平成30年度最後の文化レクリエーションは浜松市にあるYAMAHAイノベーションロードと掛川市のピアノ工場(ハーモニープラザ)を訪問。本会はネット上の音楽コミュニティをベースとして発足した性質上、会員にとって非常に親和性のある企画となりました。集合は浜松駅。新幹線を降りて改札に向かうと早速ピアノが出迎えてくれました。時折、ここで華麗な演奏をしている動画がYouTubeに上がっていますが現物を見ると感動するものですね。まさに楽器の街といったところ。改札を出るとたくさんの「餃子」の看板が目に飛び込んできます。毎年、浜松と宇都宮で日本一を争っているのも頷けます。浜松餃子、レク終了後にはしっかりと堪能してきましたよ。

- 浜松駅構内のピアノブース -
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 当日は絶好の晴天で、YAMAHA本社の青味ある外壁と深く溶け合っているかのようでした。イノベーションロードはここに併設する形で2018年7月にオープンした新しい施設です。詳細な展示内容については公式サイトを参照ください。見学には必ず予約が必要とのことなのでご注意を。100円返金式のコインロッカーも整備されていて好印象です。施設内は「動いている対象物(動画等)」以外は撮影自由。

- YAMAHA本社・INNOVATION ROAD・エントランス -
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- イノベーションロードのドーロ(言いたいだけ) -
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 入場してまず驚いたのは、展示してある多くの楽器が「演奏可能状態」で置かれていることでした。ピアノやシンセサイザーはもちろん、アコースティックギター・エレキギター・管楽器・ドラムスに至るまで、キチっとチューニングされていて気持ちよくプレイすることができます。
 ピアノはグランド・アップライト・エレクトリックと網羅的に設置されていて、やはり強い関心を引くのは同社の最高級シリーズ「CFX」グランドピアノが弾き放題となっていることでしょうか。気軽に触って良いものか戸惑いも感じつつ打鍵・音色を楽しみました。「いつかは家に置きたい」とは思えない価格でしたけれど(苦笑)。会員も思い思いに演奏を楽しんでいたようです。「次来るときは、事前に練習してから!」と密かな決意をしたという噂もチラホラと…。

- 展示楽器群 -
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 シンセコーナーは入場してすぐのブースに。私自身がシンセクラスタなので今回の楽しみの一つでしたが「まさかの出会い」があったのです。伝説のシンセ「VP1」が鎮座しているではありませんか。これまで氏家克典氏のセミナーに参加した時に「VL1」を目の当たりにしたことはあったのですが、最上位モデルのVP1には接したことがありませんでした。それこそTMNの終了ライブ映像(LAST GROOVE)の中でしか確認できなかった超絶レアシンセです。それが音出し出来る状況でサラッと設置されているのですから驚く他はありません。どうやっても出せなかったあの音、すぐそこにありました。ホント「YAMAHAさんありがとうっ!」と叫びたかったですよ。ちなみに当時の販売価格は270万円程とのことです。

-最上段にVP1-
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- VP1に興奮 -
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- 最上段に浅倉大介さんのサイン入りEOS B500が -
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 その他、YAMAHA社史に触れて我が国の音楽産業をどのように支えてきたのかを知り、スーパーサラウンドシアターで音のシャワーを浴びて、音響機器コーナーでPA体験、バーチャルステージでの自動演奏を観覧するなどしていると小一時間はあっという間に過ぎ去っていきます。特にPA機器を触りながら思ったのですが、こうした機材は暗いライブ会場での運用も必要な故かコントロールサーフェスの視認性が高かったのが印象的でした。シンセのフィジカルコントローラーにも同程度の実装があると理想的なのに、と感じた次第です。暗いところでシンセを弾いてるとエフェクト系のそれも色々と見えないので困ってしまうのです。YAMAHAに限らず楽器各社には改良を期待したいところではありますね。

-PA機器・ヴァーチャルステージ・楽器遺産・音叉マーク-
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 存分に楽器に触れて心身が満たされきったところで見学時間終了。人間と音楽って精神的な充実のためには分かちがたい結びつきがあるのだなと感じないわけにはいかなかったですね。見学後、イノベーションロードから掛川市のピアノ工場へ移動です。40分程の移動車中では興奮冷めやらぬ会話が飛び交っておりました。各自用意したお弁当を頂きつつ、「アスファルト タイヤを切りつけながら」ピアノ工場へと走ります。果たして待ち受けるものは!

