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木野龍逸の「ニッポン・リークス」
2014/10/2(No.012)
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[目次]
1.東電福島第一原発事故トピック
・吉田調書と作業員の安全確保━━労働者の命か社会の安全か、究極の二択を迫る原子力
・日本学術会議が提言ラッシュ━━住民が集団主体を形成できるかが復興のカギ
2.気になる原発事故ニュース
3.編集後記
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1.東電福島第一原発事故トピック
(1)吉田調書と作業員の安全確保━━労働者の命か社会の安全か、究極の二択を迫る原子力
連合大阪の月刊誌に、連合大阪労働安全衛生センターの西野方庸氏が興味深いコラムを書いている。タイトルは「労働者の退避権を考える」。朝日新聞の吉田調書の問題点を指摘しているのだが、逃げたかどうかを避難するのではなく、また従来の事故収束作業や社会安全の確保とも違い、「労働者の安全確保」を優先する視点になっているのが特徴だ。あたりまえだが、角度を変えるとまた違うものが見えるものだと感じた。
西野氏はコラムで、「もし厳しい状況の中で命令に逆らい、所員が独自の判断で別の退避判断をして何を責められるのか」と、記事への違和感を述べている。そして、「『フクシマフィフティ』だとか、わけの分からぬ英雄談義は緊急時の検証作業になんの役にも立たない」と断じている。
そのうえで西野氏は、「窮迫した事態に対応するとき、労働者の安全をどう守るのか、今回の事態に法令の運用と現実の対応がどうかみ合ったのか、それとも不具合を生じたのか」が問題であり、朝日新聞の記事はその視点を欠いたことこそ反省すべきだったと指摘している。
2011年3月14日、東電福島第一原発の事故に対応するため、政府は緊急時作業に対応するためとして放射線業務従事者の線量限度(実効線量)を100mSvから250mSvに引き上げた。この上限は、3月26日に事後承諾という形で放射線審議会が妥当性を認める声明を発表して認められた。実のところ、この声明を誰が、いつ、どのような形で議論して作成したのかは、今でもよくわかっていない。
つまり、極めて不透明な形で線量限度が引き上げられたのだった。ありていにいえば、少なくとも3月14日に250mSvに引き上げられる前に100mSvを超過した人や事業者は、その時点では違法状態にあったわけだ。
ところで問題なのは、今でも法的には、この3.11前の状態が続いているということだ。3.11後、線量限度が引き上げられたのは特例省令に基づく措置だった。つまり1回きりのスペシャルだ。だから、仮に今、大規模な事故が起こった場合は、また同じようになし崩し的な線量限度緩和が実施される可能性が高い。そして、それまでは100mSvを超えれば、またしても法律違反ということになる。本来は罰金などが発生するのである。
こうした事態を避けるためか、原子力規制委員会は9月4日から、放射線審議会の中で、ICRP2007年勧告の中の緊急時作業の扱いについて議論を始めた。まだ1回しか会議は開かれていない。
この議論について前述した西野氏に話を聞くと、「今の法律では100mSvを超える所には、行ってはいけないっていうことになっている。つまりそこで誰が倒れていても見殺しにしろっていうことになる」とし、「それをどうするのかを議論することになったと受け止めている」という認識を述べた。
ICRPの2007年勧告は、人命救助など切迫した状況であれば、作業者が情報をきちんと知らされた上で作業に当たる場合は、線量限度を設けていない。この場合の作業員は、活動に従事することで発生する可能性のある健康リスクについて理解し、緊急業務に従事するための訓練を受けたもので、かつ、その作業に志願した人に限定される。
それ以下では、救助活動に従事する場合は100mSv以下、緊急救助活動の場合は500mSv以下などとなっている。放射線審議会は、この勧告を日本に取り入れるとしたら、どのように他の基準と科学的な整合性を取っていくか、ということを議論していくことになる。緊急時作業のこの基準には、大きな違和感はない。
一方で原発の被曝労働には、科学とは別の観点がつきまとっている。仕事の確保だ。
福島第一原発は2011年12月の収束宣言によって、上限250mSvの省令がなくなり、平時の線量限度に戻っている。そのため、事故から3年半が経過して、ベテランが現場を離れるケースが増えてきている。
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