徹さんは、三学期が始まってからすぐに会いに来た。約束通り、四国旅行のお土産を持参した。いつも洋菓子ばかりだからと東京の和菓子屋で色々買ってきてくれた。
榮太樓總本舗という初めて聞く名の和菓子屋は、老舗らしく明治から作られているというシナモンをまぶした黒糖飴と、姉妹品として昭和二十年代に作られた鮮やかな緑色で抹茶の芳香が薫る抹茶飴は、徹さんが子供の頃に食べていたという。とても素朴な味がした。
祝い事があると徹さんの母親はこの和菓子屋で買っていたと聞き、彼が子供の頃から食べていた物の味を教えてもらえるのはとても嬉しいことだった。
玉椿の生菓子と柚子饅頭の包みもあった。季節の花や果実になぞらえた、生菓子の楽しみは茶道で知った。私がうっとり愛でていると、来月も買ってきてあげるよ、と彼は言った。そして今年も美味しいお弁当作ってよと言い、木屋の包丁をくれた。
元旦に解禁されたという小豆島土産のエキストラバージンオリーブオイルと、明治屋というスーパーでフランスパンとモッツァレラディブッファラという水牛の乳で作ったチーズを買ってきてくれた。それに瓶入りのジャムが一個。
昔から、母も祖母も季節の果物でジャムを作るので、市販の物を食べる機会は滅多になかった。
一月の柚子に始まって一年中柑橘類でマーマレードを作る。伊予柑、ネーブル、夏みかん、オレンジ、レモンと色や風味が違うマーマレードを楽しめた。春から採れる苺、六月のさくらんぼ、杏、ルバーブ、青梅、七月の葡萄、無花果、八月のプラム、ブルーベリー、ハスカップ、九月のさるなし、十月の洋梨、十一月の紅玉、十二月のみかんと、ジャムで季節を感じることができるのだった。
私は、彼が持って来たモッツァレラを木屋の包丁でスライスした。味と香りが濃厚でジューシーなモッツァレラに小豆島のオリーブオイルをかけて食べると、ハーゲンダッツのアイスクリームを初めて食べたときと同じ衝撃が甦った。