 朝倉海選手に関しても言わせてもらえば、彼も右拳の骨折があったみたいですけど。拳の骨折って再発の可能性がすごい高いですし、やっちゃったら完全100パーセントOKまで半年から1年を経過を見る人が多いんですよ。そういう状況で決勝まで勝ち上がった朝倉海選手はすごくよくやったと思いますよ。

――海選手は扇久保選手に負けたけど、1日2試合で拳を骨折したうえだったので。個人的にはプロ野球でいうと、シリーズ制覇したけど日本シリーズで負けたみたいな感覚なので、これで評価が下がるのは……。

シュウ 1日2試合、しかも3ラウンド+3ラウンドですからね。公式記録としてどう扱うのかは難しいところですね。

――1日2試合のGP方式はいろいろと難しい時代なのかなっていう気がしますけど。

シュウ プロモーターからしたらスターも生まれてくるし、ハプニングもあるからやりたいって気持ちはわかりますけども。

――ベラトールのGPは1年で納めない場合が多いじゃないですか。RIZINの場合だと大晦日をゴールに設定せざるをえないんですけど、開始が4月だとして16人参加だと8ヵ月で3大会のハードスケジュールですからね。

シュウ それだったら1月ぐらいから始めてくれると、ちょっと間隔も空けられますしね。

――朝倉海選手が右手骨折してるのに決勝戦に出場したが、ドクターやリザーバーの意味があるのかということが議論になってますけど、これって最終的に選手の判断になっちゃうんですよねぇ。

シュウ 藤田和之選手がPRIDE GPでマーク・ケアーに勝ったじゃないですか。その日のそのあとに行なわれたマーク・コールマン戦ではケガを抱えたままリングに上がったけど、ゴングと同時にタオルを投げた。あれでも試合はしたとなってファイトマネーは発生しますからね。それと同じで決勝戦に出て、準優勝でも500万円の賞金ですし、お金じゃない部分でもやっぱり戦いたいという気持ちは格闘家にあると思いますから。

――生命の危険がないケガではないとドクターもなかなか止められないところもあったりして。

シュウ たとえば試合中でも明らかに折れたり、外れてるときは、レフェリーが止めることもありますよね、タップしなくても。

――クリス・ワイドマン戦で足を骨折したアンデウソン・シウバのように。1日2試合は難しいです。ワンマッチのドクターストップの基準を照らし合わせてもハレーションは起きますし。

シュウ そこらへんのルールを明確にしなくちゃいけなかった点はあると思いますし、ワンナイトトーナメントの問題でもあると思いますね。ただ結局どの選手でも試合の反省点とプラス点ってあるじゃないですか。海選手のプラス点は最後の最後まで諦めなかったことですね。それは素晴らしいファイティング・スピリット。これは持って生まれたもので教えられるものじゃない。彼が上に行く素質があるってことを充分に証明してる。マイナス点は、これもまたディスってるって皆さん思ってほしくないのが、たしかにパンチ力があるのは明らかですよね。当たったら誰でも倒れるパンチを持っている。けど、そういうパンチを持ってる選手って世界レベルでいっぱいいるんですよ。アメリカの選手やコーチに話を聞くと、みんなが言うのは朝倉海はテイクダウンディフェンスに優れていると。だから面白いことを言う人がいるんですよ。彼は殴るというよりも、テイクダウンディフェンスの強さを中心にしたゲームプランを組み立てればいいんだって。となると、テイクダウンされてコントロールされて負けることが多い瀧澤選手相手だったから、やっぱり拳のことも考えてテイクダウンしてパウンドやエルボーで支配したほうがよかったんじゃないかなって。