- イノベーションロードエントランスにて集合写真 -
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 路面に鍵盤模様があつらわれたYAMAHAハーモニープラザ敷地内に滑り込んだ我々。この後の時間に期待を膨らませつつ建物に入っていきます。ピアノ工場の「迎賓館」的な立ち位置の施設と言って良いでしょう。早速受付を済ませて室内を見回していると本日一番の衝撃が訪れます。噂に聞いていた「小室哲哉スペシャル・EXPOピアノ」が眼前にいらっしゃるではありませんか!!
 青春時代に幾度も見返したTMNのライブビデオ(VHS…)。小室さんが華麗に奏でた「あの伝説のピアノ」が眼前に。圧倒的な本物感、威圧ではない迫力、それでいて包み込むような存在感、その全てが神々しい。気付いた時には夢中でカメラのシャッターを切っていました。きっと、他の会員も近しい感慨を持っていたのではないかと思います。このピアノについては後程語ります。

- ハーモニープラザ外観・エントランス・EXPOピアノ -
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- ピアノハンマーの挙動を見る -
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 見学にはMAA会員以外の参加者も数名いらしてました。ここもイノベーションロードと同様に完全予約制です。ただ、こちらは平日のみの開館とあって日程の自由度は高くありません。工場稼働日に合わせているのですから当然と言えば当然ですね。全員の受付が終了後、案内の方に従って見学開始です。ピアノに使う木材の伐採、乾燥、切断、金属成型といった工場外での作業を映像で視聴します。その後、実物の木材を見ながら見学開始という流れ。ピアノ弦を叩く鍵盤のハンマーに使われるフェルトは、なんと2トンの力で巻き付けられているのだとか。想像外の数字に一同唖然としていました。

- ピアノ使用木材・グランドピアノ断面模型・端材ツリー -
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 敷地内を歩いて工場に向かいます。細かい解説はここではしませんが(是非現地で説明を聞いてみてください)、張弦作業、弦を巻きつけるためのピンを打つ機械作業、複数回に渡る調律、使用国の環境に合わせた湿度管理(慣らし)、塗装工程、鍵盤高の調整、弾き心地の調整、機械による打鍵検査(300回!)、別ブースでの特注品製造、梱包に至るまでの一連の流れを目の当たりにすることができます。製造中のピアノが工場内をあちこちと移動するための信号機が設置されていて、実際に動いてくる姿を目にすると可愛げがあって微笑がこぼれます。その際、注意喚起のために誰もが知るメロディが流れるのがお茶目だなと感じました(サザエさんとか)。グランドピアノは一日に30台、アップライトピアノは50台ほど製造されるとのこと。合わせて年間2万台前後の生産になるようです。その出荷先の多くは海外、特に東南アジア・中国方面が多いという話。海外市場抜きには経営が成り立たないのが現実なのだなと再認識することとなりました。ざっと1時間程度の説明を受けてハーモニープラザに戻ります。
 ピアノは生き物。同じく木を原材料にする各種ギターもそうですが、同一製品でもそれぞれ鳴り方は異なるのだそうです。そのため高価格帯のピアノについては同じ商品を3台用意して、試奏の上で選択してもらうのだとか。私もお役を仰せつかって鳴りを確認させてもらいました。確かにそれぞれの音の傾向というものがあるようで、こういう仕組みを用意するのは顧客満足度を高める意味からも大事なことなのでしょう。もちろん音についてはあくまで好みの問題でしょうけれどね。「選択できる」という点は良いことだと思います。見学者へのお土産としてピアノハンマー(フェルト)を貰えます。

- お土産のハンマー(フェルト) -
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 さて、私たちにとっては工場見学が終わってハーモニープラザへと戻ってきて…からが真のミッションのような(笑)。見学予約時の案内では「状況次第でEXPOピアノを試奏可能な時間が取れるかもしれない」というニュアンスで受け止めていたのですが、いざそのタイミングになると弾き放題の様相でした。工場見学後に他のお客さんがいない状況になったらMAAの独占となってしまい、幸せこの上なかったですね。この日は偶然に本会の他には予約者も少なく空いていたので運が良かったのでしょう。なお、このピアノは設置当初からしばらくは「お手を触れないでください」という見学専用の扱いでしたが、方針転換によって演奏可能になったそうです。訪問者側の心情に立ったYAMAHAの配慮はとても好感が持てるものですね。

