切っても切れない縁と思われていた
映画と映画館が
あろう事か疎遠になっている!
”映画好き”を自称する者が
”映画館にはあまり行かない”
と発言する!
レンタル店とネット配信の発達による
時代の流れというものだろう!
なんとも寂しい話だ!
確かにどこで食べようとも
おにぎりはおにぎりでしかない!
しかし!
会社のデスクで食べるおにぎりよりも
山のてっぺんで食べるおにぎりの方が
絶対においしいと私は確信している!
映画館という建物は
映画を観るための専用施設だ!
つまりおにぎりで言えば”山のてっぺん”なのだ!

そんなわけで
私はどこに行っても映画館で映画を観る!
「ハワイ」だろうが
「香港」だろうが
「台湾」だろうが
どの土地を訪れても
映画館を探し出して映画を観る!
昨年の『ダブリンの鐘つきカビ人間』ツアーでは
全てのツアー先で映画を観る計画を達成した!
「映画館」にはその土地その土地で
他には無い独自の空気があり
私はそれを感じる事を
上級の”ひろぎ”と考えている!
最近では複合型の
「シネコン」と呼ばれる映画館が乱立し
独自の空気を持つ映画館は激減してしまった!
しかしそれでもまだ
博多の「中洲大洋映画劇場」のように
古くからの風格を残す映画館もあれば!
広島の「八丁座」のように
”古き良き映画館”をコンセプトに
新設された映画館もある!

はてさて!
「デルシネ」の上映で
毎年「沖縄国際映画祭」に呼んでもらっているが
映画を上映した事はあっても
まだ沖縄で映画を観た事がない自分に気づいた!
なので今回は
”沖縄の映画館で映画を観る”
というひろぎの目標を立ててみた!

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沖縄の観光地として有名な「国際通り」
そもそも映画館
「アーニー・パイル国際劇場」
によって栄えた1.6kmの通りで
「そんな場所が栄えるはずがない!」
と言われていた事から
「奇跡の1マイル」との異名を持っている!
その中心地点からT字に伸びる道は
「沖映通り」で
そこもまた「沖映本館」という映画館によって
栄えた通りであると聞く!
かつてはそれに乗じて建てられた
多くの映画館が建ち並んでいたのだそうだ!
つまり
そこは映画館が作った街だったわけである!
たまたま乗車したタクシーの老運転手は
私にこう語ってくれた!
「昔はよく国際通りに映画を観に行ったさー!
 国際通りは観光地じゃなくて
 僕らの遊び場さったさー!」
しかし!
現在の「国際通り」「沖映通り」には
一軒の映画館も無い!
沖縄で映画を観ようと思ったら
自動車で郊外まで出向き
「シネコン」を訪れるしか無いのだ!

いや!

いやいやいや!

私は大阪を発つ前に
事前に沖縄の映画館を調査していた!
その中に一軒だけ
郊外まで出向く必要のない
どうにも気になる映画館を発見した!

「首里劇場」だ!

ホームページを閲覧して
私の「しりこ玉」ははじけ飛んだ!
「首里劇場」は
60年以上も改装されずに営業している
沖縄最古の映画館との事だった!
私はなんとしても空き時間を作り
この「首里劇場」を訪れてみようと考えた!
では私の沖縄滞在期間中に
そこではどんな映画が上映されているのか?
それを調べた瞬間に
私の表皮と内臓はぺろりと入れ替わった!
こ!
これは!!

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なんと「首里劇場」は
ポルノ映画館だった!
しかも!
私の滞在期間に上映されているのは
「スチュワーデス大会」だ!
なんだこの個性の強すぎるポスターは!

小学五年生から
ひげそりをして学校に通っていたほど
成長に問題を抱えていた私が
最初にポルノ映画を観に行ったのは
中学二年生だったと記憶する!
その頃はレンタルビデオというものは存在せず
当然の事ながら家庭用コンピュータも
インターネットも無い世の中だった!
わざと数日間ひげを剃らずに備え
できるだけ親父な服装で
山形駅前にあった
「山形日活」の券売窓口に立った!
うっかり「子供一枚」と言いそうになったが
あわてて言葉を変えた!
すんなりと劇場に入り
あまりの興奮に途中でロビーに避難した!
一息ついていると
劇場のおばさんから
「ポスターいらない?」
と言われた!
「貼る場所が無い」と言って断ったが
数年前にその話を聞いてくれた
ポルノ映画ポスター収集家の
「河内家菊水丸」氏に
「なんてもったいない事を!」
と怒られた!

