風呂場から娘の啜り泣きが聞こえた。心配した妻が様子を見に行くと、その日学校であった嫌なことを思い出して泣いていたという。
「なんで帰ってすぐに言わなかったの?」
 妻が慰めながら質問した。帰ってきたときは笑顔だった。娘がその日あったことで泣くときは大抵そうだ。ずっと笑っていたのに、夕食の途中とか、寝る間際になって、不意に思い出したようにさめざめと涙を見せる。
「だって忘れてたんだもん」
 そういうものなのかもしれない。