ドナルド・キーンは一九二二年生まれ。米国出身の日本文学者。一九五三年来日。ドナル

ド・キーン著『日本文学の歴史1』(中央公論社一九九四年)において、後世の詩歌との異なりを指摘している。

①詩型と題材が豊富な歌集はほかにない、

②さまざまな社会階層の歌人が名を連ね、後世の、主として宮廷で作られた歌ばかりと異なる、

③何よりも、吐露されている感情の激しさが、歌に緊迫感と力強さを与えている。和歌や俳句といった短詩型では、明言できることが限られており、その限られた内容をふくらませるため、後世の歌人は暗示に頼ることが多かった。『万葉集』の歌にも暗示はみられるが、読者の印象として残るのは、歌人の体験と心情を直截に表現した特異な位置を占めている。

 ドナルド・キーンが最も重要視しているのは直截的表現の力である。

「万葉歌人は、単なる感傷にとどまらない真の悲劇、単なる感動にとど