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山形探検記2020〜ブロニー君埋葬の謎
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山形探検記2020〜ブロニー君埋葬の謎

2020-01-20 15:00

    今は亡き実父「ごんぼちゃん」の父
    つまりは私の祖父「後藤嘉一(ごとう・かいち)」
    作家であり山形の郷土史研究家だった!
    そんな祖父、通称「かいっつぁん」が晩年
    こたつを挟んで
    孫の私にずいぶん面白い話をしてくれた事がある!
    それは私が「大阪で演劇をやっている」
    と報告した流れで出て来たものだった!
    かいっつぁんは
    「俺も昔は役者として舞台に立っていた。」
    と言う!
    かいっつぁんが戯曲作家でもあった事は
    生前から知っていたので
    元々は舞台俳優だったと聞かされても
    何の驚きもなかった!
    しかしそこから先の話に腰が抜けた!
    「ある舞台での話だ。
     出演してたし脚本も演出も俺がやった。
     けども演出で本当の火を焚いたら
     本番中に舞台装置に引火し
     劇場を全焼させ
     当時一番利子の低かった第一銀行(現・みずほ銀行)から
     多額の借金をして弁償した。」
    1905年生まれのかいっつぁんが
    20歳ぐらいの頃と推測される!
    「その借金を全然返せなくて
     利子は何倍にも膨れ上がり
     やがては500円にまでなってしまった。」
    私は怯えた!
    このじいさんは我々家族に
    とんでもない借金を残して死ぬつもりなのか!
    私はおそるおそる尋ねた!
    「その借金は結局どうなったの?」
    その答えはどれだけ我慢しても
    しりこ玉が5つは飛ぶであろう衝撃的なものだった!

    「んん。
     こないだ500円玉で返してきた。」

    第二次大戦を経て
    先祖代々の土地や財産を没収された者もいれば
    貨幣価値の変動で
    せっせと貯めたお金が紙くずになってしまった人もいる!
    ところがうちのかいっつぁんは
    演劇で劇場一軒を全焼させておきながら
    その罪を500円玉1枚で!
    わずか牛丼の並に玉子をつけたぐらいの価格で済ませたという
    ある種のレジェンドなのである!

    山形市は乾燥地帯だ!
    そのため人口の割に火事件数が多い!
    しかも昔の建物は木造だ!
    一度燃えたら
    燃やす事に飽きるまで炎は燃え続けたに違いない!

    中国では辛亥革命が起こった1911年(明治44年)!
    その5月8日!
    その日は先日の『ひろぐ』
    『山形探検記2020〜オットセイ「ブロニー君」の墓』
    で私が「ラヂオ塔」を探した
    「千歳公園」別名「お薬師様」で
    盛大な植木市が開催されていた!
    これは今でも続く山形市の伝統行事で
    千歳公園周辺の道路に
    いくつもの植木露店や屋台が立ち並ぶ!
    一昨年にたまたま訪れた際にも
    千歳公園内は
    お化け屋敷に入るの入らないのと
    大騒ぎする子供達で賑わっていた!

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    (2018年の植木市)

    火元は山形市で一番の繁華街である七日町通りの
    現在で言う大沼デパート隣にあるマンション
    (かいっつぁんが残した古い資料では「現ジャスコ」)
    辺りにあったお蕎麦屋さんだったそうだ!
    火は次々と燃え移り
    乾燥の中で南西からの風に煽られ
    山形新聞社や山形県庁(現・文翔館)をも焼いた!
    この炎の進路は奇しくも花笠祭りのコースだ!
    察するに多くの木造建築を燃やした煙は
    その時点で千歳公園の植木市を包み
    賑わう祭りを真っ暗闇にしていたに違いない!
    その恐怖は平和に生きる私ごときでは想像できない!
    やがて布を屋根にしていたであろう粗末な屋台をたどって
    炎は千歳公園全体を焼いた!
    公園の北東には「芋煮会」で知られる
    「馬見ヶ崎(まみがさき)川」があるため
    炎はそこでようやく止まったようだ!
    (★この火事は先のかいっつぁんが起こした出火とはまったく関係がない!)

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    (2018年の植木市
     炎はこの道を走って
     奥に大木が見える千歳公園を焼いたと思われる)

    火元を現在のマンションと明示した事で
    今そこに住む人々に不安を与えたかもしれないが
    案ずる事なかれ!
    山形市の繁華街ほぼすべてを焼いたこの大火では
    後の2次的被害を除いて
    直接被害で死んだ人は1人もいなかったようである!

