相模湾沿いの国道を左に折れ、長いトンネルを抜けると曲がりくねった道の両側に白いコブシの花が咲き誇っていた。
「コブシっていうんだよ」
 後部座席の娘に伝える。
「コブシトンネルだね」
 娘がうれしそうに言った。
 山越えの有料道路を使うと、僅か十分で半島の向こう側に出る。軍港が広がっている。横須賀の町だ。灰色の戦艦群。平和を維持するための戦争の道具。その存在と意味をまだ娘に伝えることはできていない。ぼく自身が納得できていないからだろう。戦争の道具があるから戦争になるんじゃないの、と聞かれたら返す言葉がない。なるべく視界に入れないように注意を逸らしながら素通りする。