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  • 【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第三話第四章「反魂香」

    2022-03-30 21:56  
    200pt
    第三話第四章 反魂香
    著:古樹佳夜絵:花篠
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    ■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
    https://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2060929
    ※本作『阿吽』のご感想・ファンアートなどは#あうんくろねこ をつけてツイートいただけますと幸いです
    [本作に関する注意]---------------------------------
    本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信、譲渡(転売、オークションを含む)すること、あるいはSNSなどネット上への公開・転載等を禁止します。また、内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。
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    ◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆
    交流会から数週間後のことだった。
    吽野のもとに編集者の木村が訪れた。
    遅筆な作家の進捗窺いも兼ねて、茶を飲みに来たらしい。
    吽野は整っていない原稿を文机の引き出しに押し込んで、
    しれっとした態度をとった。
    そして何食わぬ顔で阿文の出した茶を啜った。
    木村「先日の平井先生の交流会、いかがでしたか?」
    吽野「いかがも何も、君の付き合いで行った交流会だよ? 楽しいわけがない」
    木村「いや、本当に。吽野先生が承諾してくださって、大変に助かりました。平井先生はうちの稼ぎ頭ですから」
    吽野「ごきげん取りのために俺をだしに使うなって」
    木村「先ほど平井先生宅にもお邪魔してきたのですが、大変に楽しかったと満足されておりましたよ」
    人嫌いの吽野は不満たらたらの表情で、煙管から煙を吸った。
    阿文は吽野の素直すぎる感情表現を咳払いでごまかした。
    何か、話題を変えねばならない。そうだ……
    阿文「そういえば……久多という人物を、木村さんはご存知ですか?」
    木村「久多……?」
    木村は首を捻った。
    阿文「はい。あの会にいらっしゃっていた、芸術家の男性なんですけど、平井先生のご友人のようで……」
    あの帰り道での気味の悪い出来事を、阿文は話そうとしていた。
    吽野は会話の成り行きを黙って聞いている。 
    木村は思い当たる節があるようだった。
    木村「ああ、先ほど平井先生が仰っていた方かもしれない。その男性なら、失踪したらしいですよ」
    阿文「失踪!?」
    驚いた阿文は声を張り上げた。
     
  • 【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第三話第三章「ウィジャボード」

    2022-03-22 20:45  
    200pt
    第三話第三章 ウィジャボード
    著:古樹佳夜絵:花篠
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    ■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
    https://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2060929
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    本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信、譲渡(転売、オークションを含む)すること、あるいはSNSなどネット上への公開・転載等を禁止します。また、内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。
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    ◆◆◆◆◆平井邸◆◆◆◆◆
    吽野「ほお。うめき声ですか?」
    吽野は目を細め、煙管から煙を吸った。
    与太話を真に受ける気もなく、失笑している。
    それを感じ取った阿文は心配した。皮肉屋の吽野のことだ、
    次にどんな失礼なことを言い出すかわからない。
    阿文は軽く咳払いし、平井に問いかけた。
    阿文「平井先生は、実際に聞いたことがあるんですが?」
    平井「ああ。執筆中に、聞いたよ、ううー……って低いうめきをね」
    平井は満足げな笑みを漏らす。
    吽野「ふ……」
    吽野はまたも鼻で笑った。
    平井をますます侮っているような態度だ。
    平井「おや、信用してないようだね? 吽野君」
    あけすけな態度は、平井にはバレていたようである。
    吽野がどうしてこんな態度を取るのか、阿文は大体のことを察した。
    先ほど、吽野がまじまじと観察していたコレクション。
    あれらは曰くありげであるにしろ、偽物なのだ。
    それを、吽野は見抜いたのかもしれない。
    吽野「確かに、あの絵は他のコレクションとは違う。この部屋の『嫌な気』の正体はこの絵だ。でも、うめくってのは、ちょっと出来過ぎかな〜って……平井先生の勘違いでしょう」
    阿文「吽野先生!」
     