――朝倉海選手の特性を活かした戦略を立てられたんじゃないかと。

シュウ そうです。扇久保選手との試合でも、しっかりとテイクダウンをディフェンスしましたし、つかまれてもちゃんとコーナーに行ってうまくスイッチしたりだとか、素晴らしい技術は見せたと思うんです。これはプラス点ですよね。もうひとつの反省点は引き出しがもうちょっとほしいなと。右拳を壊したとはいえ、扇久保選手相手には難しいかもしれないけど、全面で戦っていればもっと違った内容になったかもしれないですし。あと4オンスのグローブじゃないですか。海選手は憂流迦選手や瀧澤選手のアゴが折ってますけども、逆のことをいえば4オンスだから、一発のパンチが重くなくてもコンビネーションで当てれば倒せるんですよ。そういうところも考えて、もうちょっといろんなトータルMMAを身に付けてくれば全然やれるチャンスあると思いますよ。そういうプラス点、マイナス点いろいろあったんですけど、朝倉海選手は見事に戦ったと思いますよ。

――海選手も井上選手もマイナス点をどう修正していくかなんですね。

シュウ UFCの世界でもそうですけども、みんな修正、修正を繰り返してやっぱり強くなっていくものです。初めからパーフェクトの選手なんていないですよ。日本ファンが海選手にすごい期待したいのはわかるんですよ。UFCでもトップ10に行けるかといえば、どの世界もそんな甘くないですよ。逆にUFCで15位の選手がRIZINに来たからってすぐにチャンピオンになれますか。それはそれでそんなに甘くないですよね。それは海選手にかぎらず、あの修羅の国UFCで簡単に15位に入れると言える選手、世界のどこにいますかってことですよ。

――あの堀口選手ですらUFCのバンタム級ではやってみないとわからない世界ですね。

シュウ 本当にそうです。堀口選手に勝ったセルジオ・ペティスだってUFCではフライの選手ですからね。フライでは1位だったかもしれないけど、バンタムではもう未知数。それは勝負事ですからやってみなくちゃわかんない。それこそ堀口選手とセルジオの試合は勝負事の怖さをある意味、証明してくれましたよね。ひとつの判断が勝負をひっくり返したわけですから。

――海選手も井上選手も修正点があるということはまだ伸びしろがあるっていうことですね。

シュウ これはハッキリ言っちゃいますけど、UFCがドーピングの抜き打ち検査をするようになってから、チャンピオンの年齢層がぐんと上がりましたからね。

――ハハハハハハハハ。

シュウ いまは20代後半から30代初めくらいのエクスペリエンス、要するに経験のある老獪な選手たちもチャンピオンになれる。これはライト級王者のチャールズ・オリベイラが証明してくれたじゃないですか。

――あんなに黒星を重ねたのにUFCチャンプに登りつめて。

シュウ 直樹くんにも伸びしろがあると思いますし、やれると思うし。もう一回白紙に戻して練り直しですよ。頑張りゃいいんですよ、もう1回。ボクは何回も言ってるんです。日本人選手全員が海外で勝ってほしいから。


――浜崎朱加選手に完勝した伊澤星花選手は“vs世界”に向けて期待大ですね。

シュウ すごかったね。伊澤選手は打撃に改善の余地があったと思ったんですけど、彼女は自分の得意な分野に引き込んで勝ちきりましたね。浜崎さんはアームロックが取れなかったことがちょっと厳しかったのかなと思うのと、自信があるからグラウンドにも付き合っちゃったよね。浜崎さんがこの結果を受けてまたゲームプランを変えてボクシング中心でやるんだったら、これはこれでわからないから。どうせ再戦するでしょ、この2人は。

――年内中には間違いなく再戦しますね。

シュウ そうなるとそこでまた彼女も練り直してくるわけですし、本当にわかんないですよ、MMAって。1戦目に圧倒したからといって、2回目も圧倒できるかってそうじゃないことも多いんですよね。

――実力が拮抗していると善戦や戦術をどう生かしてくるかっていうのが作用するわけですよね。

シュウ これね、言いたかったんですけどね、アメリカの選手ってけっこうRIZINを見てるんですよ。関係者とかも見てますよ。

――へえー!

シュウ たとえば、アルジャメインだって直樹くんの試合を見てますし。その中でみんなが「これは素晴らしい」と褒めてるのはPPV応援コードのシステムですよ。

――PPVやチケットの購入者が「どの選手をお目当てに購入したのか」を選択するやつですね。<RIZINの世界的認知度が高い理由とは?17000字インタビューは会員ページへ続く>


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