まさか21世紀のネット動画時代に
47歳になった私が
ポルノ映画を観に行く事になるとは
思ってもいなかった!
デルシネ・チームが乗車するロケバスの中で
その日の空き時間の予定を問われた私が
「沖縄最古の映画館でポルノ映画を観る」
と告げると
それは一つのセンセーションとなった!
「なんだその企画は!」
「どうしてそういう事になった?」
私の予定を聞いただけで
みんなで大騒ぎとなった!
「アグーみき」こと「ガブリエルみき」
いつもの「大仁田厚」のような口調で
「あたしもそこに行きたいんじゃ!」
と言い出した!
私は
「ポルノ映画館というのは悪の巣窟で
 女子など連れ込めば
 一斉に野獣が群がり
 お前の一生を台無しにする!」
と脅したのだが
すぐにそれは嘘だとばれた!
屈強なボディビルダーでもある
「こまちゃん」こと「ミルクボーイ駒場」君が
「そんなら僕も行きますわ!」
と言ってくれた!
外観だけでも見たいというスタッフが
ロケバスで劇場まで送ってくれる事になった!

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「むろちゃん」こと
沖縄迷惑芸人「どさんこ室田」の
スーパーカブによる先導で
我々一行は「首里劇場」に到着した!
「むろちゃん」の案内が無ければ
到底たどりつけないような
住宅街の入り組んだ場所に
「首里劇場」はあった!
我々はその外観に度肝を抜かれた!

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まさか?
と思えるほどに朽ち果てた外観は
まるで無人の廃墟のように見えた!
しかし!

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大会だ!
スチュワーデス大会がちゃんと開催されている!
入場料金は三本立ての入れ替えなしで
800円と表示されていた!
しかしひとなつっこい「むろちゃん」が
「大阪から来た三人が観たがってるよ!」
と交渉すると
「団体割引きの500円でいい!」
と言ってもらえた!
値切る気などまるでなかったので
少々驚いたが
たった三人で団体扱いになる事には
もう少し驚いた!

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窓口で迎えてくれたのは
なんとも屈強そうな
「マヤー」だった!
沖縄では「ねこ」の事をそう呼ぶ!

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タイトルを言うのも気が引けるが
ちょうど
『尻ふりスッチー 突き抜け淫乱気流』
の上映が始まったところだった!
館内は通常の映画館よりも暗かったが
時折明るい映像のおかげで見える内装は
まるで夢のように素晴らしかった!
スクリーンの両サイドには
釣鐘形の窓のような物があり
双方に花道が伸びていた!
窓の用途はわからないが
ひょっとしたら沖縄の演劇文化と
関わりのある物なのかもしれない!
中に入って三線でも弾いたのだろうか?
客席数は200以上ある!
二階席も入れたら300席はありそうだ!
そこは”趣”などと呼ぶ以前に
”歴史的財産”である事を確信した!
私は”尻ふりスッチー”をそっちのけに
劇場ロビーを散策してみる事にした!

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今にも剥がれそうな壁には
古いポルノ映画のポスターが
いっぱい貼られていた!
コンクリートの床以外の全てが木造で
どこに寄りかかっても
倒れてしまいそうな作りだった!

そんな私を見つけて
白髪をポニーテールに結った館主が
のっそりと現れて
話しかけてくれた!

「大阪から来たの?」

「ええ!
 国際映画祭で来たんですけどね!
 映画祭のプログラムに全然興味が無いんで
 ここに来てみたんです!」

聞けば「首里劇場」が建てられたのは
1950年!
つまりは66年前だそうだ!
首里という街が
当時どのように栄えていたのかに関しては
うまい資料を見つけられずいにいるのだが
なにしろ琉球王国の中心であった
「首里城」のある街だ!
城下町としての活気が
街全体にあふれていたに違いない!
館主の話によると「首里劇場」は
かつては”沖縄芝居”と娯楽映画で
ずいぶんと栄えた劇場だったそうで
立ち見が許されていた時代には
1回の上映で
600人ほどが入場した事もあったと言う!
しかし時代の流れから
入場客は次第に激減し
上映プログラムをポルノ映画に切り替え
今も営業しているとの事だった!

「けど今の時代に作られるのは
 いわゆるAVばっかりでしょう?
 ストーリー性のあるポルノ映画なんて
 作られてるんですか?」

「ほとんどないねぇ!
 けどOPさんだけは
 今も毎月三本ぐらい作ってるのよ!」

「OPさん」というのは
「オーピー映画株式会社」の事で
奇人「大蔵貢(おおくら・みつぐ)」による
「大蔵映画」の子会社だ!
「大蔵映画」は私が幼少の頃には
ポルノ映画混じりのホラー映画を
低予算で量産していた会社で
私は今も時折DVDボックス
『大蔵怪談傑作選』を鑑賞している!

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「フィルムの頃は
 値段も高かったし
 届くのも遅かったし
 扱いも難しかったけどねぇ!
 今はOPさんがDVDで届けてくれるからねぇ!」

昔は缶で届いた映画が
今では封筒で届くらしい!
「こまちゃん」と「アグーみき」が
スクリーンで観ている『尻ふりスッチー』は
DVDをプロジェクター投影しているというわけだ!