  • 【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第三話第二章「呪われた人物画」

    2022-03-17 20:42  
    200pt
    第三話第二章 呪われた人物画
    著:古樹佳夜絵:花篠
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    ■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
    https://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2060929
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    本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信、譲渡(転売、オークションを含む)すること、あるいはSNSなどネット上への公開・転載等を禁止します。また、内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。
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    ◆◆◆◆◆平井邸◆◆◆◆◆
    平井邸は立派な二階建ての日本家屋だ。
    広い敷地をぐるりと取り囲む和塀。
    門の横には、美しく剪定された立派な松の木。
    さすが、売れっ子作家の家は違う。
    吽野と阿文がこそこそ話していると、
    庭の方から、和服を来た四十くらいの男がこちらにやってくるのが見えた。
    平井「やあやあ、その派手な格好。君が吽野君だね」
    吽野「あなたが平井先生ですか」
    平井「さよう、君を待ちわびていたよ」
    男はにかりと笑う。わざわざ、家主自ら出迎えてくれたのか。
    黒縁メガネに、神経質そうな細い眉。ごま塩の髪を撫で付けている。
    編集者から伝え聞いていた風貌の通りだ。
    平井「おや、そちらの青年は?」
    吽野「私の助手の……」
    阿文「阿文と申します。突然押しかけてしまい申し訳ございません」
    平井「構わんよ。さあ、もう他の参加者は来ている。二人ともこちらに入りなさい」
    吽野「ありがとうございます」
    平井「いやぁ、今日は会えて嬉しいよ。前々から君と話がしてみたくてね」
    吽野「ありがとうございます。まさか先生が私をご存知とは、意外でした」
    吽野のはりついた笑顔は完全に営業用だった。
    平井「そうかね? 我々の間では君は有名だよ。少々奇妙な文体ではあるが、その発想は他にはないものだ」
    吽野「もったいないお言葉、痛み入ります」
    普段、自堕落を絵に描いたような吽野が
    その道で成功を収めている先生に評価されている。
    隣で様子をうかがっていた阿文は感心し、
    吽野を誇らしく思った。
    平井「私が発起人となっている文学サロンでは、文人の他にも文学に興味のある芸術家も招いているんだ。月に二度ほど定期開催し、常連も多い。君さえ良ければ、ここに通うといい」
    吽野「はあ、考えておきます」
    吽野は笑顔を浮かべつつも、そっけなく受け答えした。
     
  • 【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第三話第一章「文豪の集い」

    2022-03-09 19:26  
    第三話第一章 文豪の集い
    著:古樹佳夜
    絵:花篠
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    ■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
    https://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2060929
    ※本作『阿吽』のご感想・ファンアートなどは 
    #あうんくろねこ をつけてツイートいただけますと幸いです
    [本作に関する注意]---------------------------------
    本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で
    複製、転載、配信、送信、譲渡(転売、オークションを含む)すること、
    あるいはSNSなどネット上への公開・転載等を禁止します。
    また
  • 【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第二話第四章「夕凪の記憶」

    2022-03-01 21:43  
    200pt
    第二話第四章 夕凪の記憶
    著:古樹佳夜絵:花篠
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    ■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
    https://ch.nicovideo.jp/kuroineko/blomaga/ar2060929
    ※本作『阿吽』のご感想・ファンアートなどは 
    #あうんくろねこ をつけてツイートいただけますと幸いです
    [本作に関する注意]---------------------------------
    本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信、譲渡(転売、オークションを含む)すること、あるいはSNSなどネット上への公開・転載等を禁止します。また、内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。
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    ◆◆◆◆◆追憶・汐◆◆◆◆◆これは、昔の話です。私には5つほど歳の離れた妹がおりました。
    名を汐(しほ)といいます。
    歌が達者な人魚でした。時たま海面に顔を出して、
    海鳥を真似て歌い、面白がっていました。
    そのうち汐は、近くを通る人間の舟唄など真似し始めましたので、
    私も面白がって汐の歌を聞きました。
    そのことを家族に咎められましたが、海の中はひどく退屈で、
    私たち兄妹は暇潰しに余念がありませんでした。
    私たちは岩礁に好んで泳いでゆきました。
    そこは砕破が打ち寄せる、険しく切り立った場所です。
    その一角に、地形の関係で潮が穏やかな窪みがありました。
    窪みは、二人が腰掛けるのにちょうどよかったのです。
    ここであれば、人間も近寄りません。
    その日、汐は海底で拾ったという
    珊瑚でできたかんざしを得意げに見せてくれました。
    汐 「兄さん、私の髪に飾って」
    夕凪 「いいよ」
    私は人間がそうするように汐の髪の毛にさしてあげました。
    汐はご機嫌になって、人間の歌を口ずさみました。
    汐 「私もっと歌が知りたい。人間と友達になるの」
    汐が言いました。もちろん、私は賛成しませんでした。
    人魚を捕まえて、すり潰しては不老長寿の妙薬だとありがたがる
    人間の野蛮さは親から聞かされていました。
    事実、私たちの世界では、
    人間と会うのも、話すのも、してはいけないことでした。
    皆が口を揃えて、禁忌だと子供に教えます。
    約束を違えたら、家族全員、仲間外れです。
    それでも汐は私に言うのです。