昨年は長野県小布施町を訪ねた全国レクリエーションですが今年は石川県金沢市を訪問しました。去年のレポートにも書きましたが、全国レクは会員所在地から候補を選定することにしています。
 各地に甚大な被害をもたらした台風19号の影響で新幹線の運行がどうなるかという状況でしたが無事に開催することができました。「前回からもう1年も経ったのか!」という感覚に包まれたのは会員共通の想いだったようです。11月9日(土)から2日間の設定で、天気も良く快適な滞在となりました。

 金沢の特色はあらゆるところで語られており、ここで改めて説明する必要もないでしょう。全国レクは会として年間で1番大きい行事ということもあって、会員の皆さんも大きな期待と楽しみを抱いての参加となったようです。初日の訪問先は「金沢21世紀美術館」。ここは現代美術を扱う拠点として著名で、金沢のランドマークとも言える存在感を放っています。訪問日も多くの来館者が入場券を求めて列を作っていて、関心の高さがうかがえます。今回のレポートはA.Wさんとぷらーりが分担して作成しました。以下、A.Wさんのレポートとなります。お楽しみください。



 「おもちゃ箱…だったね」

 「あぁ、なるほどね」
 復路の新幹線を待つ間、金沢駅のコンコースで21世紀美術館のポスターを見ながらMAA会員と交わした会話です。ポスターは高所からの撮影で、円形の施設に直方体の積み木のようなブロックが4つ刺さった格好であることがよく分かる画でした。屋根の中央には金色のフィギュアが誇らしげに(グリコ的に)両手を掲げています。
 「おもちゃ箱」の意味は二つあります。

 一つ目は、『レアンドロのプール』をはじめとした、我々が普段味わえない感覚や価値観のツボを針で刺すかのような作品群が醸し出す、「自由」や「無意識の偏見への挑戦」による「おもちゃ箱感」です。
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 長尺の映像作品や、トイレ内にも作品があったりと「21世紀」美術館の気概を感じるに十分な作品群でした。
 そして二つ目は「順路の無秩序さ」がもたらす「おもちゃ箱感」です。
 まず入場するとそこはチケット販売の大行列。MAA会員に教えてもらい事前にコンビニで発券を済ませておいて本当によかった…。
 次のハードルは館内の動線で、係員の方からの説明を受けても有料/無料エリアの区別や入口の場所がよく分かりません。気付くのにだいぶ労力を要しました。
 さらに、有料エリアは排他された2つのゾーンが隣接、かつ複雑に組み合わされており、順路の案内標識もなく、全ては鑑賞者の「自由」に委ねられていました。
 敢えてそうした設計になっているのだと思いますが、1つ目のエリアを歩いていて「お!」と興味を惹かれる作品が目に入っても、その作品は2つ目のエリアに設置されているため、そこに容易には辿り着けないんです。
 周遊性の排除それ自体に意味付けを行うのは現代アートっぽいアプローチではあるものの、展示された作品自体の記憶よりも館内で迷ったストレスの記憶が上回る経験は、個人的にはやや残念と言わざるを得ないものでした。
 ちなみに「容易に辿り着けない」ことをコンセプトとしたエリア設計は東京の商業施設にもあり、それは「六本木ヒルズ」です。美術館からエレベーターで降りるとそこはショッピングエリアで、慣れないと地下鉄の駅まで戻るのに一苦労するのは「敢えて」の設計なんですね。開業当初は案内板も殆ど設置されておらず、「迷い、探検しながら魅力を発見してもらえれば(もう少し消費してから帰ってもらえれば)」というコンセプトだったわけですが、今や案内標識の嵐に変わったことを鑑みれば、21世紀美術館についても順路の無秩序がもたらすメリット・デメリットの勝敗は自ずと見えてくるのではないでしょうか。
 いずれにせよ、作品と入れ物、あるいは場と鑑賞者の関係性という新たな着眼点を得られたという意味で、大変貴重なレクとなりました。(A.W記)



 少し小難しい話になってしまうかもしれませんが…。
 
 A.Wさんのレポ冒頭に「おもちゃ箱」という表現がありました。それを見た私の脳裏に浮かんできたのは「雑然・無秩序」といった概念(本当は「非秩序」という言葉を選びたいですが、一般的とは言えないため使いませんでした)。こうしてレポートを書きながら訪問時のことを回想していますが、確かに「おもちゃ箱」という表現は自分の認識とも遠からず合致しますね。
 美術館を訪問するのですから、当然に「美」について思索するわけです。「
美とは何か」という命題に解を得られるほど人類の知性は発達していないと考えますが、自分なりの見方は持っているつもりです。それは「『宇宙秩序天体物理法則』への抗い」という言葉に集約されます。
 