- EXPOピアノ -
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 弾ける弾けないに関わらず全会員がEXPOピアノに向かい合って写真撮影を。あのシンボリックな椅子もそのまま座ることができて、つかの間の「小室気分」に浸ることが出来たことでしょう。「月とピアノ」のテーマの世界観に緊張というか、感動というか、没入というか、複雑な「圧」が同時にかかってくる特異な体験をしたことは間違いありません。会員たちは皆、いつまでもピアノ周辺をウロチョロ、パシャパシャ、ナデナデ、屈みこんで本体の裏面チェック、椅子の持ち上げ等々、もしかするとハーモニープラザの職員さんからは「挙動不審軍団」に見えたのではないでしょうか(苦笑)。鍵盤クラスタの会員がプレイを始めると途端に聞き覚えのある音色が室内に鳴り伝わります。緊張の面持ちが傍目からもはっきりと感じ取れましたが、一方で深い充実感も去来していたに違いありません。 
 私自身、ありがたいことに演奏する時間を頂くことができました。もしプレイできるなら迷いなくTMN EXPOツアーで披露された「1991」を奏でてみようと決めていました。深呼吸して鍵盤に向き合います。VHSの先の小室さんの姿を脳裏に浮かべながら打鍵を始めると言い知れぬ感情が私の胸奥を包みます。思考は真っ白に、呼吸が幾分早く、血圧の上昇すら感じる始末。普段なら割とスラスラと動いてくれたはずの指も今日はガクガクに。説明できない「震え」があったのをはっきり覚えています。自分の中にNGが連発で出されるのです。もちろん「このピアノだから」ということがあるわけですが、同時に演者のプレッシャー自体についても脳裏をかすめます。それらを乗り越えていく方々に言い尽くせぬ敬意を抱くものでもありました。もちろん演者・プロフェッショナルというものはそういうものでしょうけれど、なかなか自分には出来ないことだなと思うばかりです。(参考動画:1991Time MachineIn the FactoryWe Love The EARTH/大地の物語

- 思わず手を合わせる -
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 あれこれと会員が各々で室内を周遊中にハーモニープラザの職員さんと会話したのですが、「このように団体でEXPOピアノを目的に訪れたケースは初めてですよ」と言っていたのが意外でしたね。もちろん個人での来訪はそれなりにあったようですけれど。いつまでもEXPOピアノに取り付いている私たちを見て「皆さん、小室さんのファンの方々なんですね」と仰ったので「見たまんまですねぇ」と応答しました(笑)。このピアノについてはYAMAHAとして金額は設定しておらず、なんと「備品扱い」なんだそうです。会計上、動産として処理する必要があるのでしょう。それにしても「備品」という響きと実態の愛でられ方との乖離が甚だしくて、まさに「月とピアノ」の距離感のようなコントラストを感じたのも印象的でした。

- 固定資産票 -
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 施設内にはYAMAHAの最新技術で作られたアップライトピアノも展示されており、説明によると「デジタル音源をピアノ響板で鳴らす」という製品とのこと。通常、デジタル音源を鳴らすのはスピーカー(本体内蔵であれ外付けであれ)と相場が決まってますが、タッチ感や響きをアナログ処理できる面白いピアノだと感じました。需要としてはニッチなところでしょうけれど、過去にない技術的アプローチが新たな音楽的感性を生むかもしれませんね。
 以上、イノベーションロード・ハーモニープラザ・ピアノ工場の訪問レポでした。総じて言えるのはYAMAHAのユーザーフレンドリーな企業姿勢がとても素晴らしかったということです。今回参加した催しは要予約ですが全て無料となっており、音楽愛好家のみならず、各種教育機関における社会見学の対象ともなっているようで広く社会に有益な場を提供していると感じます。特に「音を出せる状態で展示している」という点は高く評価したいですね。楽器というのはメンテナンスを必要とする「生き物」でもあります。不特定多数の人が直接触るのですから、調整頻度の多さやそのコストを考えると少なくない企業努力が投じられているものと考えて良いでしょう。

- EXPOピアノと集合写真 -
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 夢のような時間はあっという間に過ぎ去っていくものです。精神的には地に足が着いていないふわふわ感を抱きつつ、最後にEXPOピアノを囲んで会員と記念撮影。もう陽は地平線に向かって身を沈めにかかり、代わって月が静謐に挨拶し始める時間となっていました。「月とピアノ」がTMNによってテーマ化されてから28星霜。またいつの日か、このピアノと生みの親たる発注者が邂逅する日のあらんことを願いつつ、私たちはハーモニープラザから「音のない世界の中」へ、帰還・潜伏することとなったのです。