「興味ある?
 映写室も見る?」

思ってもいない嬉しい誘いだった!
私は館主に続いて
がらくたが転がり今にも崩れそうな階段を
踏み外さないよう二階に昇った!
この写真を見て
誰がこの場所を
営業中の映画館だと思うだろうか?

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映写室には確かに35mmのフィルム用映写機が
二台並んでいた!
映画のフィルム上映には
ロールチェンジ用に二台の映写機が必要なのだ!
故障もしていないので
いつでもフィルム上映は可能だと言う!

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二階席という場所にも案内された!
朽ちて崩れた木製のベンチが並び
現在は使用されていなかった!
館内の様子や二階席の写真を撮影したかったので
「今の上映が終われば照明はつくのか?」
と尋ねたところ
すっかり忘れていたルールで諭された!

「ここポルノ映画館よぉ!
 電気がついて知り合いに会って
 ”はいさーい”なんて言う所じゃないでしょう!」

確かにその通りだ!
毎日13:00から上映が始まると
最終上映まで劇場内には一切照明が灯る事はない!
ポルノ映画館とはそういう場所だった!

「営業前に来てくれたらよかったのにぃ!
 そしたら全部見せてあげられたさー!」

なんと館主は
再来の際には営業時間外に
私を劇場に迎えると言ってくれた!
次回は持参したDVDを
プライベート上映させてもらえるかどうか
交渉してみたい!
『ニュー・シネマ・パラダイス』ならば
号泣するだろうし
ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』ならば
心臓が爆発するほど素敵だろう!
はたまた最新作の
『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』
でぶっ飛ぶのも素晴らしくひろぐに違いない!

「新作のポルノ映画は確かに少ないけどねぇ!
 古い映画を組み合わせて上映するのが
 なかなか楽しいのよぉ!」

なるほど!
そんな具合で
「首里劇場」のプログラムは
いつも「大会」なのだ!
今目の前にいる館主が
あの手描きポスターの文面を書いていると思うと
それだけでにこにこしてしまった!
どれもこれも
素晴らしいセンスではないか!

「さ、さ、さ、さ、裂けちやう〜」

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私の中では「大会」という言葉が
ブームになろうとしている!

「首里劇場」を出ると
辺りは薄暗くなっていた!
劇場いっぱいに聞こえていた
「スチュワーデス大会」のあえぎ声が
まだ頭の中にこだましていた!
・・・ん?
・・・いや!
そうではない!
我々は最後の最後に
「しりこ玉吹き出し大会」を開催した!
一枚板の壁から
映画の全ての音が外に漏れ響いているのだ!
女優のあえぎ声と
「飛んじゃう〜っ!」
という言葉と
ジェット機が飛び立つ音!
それら全てが周囲の家庭に
まるで町内放送のように聞こえているではないか!

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ランドセルを背負った
小学校4年生ほどの女の子二人と
1年生ぐらいの男の子が
そんなあえぎ声の中を歩いて行った!
しかし男の子がふと向きを変え
「首里劇場」の壁に駆け寄り
両手をついて耳をくっつけた!
中からは相変わらず「大会」の音が
あんあんに響いていた!
少年は満面の笑みで私の顔を見た!
女の子達があわてて引き返し
「だめー!」
と言って男の子の手を引いて消えて行った!
私はそれを実に健全な風景だと感じた!
男の子に
”性的な物は全て悪”
という観念を植え付け
本能的な興味を封印して育てれば
やがて生まれて来るものは
「いい子」ではありえない!
間違いなく
「きっしょいおっさん」だ!
「うちの子は学校の女の子に興味が無くてね!
 いくつになっても
 ママが一番好きって言ってくれるの!」
と言えた時には要注意だ!
それはほぼ100%の確率で
「きっしょいおっさん」を生み出す前兆である!
「首里劇場」の外で出会った少年は
きっと健全な大人に成長し
初めてのベッドの上でも臆する事なく
映画や雑誌で見た通りに
パートナーを見事にリードできる
ジェントルマンになる事だろう!
私にしてみれば
それが「いい子」だ!

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映画と映画館は
おにぎりと山のてっぺんの関係にある!
山のてっぺんで食べれば
例えおにぎりに向かないおかしな具材であっても
最高においしく感じる!
『尻ふりスッチー 突き抜け淫乱気流』
はタイトルから想像できる通り
どうしようもなくだめな映画だった!
ポルノ映画としての興奮度も低く
「こまちゃん」も「アグーみき」も
うんざり大会だった!
しかし!
「首里劇場」という素晴らしい映画館が
そのどうでもいい映画に
忘れられない思い出を与えてくれた!
なので私は
厳しい採点で知られる私の「映画日記」
驚くほど高い点数を付けていた!

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今回の『ひろぐ』で
「首里劇場」に興味を持った方は
是非劇場ホームページをご覧いただきたい!
そこでは私が撮影できなかった
劇場内部の様々な写真と共に
館主によるあっと驚く「大会」ポスターを
多数閲覧する事ができる!

首里劇場ホームページ

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