 人類が構築する「秩序たるもの」は宇宙秩序の視点からは「否」とされるものでしょう。我々の秩序は放置すれば避けがたく無秩序へと向かいます。エントロピー増大法則などとも呼ばれますね。それが宇宙の秩序であって、とすれば人類の秩序は良し悪しを抜きにして時限的な設計に過ぎないわけです。宇宙の秩序は無限とも思える長大な時間で私たちの秩序を飲み込んでいきます。「美とは人類の秩序と宇宙の秩序が鋭く対立するハザマに生成されているのではないか」と私は考えているのですが、であるならば無秩序感が漂う「おもちゃ箱」のような21世紀美術館をどのように捉えるかというテーマは思考実験として興味深い内容を持っているように思えました。

 21世紀美術館という建物は国家が規定する建築に関する法に従った「秩序ある建物」ですが、まるで鑑賞の歩みを阻むかのような館内周遊性の制限には秩序とは異なるものを感じ、展示されている現代美術群には初見者にとって掴みどころのない思惑が込められているようにも映る。各作品には説明パネルが添えられていますが、その解説するところが作者の意図通りなのかを検証する術もなく妥当性は謎のまま。「言語で説明する美」があるとするなら、今一つ本質に迫り得ない気もしてしまうのが私の良くない癖ですね。それから気になったのは館内で広く聞こえていた鳴りやまない「人間の吠え」。他ブースの鑑賞すら戸惑わせるような働きをしている印象がありました。館内に横断的に響いてくる「吠え」も一つの鑑賞スタイルとして入場者に提案されているのでしょうか。

 思案するに「戸惑いそれ自体」が秩序の衝突時に発生したりするのかなと解釈を捻り出してもみましたが、執筆段階で胸に落ちるような理解には届いておりません。ある種、こうした難解さを感じられるのも21世紀美術館の特色とも言えるのかもしれませんね。
 一方で「タレルの部屋」のように入る者に説明のつかない充実・解放感を与えるような領域も併存していて、多面的な表情を見せているのにも驚きました。会員さんがじーっとこの部屋で座っているのを目にしてホッコリするシーンも。

- タレルの部屋(天井がパックリ空いてる!)で会員さんが和んでいました -
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 それから館内にはマクドナルドラジオ大学( 
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=73&d=111 )が設置されていました。これ、面白いですね。100円で「講義+1drink」が提供されます。この講義は貸し出される小型音楽プレイヤーで録音物を聴くというスタイルのもの。私は歴史学とブラックコーヒーを選択してしばし耳を傾けました。衒学的なものではなく、話者自らの経験を語るような「歴史学」で好感が持てました。台湾出身で現在は輪島市在住の夫人教授が担当でしたね。何やら観光関係の組織を作って能登半島をアピールする様な仕事をされていたようです。今日、街づくりにおいては着地型観光(DMO)に注目が集まっていますが、地元の観光資源を地元の人間が掘り起こしてブランディングしていく営みを地で行く感じ。これを台湾の人が主導するあたりが興味深い。祖父祖母が戦前から日本との絡みがあって縁を感じて来日するくだりなどが「歴史学」っぽいのかなと思いながら聴いていました。

- 視聴しながら考え込んでいる筆者(右)-
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 総じて、「この美術館は興味深い」という印象が残りました。「普通は…」という価値観をあちこちで揺さぶってくるのは確かで、むしろ退館してからの方がじわじわと胸に迫ってきます。期間を空けて再訪した時にどんな気持ちになるか、一つの楽しみを作れたかのような喜びが心に宿った気がします。設定した3時間の鑑賞時間を終え、館内でMAAアセスメントを行って、意気揚々と宿泊先である湯涌温泉・かなや旅館に向けて出発。もちろん、「21世紀美術館をどう捉えるか」という問いに何の応答もできないまま…ではありますが(苦笑)。(ぷらーり記)

- 美術館の入場チケット購入は長蛇の列 -
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- 作品を見上げる姿も一つの芸術か -
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- レアンドロのプール -
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- 周遊性やレイアウトについての研究も進んでいる -

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- 重力を目視できるようにすると…!? -

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- なぜ現代美術作品をコレクションし、保存するのか -
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- 地階のチェアー群 -
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