夜も八時を過ぎると海辺の町は闇と静けさに包まれる。イカ釣り漁の季節でもないので漁り火も見えない。遠くで江ノ島の灯台がぼんやりと灯っているだけだ。

 いつかどこかで見た、似たような光景が脳裏を掠める。
「ここではないどこかへ―――。」
 自分探しのキャッチコピーみたいな茫漠とした焦燥感に駆られ、旅をしていた頃の記憶だ。都会で暮らしていたときの話だから、少なくとも十一年以上は昔のことになる。離れてみてようやく、ずっと暮らしていた東京や横浜という都市のことが客観的に見えるようになった。