    直接被害で死んだ唯一は
    人ではなく
    一頭のオットセイだった・・・。

    私が子供の頃にも
    千歳公園の植木市には移動サーカスが来ていた!
    植木市の数日前には一座が現れ
    テントの設営が行われていたので
    公園内を通学路としていた後藤3兄弟は
    毎日その様子を見て植木市開催にわくわくしていた!
    薬師堂前に置かれた檻に入ったチンパンジーと
    つばのかけ合いをした事もある!
    飛距離と臭みに圧倒的な差があり
    惨敗した悔しさを覚えている!

    1911年に山形という僻地で芸を見せるオットセイは
    さぞや人々を驚かせ
    多くの人に愛されたに違いない!
    だが「ブロニー君」という名のスーパースターは
    檻から出される事なく
    大火唯一の犠牲者となった!
    長時間黒煙に包まれた後の猛烈な炎!
    ブロニー君の檻には近づこうにも近づけず
    檻を探そうにも探せず
    悲鳴の中の大混乱でやむを得ずの事だったのだろう!

    「僕も最初は
     それを悲しんだ人たちが
     善意で柏山寺(はくさんじ)に埋葬した
     と思ったんですけどね。」

    「丸八やたら漬」社長にして
    「城下町やまがた探検隊」隊長の
    新関芳則氏は語った!

    「どうやら違うんですよ。
     後藤さんはブロニー君の隣のお墓も見ました?」

    ブロニー君の隣の墓?
    いやいや!
    まったく眼中になかった!

    「昔の話ですからね。
     お薬師様の市を仕切るのは
     当然地元の興行師。
     つまりはヤクザさんですよ。
     巡業サーカスと交渉して誘致するのも
     そんなヤクザさんの仕事です。」

    なるほど確かに!
    当時に芸をするオットセイを有するサーカス団は
    なかなかに大きな団体だったに違いない!
    それを呼ぶとなれば
    今も昔も移動費・滞在費などずいぶんな費用がかかる!
    その費用をも捻出して
    更に利益を出して関係者に分配する!
    これはなかなか有能な興行師でなければできない事だ!

    「ブロニー君のお墓の隣に並んでるのが
     その興行師の墓と言われてます。
     どうやらその興行師が
     ブロニー君を自分の家の墓と同じ墓地に
     葬ったようなんです。」

    新関隊長からそこまで聞いたところで
    点が線になった!
    同時に作家特有の病気が発症した!
    私の全身を一本のドラマが電流のように走り巡った!
    つまりはこういう事だ!

    まずは三味線の音!

    「情けねぇ!
     俺は情けねぇよ!
     俺の顔で山形まで来てもらったってのによ!
     俺の町でサーカスのスターを!
     ブロニー君を死なせちまった!」

    清川虹子が演じる嫁は言う!

    「落ち着きなよお前さん!
     火事になったのは
     なにもお前さんのせいじゃないんだよ!
     あたしらだってこれからこの焼け野原で
     どうやって暮らしていいか困ってるんじゃないか!
     たかがオットセイでそんなにしょげるんじゃないよ!」

    「やいてめえ!
     なんて事言いやがんでぇ!
     子供も大人もみんなをしっくるめて笑顔にしてくれた
     あのブロニー君を”たかがオットセイ”だと?」

    「こいつぁあたしも口がすべっちまった。
     あやまるよ。
     悪かったね。
     あれは賢くてかわいいオットセイだった。」

    「おうよ!
     それにだ!
     あの団長は故郷(くに)に帰りゃこう言うぜ!
     山形にゃ行くな!
     行ったら最後
     みんな焼き殺されちまう!
     あの興行師たぁ金輪際手を切った方が身のためだ
     ってな!
     そしたらどうだ!
     俺は親分子分にも顔が立たねぇ上に
     俺たちゃ夫婦でのたれ死にだ!」

    「だからってどうするんのさ?」

    「ここで仁義を通さなきゃ
     腹を切っても死に切れねぇ!
     おい!
     俺はちょっと出てくるぜ!」

    「どこ行くんだいお前さん!」

    「・・・柏山寺よ!」

    鐘が鳴る!
    カラスが鳴く!
    場面は柏山寺のお堂だ!

    「和尚!
     こんだけ言ってもわかってもらえねぇのかい!」

    和尚は軽く茶をすすって答える!

