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長谷川幸洋コラム【第64回】安倍首相のブレーン浜田宏一内閣官房参与に聞く「消費増税と法人税引き下げの行方」
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長谷川幸洋コラム【第64回】安倍首相のブレーン浜田宏一内閣官房参与に聞く「消費増税と法人税引き下げの行方」

2014-09-18 20:00

    「増税の痛みは統計が証明しています」

    安倍晋三政権は2015年10月に予定されている消費税増税をどうするのだろうか。上げるのか上げないのか、年末に判断する方針だが、安倍首相に影響力をもつ浜田宏一内閣官房参与(エール大学名誉教授)に9月11日午前、東京都内でインタビューした。

    浜田参与は慎重に言葉を選びながらも、景気が伸び悩むようなら増税を延期するか、あるいは段階的な引き上げを検討すべきだ、という見解を示した。一方で、消費増税以上に力説したのは法人税引き下げの必要性である。

    外国から日本に投資を呼びこむだけでなく、日本経済の供給能力を高めるうえでも法人税の引き下げは重要と指摘し、その財源として租税特別措置の見直しや将来的には炭素税の導入も検討すべきだと提言した。

    以下は浜田参与との一問一答である。
    * * *

    ーーーまず、いまの景気の現状をどのようにご覧になっていますか。

    浜田内閣官房参与(以下、浜田):いま潮目というか、いろいろに解釈できるときだ、と思いますね。外食産業とか建設とかよく言われますが、有効求人倍率やデフレギャップをみると、労働市場はひっ迫しつつある。地方を見ても、この傾向は一般的です。そういう基調は強いと思いますが、他方、生産は伸びていても在庫が積み上がっている。つまり在庫循環で見ると、そんなに楽観ばかりはできないのではないか。

    設備投資も機械受注が伸びている、という解釈もありますが、全部が安心なわけではない。リフレ派の中でも、片岡剛士(三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・社会政策部主任研究員)さんみたいに十分、注意すべきだという考え方もある。日本銀行はおそらく岩田規久男(副総裁)さんも含めて、他の指標は強含みだ、という一般的な解釈をしていると思います。

    言えることは、4月増税の駆け込み需要があって反動が来た、GDPの数字はノイズというかショックにさらされている数字なので、いまは消費増税の可否も含めて将来の政策を決めるのにいい時期ではない。やはり安倍首相が言うように、7~9月の第3四半期の速報が出たところで考えるというのが正しい。

    ーーーいまノイズと言われましたが、4月の増税についてはどう評価していますか。

    浜田:「消費税はみんなに緩やかにかかるんだからいいんだ」という財務省のキャンペーンがあったようですが、実際には消費者から購買力を奪って国庫に移すのですから、消費に影響がないわけはなくて、それがボディブローというか、かなりの痛みだったというのはいま統計が証明しています。本田(悦郎)内閣官房参与が心配していたことは、杞憂ではなかったと思うんですね。

    いまのような国民所得の伸び悩みがもう1四半期続くようであれば、増税を延期するとか緩やかにするのは当然です。しかし、全体の趨勢としてGDP(国内総生産)が戻ってくる、労働市場やGDPギャップ等に勢いが失われていない、ということであれば、これからの主戦場は法人税の軽減問題だと思うので、そこについて景気が下折れしていないという証拠があるなら、消費者には悪いが、消費税はもう1つ我慢してもらって、法人税を徹底的に減税する。企業は公害税とか租税特別措置の廃止で痛みを感じてもらう、つまり企業にも別の形で財政再建の痛みを負ってもらう。法人税は少しずつではなく、むしろ大胆に大幅に減税する必要があると思っています。

    なぜ消費増税についての態度が軟化しているのか

    ーーー「もう1四半期」というのは7~9月期をみて、という意味ですね。

    浜田:そうです。もう少し待てればいいんですが。ある人に聞いたら(10%への増税を予定している)来年10月というのは、いろいろ調子が悪いらしいですね。ボーナス商戦にかかっちゃうらしいんです。だから、4月以上に10月に上げるのは、ちょっと…。

    ーーー7~9月期にどのくらいの数字が出てくればいいと思いますか。

    浜田:ぼくは数字が弱いので(笑)。そうですねえ、ならした趨勢に戻ってくるかどうか、ということでしょうね。いまの潜在成長率は情けないことに1%に届くかどうか分からない。そこに戻ってくるのが完全に見えてくればいいと思いますが、片岡さんなどは「また停滞してしまうのではないか」と心配していますね。

    ーーー民間では「4%くらいはいく」という人もいるし「そこまではいかないんじゃないか」という声もあるようです。

    浜田:逆に言うと、がんと落ちたんだから、趨勢に戻るためには同じくらい伸びないといけなくて、それはどうなるか分かりません。

    ーーー来年10月の消費税は「延期するか緩やかにする」というお話でしたが、延期というのは、たとえば1年延期というイメージですか。

    浜田:そういうことです。ただ再来年の4月にする、つまり半年延期も含めてです。なぜ私が消費増税について少し態度が軟化しているかといえば、いま幸いにして議論が消費税と法人税その他が加わっている。いままでは消費税だけを考えていて、日本経済もGDPギャップをかなり残した状態で議論していたが、今回は少なくとも日本銀行の見方によると、かなり生産のキャパシティに近くなってきている。