    「そない強うに言わはったところで
     人様のお墓に動物を埋めろ言うんは
     聞いた事もない話。
     檀家の方々にも何を言われるかわからしまへんえ。」

    「やいやいやい!
     俺だってその檀家の1人じゃねぇかい!
     これまでお布施をケチった事だっていっぺんもねぇ!
     そんな俺の頼みが聞けねえってのかい!」

    「まぁまぁ落ち着きなはれや。
     だいたい死んだオットセイに
     どないなお経を上げたらよろしいのん?」

    「面倒言うんじゃねぇや!
     いっつもみてえになむなむ言ってりゃそんでいいんだ!」

    「戒名はどないしはりますのん?」

    「戒名だと?
     そんなもんいりやしねぇ!
     墓石にゃ石工に頼んでこう掘ってもらうのよ!
     ”オットセイのブロニー君の墓”ってな!」

    「カタカナが多すぎますえ!
     無茶を言いなはんな!」

    「頼むぜ住職!
     この通りだ!」

    はかまをひるがえして土下座する!
    ここからがこの芝居の見せ場だ!

    「これこれちょいとちょいと!
     頭を上げなはれ!」

    三味線の音!
    「待ってました」の声!

    「この俺が土下座までして頼んでんだ!
     俺は残る一生これ以上の無理は一切言わねぇ!
     住職よ!
     なんなら俺を地獄に落っことしてもらっても構わねぇ!
     なんとか!
     なんとかブロニー君をこの寺で供養してやってくれ!
     檀家に気持ちわりいって言われんなら
     俺の墓の横にぴったり離さず並べてやってくれ!
     オットセイが化けて出てきたら
     この俺が!
     この”鬼の庄吉”が
     がっちり抱き止めてやるからよ!
     だから住職!
     後生だ!
     ブロニー君をこの寺に入れてやってくれえええっ!」

    (浪曲『ブロニー君 男の玉乗り一代記』作・玉川ひろひと より)


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    優しい市民によるありがちな人情話ではなかった!
    「オットセイ”ブロニー君”の墓」は
    任侠道の話だったのだ!
    人間の墓地にオットセイを埋葬する!
    こんな珍事は
    みんなでわいわい楽しく進められたわけがない!
    みんなで何かをやる時ほど反対勢力が生まれるはずだ!
    となればこんな事は
    独断での強行以外にあり得ない!
    そこには1人のヤクザによる
    意地と仁義と押しの強さがあったのだと私は確信した!
    なぜ庄吉が江戸っ子で
    柏山寺の住職が京都弁なのか!
    そんなのはどうでもいい!
    これはいずれ何かの形で語り継ぎたい
    極めて稀なアメイジング・ストーリーなのである!
    興行師、宮森庄吉に関して
    もっと深く調べてみたいのだが
    あまり深入りすると
    昨年より弊社が殊の外ぴりぴりしている
    反社会的勢力と関わってしまう可能性が高いので
    浅く浅く探ってみようと思う!

    何にせよ
    ここまで珍しい物を有する町であるにも関わらず
    ほとんどの山形市民が
    その存在も所在も知らないという事が猛烈に寂しい!
    これから山形を訪れる方があれば
    是非とも柏山寺でブロニー君の墓を参拝して頂きたい!
    恐らくここ100年は一輪もたむけられた事のないであろう
    花などを供えてくれる人が現れたら
    なんだか素敵な事が起こる予感がする!
    そしてはっきりと命日がわかっている
    5月8日を「ブロニー君の日」として
    毎年このユニークな話を思い出してもらえたらいいな
    と願う私である!

    そんな想いを込めて
    供養のために
    私なりのブロニー君を作った!
    見るからに敵ではないので
    いつかへなちょこヒーロー「チキンマン」を助けに入る事だろう!


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    「ブロニー君に関してはそんなところです!
     ラヂオ塔?
     山形のラヂオ塔ですか・・・。
     ラヂオ塔自体聞いた事がないんでねぇ。
     わかりました!
     機会があれば調べてみます!
     けど!
     私からも後藤さんにお願いしたい調査があるんです!」

    新関隊長が更に奇妙な話を始めた!

    「”なかたち石”って知ってますか?」

    いや!
    聞いた事もない!

    「すぐ近くにあるんですけどね!
     あ!
     それと!
     ”ケルアの謎”です!」

    なんだなんだ!
    「ケルアの謎」とはなんだ!
    そもそも”ケルア”って何だ!
    なんとも面白い事になって来た!
    自転車で回れる山形市の繁華街に
    世にも奇妙な物がまだまだ存在すると言う!
    私は新関隊長からの情報を元に
    更に自転車を漕ぎ出したのであった!

    次回!
    ハリー・ポッター的タイトルとなる
    「なかたち石とケルアの謎」
    にどうぞご期待下さい!

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