    財政再建について財務省は(赤字を)国内でも国際機関でも誇大に宣伝していたので、私は「そんなに急がなくても」と言ったわけですが、今回は法人減税が(議論され)国際競争あるいは国際ゲームの中に組み入れられている。法人税を下げるのは産業界、財界のためだけではなくて国民経済のために重要だと思います。

    ーーーもう1点、確認しますが「緩やかにする」というのは段階的に上げていく、という意味でしょうか。

    浜田:1%ずつ、1年半おきとかが一番緩やかですよね。いずれにせよ税率は上がっていくし、税収は入ってくる。永遠に延期では日本の財政基盤は弱いでしょうし、財務省が言うように、法人税を下げるのだったら財源はなければならない。それでも1回で2%上げるより、まず1%、残りの1%を1年なりに1年半後に上げたほうがいいのではないか。

    ややあいまいに聞こえるかも知れませんが、国民所得を1期ごとに見るというより、日本経済全体のメカニズムを見違えないようにするのが、私の立場だと思っていますので…。

    「法人税の議論にフォーカスを移すことが重要です」

    ーーーそこで法人税の話に移りたい。「消費増税と法人減税はセットであるべきだ」というのが先生のお考えなのでしょうか。

    浜田:「セットにする」という結果になるかもしれません。そう言うと「消費者をいじめて企業を優しくするのか」と言われる。昔は私もリベラルと見られていたので「変節したのか」と言われるんだろうと思います(笑)。でも、いまの法人税の国際競争は凄まじいものがあるんですね。カリブ海にいけば、法人税をゼロにして企業を誘致するタックスヘイブンがありますし、先進国でも英国はかつて日本より高かったが、いま25%さらに20%前半に下げようとしている。各国とも法人税を下げようとしている。

    たとえば、高橋洋一(嘉悦大学教授)さんが言っていますが、そもそも「法人税は2重課税だ、配当でまた課税されるのだから、法人税はなくてもいいのだ」という議論もある。法人擬制説というか、企業が中間的な器にすぎないなら法人税はゼロでもいい、と。でも私はそこまで哲学的議論に深入りはしません。後で課税しても、いま課税しても同じになることもありますから。

    ただ、英国が下げようとしているのは、法人減税が効くからに違いない。財務省の関係者に言わせると、投資を日本にするかフィリピン、シンガポールにするかは法人税だけには依存しない、と。その様な議論は経済学一年生の論理を無視しています。たしかに、賃金水準の問題もあるし従業員の環境とかもある。しかし、収益率が下がると投資しなくなるというのは、法人税も込みになって(判断材料に)入っています。

    単純に考えると、いま日本が(35%から)25%に法人税を下げれば、収益率は10%上がります。他の条件を加味したうえで投資の収益曲線が上がるわけですから、国際投資における(投資対象として日本に対する)需要は上がる。世界的な専門家である林文夫(一橋大学教授)さんにも聞きましたが、やはり資本コストに法人減税が関係してくる。どれだけの収益率があれば投資するか、というコストの部分が法人税で違ってきます。

    だから、まず法人減税で投資が増えてくるし、その後で日本経済の供給能力が増すような改革になる。いま需給が詰まってきていて、次はインフレが心配になる。第1の矢があれだけ成功したので、次は供給力不足の経済に入ると思うんですね。そういう状態では、第1の矢から第3の矢に軸足を移して、消費税から法人税の議論にフォーカスを移すことがいま必要なのです。

    ーーー日本経済の供給力を高めるためにも、法人減税が必要だと。

    浜田:まさに、そのために必要なのです。株式配当を受け取っている人たちと勤労者と比べれば、法人減税はどちらかといえば金持ち優遇の政策になるといわれれば、そうかもしれない。私も最近、参与になってからウォールストリートの人たちと付き合うようになったんですが、米国でも、価格一辺倒の経済が(格差を生む)二重社会になっている。もちろん投資に失敗して食べるのに困る人たちもいますが、やはり庶民の生活とは違う。

    分配の正義を考えたら、むしろ消費税を下げて法人税を上げてもいいじゃないかという議論も起きると思います。ただ、そうすると日本は再び低い成長率にとらわれてしまって、日本企業は「足で投票して」産業の空洞化が激しくなる。シンガポールの法人税は17%で日本とは15%も違う。そうすると、外人もそちらに投資したくなる。外国の投資家も英国やシンガポールに投資したほうがいいとなって、日本から資本が逃げていく。そうなると、地方創生どころじゃなくなってしまいます。朝日新聞は「乏しきを憂うな、等しからざるを憂え」というのがフィロソフィーでしょうから、それでやってもいいですけど。 
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